ソフトバンクGはどこまで沈んでいるか?

ソフトバンクグループ(SBG)は資産を売却し、借りれるだけ借りようとしている。同社の苦境の「一端」は5月11日の決算発表で露見するだろう。同社の類まれな「複雑さ」が真実の大半を隠し続けるかもしれないが。

ソフトバンクGはどこまで沈んでいるか?
2018年11月5日(月)、日本の東京で行われた記者会見でのソフトバンクグループ株式会社の会長兼CEOである孫正義。Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

ソフトバンクグループ(SBG)は資産を売却し、借りれるだけ借りようとしている。資産の急激な縮小と負債比率の高まりが関係しているだろう。5月11日の決算発表はSBGの今後を占う上であまりにも重要だ。


SBG及びソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)1が100%保有する英半導体大手Armは、米国証券取引委員会(SEC)に、Armの普通株式を対象とした米国預託株式(ADS)の新規株式公開(IPO)に関するForm F-1のドラフトを非公開で提出したことを公表した。IPOの完了後もArmが引き続き連結子会社であることを想定しているという。

ブルームバーグが以前報じたところによると、銀行団は上場時の評価額を300億ドルから700億ドルの間で提示していたそうだ。NVIDIAとの取引では、付帯的な条項を排除すると、約320億ドルと値付けされた。当時は資本市場が熱気を帯びていたが、いまは冷めており、半導体不況の真っ只中でもある。ArmはRISC-Vというライバルの圧迫を受けている。

Armの上場には、時間的制約があったようだ。SBGによる英国規制当局への提出書類では「Armの親会社であるSBGの子会社が2022年3月に、Armの株式の75.01%を担保として80億ドルを借り入れる契約を金融機関と結んだことが明らかにされている」。この書類を調査したElectoronics Weeklyの報道によると、SBGが今年9月末までにArmを上場させるか、正式にIPOを申請しなければ、Armが債務を負担することになるというのが、この融資の条件だった。

担保に入らなかったArm株25%は、10兆円ファンドのSVF1に現物出資されている。SBGはSVF1に合計280億ドルを出資したが、その一部はSBGが保有するArm株式の約25%分で賄われた。これはSVF1の運用資産の一部となった。

SBGの有価証券報告書は、SVF1が10−12月期 において5,548億円(為替レートは10−12月期におけるSBG基準に準拠)を抱えていると報告している。これはロンドンに拠点を置くSVF1がArm株を担保とした借り入れを行った可能性を示唆している。

資金調達に東奔西走

SBGの資金調達は活発だ。毎日新聞の山口敦雄の報告によると、SBGは4月3日、国内の個人投資家を対象に「ハイブリッド社債(劣後債)」を発行すると発表した。償還期間は35年、利率の仮条件は年4.1~5.1%である。

この劣後債は、劣後性や繰り延べ条項、任意償還など複雑性を伴うもので、個人投資家のリテラシーを問うもののようだ。ただ、日本の個人投資家における孫正義会長への信奉がまだ衰えていないのか、これを売る金融機関の熱意が高いままなのか、劣後債は完売したようだ。

SBGの台所事情は忙しい。フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、SBGは今年、株式先渡契約を通じて約72億ドル相当のアリババ株式を売却した(株式先渡契約は現物決済が原則である)。FTがSECに郵送された規制当局の提出書類を分析した結果、この取引によってSBGは保有するアリババ株式をわずか3.8%に減らすことになるという。SBGはかつて、アリババの34%を保有していた。

データプロバイダーであるThe Washington ServiceがFTに対し提供した資料によると、過去14ヶ月間、SBGはアリババ株3億8,900万株の先渡契約を通じた売却で一株当たり92ドルを得た。これはアリババの史上最高値である1株317ドルをはるかに下回っている。SBGは12月下旬に3,000万株、27億ドル相当を売却した後、2月に4,600万株の先渡で約45億ドルを調達。これらの先渡契約は、5月11日に公表される1−3月の四半期の業績報告に計上される予定であるという。

この旺盛な資金需要が意味することは何だろうか? 同社の負債比率の高まりと資産の急激な縮小に関係しているだろう。

急激に縮小するソフトバンクG
ソフトバンクグループ(SBG)は急激に縮小している。私の独自算定では負債比率は最大60%にせり上がり、純資産は7.1兆円まで急減した。複雑な財務構造を持つ同社。潜在的な損失はすべて会計認識されたか、それともまだ残っているのか。

私の独自算定では、10−12月期の決算におけるSBGの純資産価値(NAV)は7.1兆円、資産に対する負債比率であるLoan to value(LTV)は最大60%(下のスプレッドシート参照)。これはSBGが主張するNAVやLTVよりも悪い数値である。

SBGのLTV、NAV算定[吉田拓史、株式会社アクシオンテクノロジーズ作成]
22年10−12月期 区分,種別,残高(億円),残高(億ドル)本体負債,借入金,3,690本体負債,社債,57,212本体負債,リース負債,111本体負債,CP,1,930資金調達子会社負債,借入金,20,494資金調達子会社負債,株式先渡契約金融負債,28,516資金調達子会社負債,ドイツテレコム株を利用したカラー取引,4,328偶発負債,SVF1投資コミットメント残額,4,517,32偶発負債,SVF2投資コミットメント残額,7,481,53,※SBGの裁量でなかったことにできそうなため控除偶発負債,自社株買い,-傘下ファンド負債,SBノーススターの負債,-…

そして、これはSVB破綻以降のプライベート資本市場の状況を織り込んでおらず、孫が抱え込んだユニコーンの群れがダウンラウンドに直面するリスクを想定しないものだ。今後行われるであろうバリュエーションの調整を踏まえると、同社はもっと深いところに沈んでいる可能性がある(下の記事参照)。

ソフトバンクG、SVB破綻で泣きっ面に蜂
シリコンバレーバンク(SVB)が破綻しソフトバンクグループ(SBG)は新たな大ダメージを受けかねないと観測されている。過去1年間、資産価値を急減させてきた同社にとっては泣きっ面に蜂である。

10−12月期の決算報告でSBGが、苦境に立たされているのは明確だった。来週の5月11日の決算では、SBGがどこまで沈んでいるのか、その様子が露わになるかもしれない。もちろん、これまで同様、同社の類まれな「複雑さ」が真実の大半を隠し続けるかもしれないが。

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