日本勢、技術要件のやさしい自律路線バスに活路

日本企業は、ロボタクシーほど技術的要件が高くなく、なおかつ輸送効率に優れる自律路線バスに活路を見出している。ギグワーカーを必要とする時代遅れのライドシェアと異なり、自律バスはスマートシティへの扉を開いてくれる。

日本勢、技術要件のやさしい自律路線バスに活路
レベル4認可の取得に至ったGLP ALFALINK相模原の走行環境と自動運転バス車両。ティアフォーのAutowareを搭載する。出典:ティアフォー

日本企業は、ロボタクシーほど技術的要件が高くなく、なおかつ輸送効率に優れる自律路線バスに活路を見出している。ギグワーカーを必要とする時代遅れのライドシェアと異なり、自律バスはスマートシティへの扉を開いてくれる。


ゼネラルモーターズ(GM)傘下の自律走行車(AV)企業クルーズがロボタクシーの全ての操業を一時停止してからわずか数週間後、米ミシガン州アナーバーの自律走行車新興企業May Mobility(メイ・モビリティ)が多額の投資を獲得した。本ラウンドは、NTTがリードインベスターとなり、トヨタ・ベンチャーズ、あいおいニッセイ同和損害保険など日本勢が含まれ、1億500万ドルの資金を調達した。今回の資金調達により、メイ・モビリティの2017年の創業以来の調達総額は約3億ドルに達した。

メイ・モビリティの特徴は自律走行バスへのフォーカスだ。同社は現在、AV技術を搭載したトヨタのミニバン「シエナ」(乗車定員7〜8人)をジオフェンスの中で展開することを目標にしている。シエナの乗車定員7〜8人で運行規模は、ジオフェンスの中に1、2本のバス路線を想定する。つまり、クルーズやアルファベット傘下のウェイモのようにサンフランシスコやロサンゼルスのような交通量が多くカオティックな大都市のど真ん中ではなく、郊外や地方で決められた路線を行ったり来たりするものだ。

メイ・モビリティは、米国の様々な都市で取引を行い、2024年初頭までにサンフランシスコ東部を含むさらに多くの地域に進出する計画で、静かに拡大している。同社は、都市との実質的な複数年契約を通じて、非効率なバスサービスをAVで置き換えることを重視しており、これは、より高い費用と展開の課題に直面する大規模な競合他社よりも、より迅速かつ実現可能な収益につながると考えている。

今回の取引の重要な点は、NTTがメイ・モビリティのAV技術を日本で独占的に販売する権利を得たことだ。NTTはプレスリリースで「需要が見込まれる地域に対して、自動運転サービスの社会実装を進めていきます。特に、NTTグループと2020年3月より、スマートシティビジネスの長期的かつ継続的な協業関係にあるトヨタとは、今後の自動運転に関する車両の提供を含む取り組みにおいても連携を深めていく予定です」と述べている。

このような取り組みは、菅義偉前首相や河野太郎デジタル大臣が推進するライドシェアとの本格的な競争を控えているだろう。ライドシェアは、タクシーとの違いが、モバイルアプリによる予約と支払いに加え、新たに個人請負者ドライバーの仕事を生み出すことにある。これは「ギグワーカー」と呼ばれるが、質の低い労働であることが知られている。カルフォルニア大学バークリー校のジェームズ・パロット教授とマイケル・ライヒ教授は、ギグワーカーが、最賃以下で働いていることを示唆する研究を発表した。

シアトル市のライドシェアドライバーの報酬は最賃以下
カルフォルニア大学バークリー校のジェームズ・パロット教授とマイケル・ライヒ教授(ともに経済学)にシアトルにおける配車ドライバーの賃金を、シアトル市の依頼を受けて調査した。パロットらは、シアトルの配車企業で働くドライバーの賃金は、最賃を大きく下回り、自ら自動車などの設備投資費を負ったがために転職が難しい事実上の従業員であると指摘。シアトル市にドライバーの最低報酬基準を提案した。

これに対して、自律バスはギグワーカーを要さずして輸送需要に応対できるため、日本の少子高齢化に伴う人手不足の文脈にきれいに合致する。日本はタクシー運転手やバス運転手、ギグワーカーを確保できなくなりつつある。現在大型キャンペーンが展開されているライドシェアの議論は、スマートシティに対するAV導入の呼び水として十分に機能しているだろう。

オープンソースの自律走行ソフトウェアに妙味

ここには興味深いプレイヤーがいる。それは、オープンソースの自動運転ソフトウェアを開発するティアフォーだ。2023年10月20日、彼らの自動運転システムが、日本最大級の物流拠点「GLP ALFALINK相模原」での運用において、道路運送車両法に基づくレベル4の自動運転システムとして認可を受けた、と同車は発表した(トップ画像)。これは歩行者と一般車両が共存する道路で、道路インフラに頼らずに自動運転装置が自律的に動作するシステムとしては、日本で初の認可となる、と同社は言った。

ティアフォー、レベル4自動運転の認可を取得 設計プロセスをオープン化へ
株式会社ティアフォーのプレスリリース(2023年10月20日 14時00分)ティアフォー、レベル4自動運転の認可を取得 設計プロセスをオープン化へ

ティアフォーは、オープンソースの自動運転車用オペレーティング・システム「Autoware」に基づいており、センサーシステム、コンピュータシステム、車載情報通信システムから構成されている。これにより、様々な車両に対応可能で、様々な事業者が取り入れることができる。同社は、このレベル4認可で得たプロセスや設計を全て公開し、自動運転の社会実装に貢献すると宣言している。

ソフトウェアビジネスではしばしば、プロプライエタリ(専売的な)なものとオープンソースなものの競争が演じられるものであり、技術と市場専有で先行した側がプロプライエタリを採用し、追随側がオープンソースで「強者以外の連合」を形成する。スマートフォンOSでは、アップルが電話機とiOSを完全に統合するプロプライエタリなモデルで先行し、グーグルがどの電話機にも搭載できるAndroidで連合を形成した(最近は電話機にも手を伸ばしているが)。

今後、ティアフォーは自律走行システムの性能向上を図り、政府が目標とする市街地でのレベル4認可取得や、2025年までに50か所以上、2027年までに100か所以上の自治体への自律走行システム導入に貢献する計画という。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史