「クルマの私有」は衰退する:ロボタクシー規模拡大が示唆する有力なシナリオ

自動運転のタクシーやバスが都市交通の中で確かな手段になり始めた。人々が交通手段として私有車を選ぶ理由は減り、自動車販売は2020年代にピークアウトする――このようなシナリオは本命筋のものになりつつある。

「クルマの私有」は衰退する:ロボタクシー規模拡大が示唆する有力なシナリオ
出典:Waymo

自動運転のタクシーやバスが都市交通の中で確かな手段になり始めた。人々が交通手段として私有車を選ぶ理由は減り、自動車販売は2020年代にピークアウトする――このようなシナリオは本命筋のものになりつつある。


米サンフランシスコでは現在、AlphabetのWaymoとゼネラルモーターズ(GM)が支援するCruiseの2社が24時間365日対応の無人運転サービスを提供している。このサービスは、UberやLyftといった従来の配車プラットフォームと同様の機能を持つ。ただし、利用者は車両到着時に「Waymo One」アプリを使ってドアのロックを解除し、車内のタッチスクリーンかアプリを使う必要がある。これらのサービスは24時間利用可能だが、乗客の種類や対象地域が限られている。

WaymoとCruiseは今年、事故の増加を報告しており、有料のロボタクシー拡大に反対する議員の意見もある。それにもかかわらず、Waymoは来年の夏までに、サンフランシスコとフェニックスで乗車数を毎週1万件から10万件に増やすことを目指している。サンフランシスコ、 テキサス州オースティン、アリゾナ州フェニックスに300台のカスタマイズされたシボレー・ボルトEVを配備するCruiseは、2025年までにロボタクシーの売上を10億ドルに到達させる計画だ。しかし、両社のサービスを収益化する取り組みは規制当局の承認を待っている。米カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)は6月29日、Waymoの料金徴収を含む許認可に関する決定を下す予定だ。

中国のテクノロジー大手の百度は先週、深センでセーフティドライバーなしの配車サービスを商業的に運営するライセンスを取得した。百度のロボタクシー「Apollo Go」は、188平方キロメートルに及ぶエリアで毎日午前7時から午後10時まで運行する。ユーザーは「Apollo Go」アプリ、百度のマップアプリ、百度アプリなど複数のプラットフォームからサービスにアクセスできる。

今回の拡大は、百度の完全無人配車サービスの中国全土へのリーチを広げる重要なステップとなる。2023年、百度はさらに200台の完全自律型ロボットタクシーを追加する計画で、世界最大の完全無人配車エリアの運営を目指している。Apollo Goのユーザーベースは2022年にほぼ倍増し、2023年第1四半期までに200万台以上の乗車数を提供した。

深センでは、トヨタも出資する自律走行企業Pony.aiと地元当局の間で交わされた契約により、ロボタクシーのパイロット・プロジェクトの開始が確定した。中国共産党系の中国日報は20日、契約は深圳前海深港現代サービス業協力区の行政機関、旅行サイトのOntime、Pony.aiの間で結ばれた、と報じた。

現在の自動運転技術の開発は、特定の特殊な領域、如何に都市型ロボタクシーやロボシャトル(自律走行バス)、宅配、トラック輸送、高速道路の運転等に集中している。一般の消費者が購入する「パーソナル・ロボカー」は、テスラを除いてほとんどの主要企業が優先的な課題とみなさなくなった。

テスラはこの分野において他のチームに比べ大幅に遅れを取っており、業界内での評価も相対的に低いとされている。

テスラは自動運転技術で遅れをとっている
独メディアにリークされた内部文書は、テスラの自動運転技術の安全性をめぐる問題に懐疑的な見方を与えるだろう。さまざまな混乱を経て、テスラはこの分野で遅れているという観測は決定的と言っていいだろう。

ワシントン・ポストは、半自動運転技術が関係する米国内の自動車事故の80%以上が、テスラの「オートパイロット」と「Full Self-Driving (FSD) 」に関連している、と報じた。テスラの技術は、1年足らずの間に少なくとも11件の死亡事故に関わっており、これは過去3年間を合わせた数字の約2倍にあたるという。同紙は、自動車メーカー各社が米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)に報告したデータを用いて、テスラの半自動運転技術によって引き起こされた米国での自動車事故を追跡したと説明している。

McKinsey Center for Future Mobilityの調査によると、自律走行車の実現可能性が高まり、都市が過密状態と闘うにつれ、個人所有の自動車が世界の交通機関に占める割合はますます小さくなっていくという。米メディアAxiosに提供されたマッキンゼーの新しい推計によると、2035年には自家用車が交通機関の29%を占めるようになり、2022年の45%から減少する。

世界は自家用車の衰退への入り口を迎えているかもしれない。マッキンゼーの「The future of mobility」報告書は、2035年までに、欧州連合(EU)の自動車販売台数は2015年比で20%近く減少し、米国ではさらに30%減少すると予測している。「自動車販売台数は、今後数年間で世界的に増加し、2020年代の終わりにはピークに達し、その後、2015年の8,500万台から2035年には8,400万台まで減少する可能性があるという」と報告書には記述されている。

マッキンゼーが2月に発表した報告は、消費者は今後数年間、ロボタクシーとロボシャトルの他の交通手段よりもコストの恩恵を受ける可能性がある、と主張した。米国ではロボタクシーが、欧州ではロボシャトル(自律走行バス)が好まれる可能性が高い。ロボシャトルは自家用車からシェアを大幅に奪う可能性があり、都市と市民は自家用車からスペースを取り戻すことができる。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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By 吉田拓史