ソフトバンクG、SVB破綻で泣きっ面に蜂
シリコンバレーバンク(SVB)が破綻しソフトバンクグループ(SBG)は新たな大ダメージを受けかねないと観測されている。過去1年間、資産価値を急減させてきた同社にとっては泣きっ面に蜂である。
シリコンバレーバンク(SVB)が破綻しソフトバンクグループ(SBG)は新たな大ダメージを受けかねないと観測されている。過去1年間、資産価値を急減させてきた同社にとっては泣きっ面に蜂である。
ベンチャーキャピタル(VC)の潜在的な評価損の拡大が取り沙汰されている。昨年は公開市場のテクノロジー株が急落したが、VCの大口プレイヤーたちは、今のところ、緩やかな下落を報告するのみだ。
ソフトバンクグループ(SBG) はその筆頭と言えるだろう。WSJが引用したジェフリーズの試算では、SBGはソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の上場保有株の価値が2022年初めから50%以上下がったのに対して、非上場保有株では20%しか評価損を出していない。
SBGが2020〜2021年に投資スタイルを模倣していたとみられるタイガーグローバルは、2022年に同社のVCファンド全体で未公開企業への投資額について約33%の評価損を行ったと、関係者がWSJに対して述べている。その結果、タイガーグローバルが保有する世界中の新興企業に対する230億ドルの価値が失われたという。
ここにSVBの破綻が追い打ちをかけている。SVBは米テクノロジー業界の中心的存在であり、米VCが支援するテクノロジーおよびライフサイエンス企業の半数近くが同行に預金を持っていた。この業界への新規資金がすでに枯渇している中で、スタートアップは新興企業向けの高利の負債であるベンチャーデットに依存していた。このベンチャーデットの供給は、SVBが支配的だった。
スタートアップは、いわゆるダウンラウンド(以前の資金調達よりも価値が下がる資金調達ラウンド)を嫌がるため、代わりに負債調達を選ぶ傾向がある。PitchBookとNational Venture Capital Associationの報告書によると、米国のVCが支援するハイテク新興企業の負債取引額は、昨年290億ドルに増加した。SVBのハイテクおよびライフサイエンス企業の顧客は、2022年前期の平均で融資残高が163億ドルとなり、2021年同期比で23%増だった。
SVBの破綻は、VCやプライベートエクイティの選択肢を奪い、ダウンラウンドを受け入れ、評価損の先送りを止め、未上場スタートアップの持ち株の価値を下げる要因になる。多くの新興企業にとって負債調達が難しくなり、より高い利息を受け入れざるを得なくなる。SVBに代わるベンチャーデットの供給者が現れない限り、ダウンラウンドを受け入れるスタートアップが続出することになるだろう。そうすると、SBGやタイガーグローバルは膨大な含み損を新たに抱えることになる。SBGは公開企業のため、この含み損を抱え込んだままにし続けるのが難しいはずだ。
(それでもWeWorkへの投資の損失を計上するのに非常に長いタイムラグがあった。これは日本の規制当局が「ザル」と謗られても不思議ではない)
さらに、銀行が連鎖的に破綻し、UBSが深手を負ったクレディ・スイスを買いそうな状況下では、金融システム自体がどうなるかもわからない。リーマンショックの再来のようなシナリオでは脆弱なプレイヤーが執拗に探されるだろう。SBGはそのリストの高い順位にいる可能性がある。
SBGは上場を維持できるか?
SBGの財務状況を整理してみよう。私の独自算定に基づくと、直近の決算における純資産価値(NAV)は7.1兆円、資産に対する負債比率であるLoan to value(LTV)は最大60%である。これは、同社のNAVとLTV算定を精査し調整したものだ。私のモデルは、SVF1の優先株主への分配によってSBGが将来的に確実に負担すると予想される損失をも織り込んでいる。詳細は以下の2つのブログとスプレッドシートを参照してもらいたい。
SBGの急激な縮小は、私の独自算定だけでなく、公に主張されるNAVでも起きている。同社にとって唯一の主張点は、英半導体企業ArmのIPOである。ロイターの関係者談話を基にした報道では300億〜700億ドルでの取引を進めているとのことだ。仮に700億ドルの値札がつくなら、SBGはだいぶラクになる。しかし、この報道はSBG筋からのリークが大元にあるかもしれず、尻に火のついたSBGの願望を投影している可能性を排除できない。
SVBの破綻以来、 SBGの株価は急落し、これが孫の自社株買いの意欲に火をつけるとの観測もある。孫の資産はSBG株に集中しているとみられ、その35%(2月13日時点)はすでに担保差し入れ済み、とブルームバーグのMin Jeong Leeらが報じた。株価が下がれば下がるほど、孫は追証を求められる。経営権喪失を防ぐためには自社株買いは有力な手段である。
一方、孫が経営権を失うシナリオは、現実味を帯びつつある。その場合、会社の生き残りを主導するのは、みずほグループ出身の最高財務責任者(CFO)である後藤芳光になりそうだ。みずほはSBGの各エンティティに最も債権を保持しているようだ。後藤は最近の決算説明会では孫の代わりに報道陣の質問に答えている。
この状況下での自社株買いは毒のようなものだ。自社株買いでキャッシュが減れば、膨大な構成企業のあらゆる場所で莫大な借金をしている「ソフトバンク財閥」への信用は揺らぐ。金利上昇によってすでに増した資本コストが、さらに増すことになるだろう。すでに最近組まれたSBGの社債は、以前よりも高い利率を約束するようになっている。
孫はポーカーテーブルの上にチップの山を置いているから、ディーラーは、体から白い煙を出している孫にカードを回している。このチップを自社株買いで減らせば、カジノは孫が借りたカネを返せるか疑い始めるのも時間の問題だ。SVBやシグネチャー、シルバーゲートが他所のカジノで木っ端微塵になったいま、猜疑の目はいっそう強く向けられるだろう。
孫にとって朗報なのは、SBGの株価は、少なくとも弊社が算定するNAV(7.1兆円)の水準までは下がっていないことだ。市場参加者はSBGにはもっと価値があると見ているようだ。
ただ、この7.1兆円はSBGが主張する未上場株の価値に基づいたものである。より厳格にバリュエーションを算定すると、おそらくもっと低い地点にあるだろう。そしてすでに述べたとおり、SVBの影響が及ぶことで、バリュエーションはもっと深く沈むことになる。
これを踏まえると、SBGは「どこまで深く沈むのか」を見守る段階にある。そして「それは『致命的な深さ』かもしれない」のだ。