自動運転車業界で深刻な淘汰が進行中
フォードとフォルクスワーゲン(VW)出資の自律走行車プロジェクトが頓挫した。長期に渡って巨額の先行投資を要する自律走行車ビジネスは、世界的な不況観測の中で、シビアな淘汰の季節を迎えている。
フォードとフォルクスワーゲン(VW)出資の自律走行車プロジェクトが頓挫した。長期に渡って巨額の先行投資を要する自律走行車ビジネスは、世界的な不況観測の中で、シビアな淘汰の季節を迎えている。
フォードとVWは、共同設立した自律走行車新興企業「Argo AI」への支援を打ち切る。このニュースは、フォードが、資本支出をAlgo AIが開発しているレベル4(L4)の先進運転支援システム(ADAS)から、自社開発のL2+/L3自律走行技術にシフトする戦略的決定を行ったと発表したことに拠る。
フォードは、Argo AIが新たな投資家を集められず、Argo AIへの投資について27億ドルの税引き前損失を計上したことを認めている。2017年、フォードはArgo AIに今後5年間で10億ドルを投資し、フォードの将来の車両に搭載する自律走行システムを開発すると発表した。その後、2020年にVWはフォードと電気自動車(EV)の開発だけでなく、Argo AIと自律走行技術で協働することで合意した。また、VWはこの契約の一環として、Argo AIに出資することになった。
フォードのCEOであるジム・ファーレイは、レベル4ADASや完全自律走行車については楽観的であるが、それは長い道のりであり、フォードが自らその技術を生み出す必要はないと述べた。さらに、L2+/L3システムはすでに顧客にメリットを与えており、フォードが収益と利益の可能性を拡大するのに役立つという。フォードは2028年までに、L2+/L3技術が統合されたコネクテッドビークルが世界で3,000万台以上走行することを期待している。
VWは、同社から手を引き、自社の自律走行車開発会社CARIADとの協業を続け、今年初めに上場したインテルの自律走行ソフトウェア、Mobileyeとの提携を拡大する予定だという。ただし、CARIADはうまくいっていない。開発したOSの品質は悪く、前CEOのクビが飛んだ。「自動車業界の人間ではソフトウェア開発を指揮できない」と揶揄されている。
CARIADは最近、自律走行車用AIチップを開発する中国企業Horizon Robotics(地平線機器人)との協業を発表した。これは、今後は広く社外のリソースに頼るということのサインかもしれない。
自律走行車の企業やサプライヤーは、自律走行車技術の開発に合計で約750億ドルを費やした(ブルームバーグ推計)。ただ、この圧倒的な先行投資が収益化という出口に到達していない。
金利引き上げが行われ、景気後退観測が漂う中、上場している自律走行車企業は災難の季節を迎えている。Aurora Innovation、TuSimple Holdings、Embark Technologyの株価はそれぞれ今年、少なくとも80%下落。インテルが自律走行ビジネスであるモービルアイの目標バリュエーションを160億ドル程度に引き下げたのも当然で、10カ月前に想定されていた500億ドル超の評価額の3分の1以下だ。
トヨタ、デンソー、ソフトバンクグループが出資するAuroraの最高経営責任者であるクリス・アームソンは、9月に社内メモを送り、コスト削減、非公開化、資産の分離、あるいはAppleやMicrosoftへの売却を試みるという見通しを示した。
自律走行車新興企業のキャシュバーン(資金燃焼)は非常に速い。例えば、GM傘下の自律走行車新興企業Cruiseのコストは、前年同期の3億3,200万ドルに対し、約5億5,000万ドルに達した。第2四半期の営業損失は6億500万ドルを超え、昨年の3億6,300万ドルから増加した。費用の増加は、Cruiseのロボタクシーサービスの活性化による人員増と、報酬費用の変更に起因すると、カイル・ヴォクトCEOは述べている。
Embark Technologyは典型的なブームの被害者だ。この新興企業は、自律走行する小型トラックのためのソフトウェアを販売している。Tiger GlobalとSequoia Capitalは、同社が1億1700万ドルを私的に調達した際の初期の支援者に数えられている。特別目的買収会社(SPAC)との合併上場の一環として行われた6億1,400万ドルの追加資金により、Embarkは上場時に52億ドルのバリュエーションを記録した。
「上場からわずか1年で、Embarkは前四半期末の手元資金を下回るバリュエーションになってしまった。株価は上場当時から97%も下落している」と米リサーチ会社Crunchbaseのレポートは指摘する。
Crunchbaseのリストに掲載された企業のうち、最も大きな損失を出した3社は、自律走行車の必要不可欠なセンサーと考えられている光検出・測距(LiDAR)技術の開発に携わっている。LiDAR新興企業のQuanergyは、株式価値の99%を失い、11億ドルの上場時価総額からわずか1,600万ドルにまで下落した。
これは、金利の上昇と不況に際して、エコシステムで淘汰が起きている、と見るべきである。Waymo、Cruise、Baidu、Pony.aiのような先頭集団は当初想定されたほどではないものの、着実にゲームを前に勧めている。先頭集団にはGoogle、GM、百度、トヨタ等の大手企業が背後でファイナンスを支えている。一方で、「その他大勢」はより脆弱な財務と進捗状況の上に置かれており、自律走行がいつ実現可能になるのかについて懐疑的なムードが漂っている。
しかし、ユースケースは世界各地で拡大し続けている。Cruiseはサンフランシスコのロボタクシーサービスをアリゾナ洲フェニックスとテキサス州オースティンで再現する予定だ。Waymoはロサンゼルスで乗車サービスを開始し、ダラスとヒューストン間でビールの運搬も行っている。百度のロボタクシー事業は、8月末の発表で、同サービスの乗車回数が100万回を突破している。Apollo Goは現在、中国の主要都市(北京、上海、広州、深セン)を含む10以上の都市で利用可能だ。
フォードのような企業が自律走行技術を自社で達成する必要はないとし判断したことは、Nvidia、Intel、Qualcommなど、自動走行システムやシステムオンチップ(SoC)を開発している企業にとって、喜ばしいことだろう。彼らは、フォードのような企業に対して自律走行車用のコンピュータとソフトウェアをバンドルで提供し、高額のサブスクリプションを売ろうとしている。