テスラは自動運転技術で遅れをとっている

独メディアにリークされた内部文書は、テスラの自動運転技術の安全性をめぐる問題に懐疑的な見方を与えるだろう。さまざまな混乱を経て、テスラはこの分野で遅れているという観測は決定的と言っていいだろう。

テスラは自動運転技術で遅れをとっている
Full Self Driving (Beta) 出典:テスラ。

独メディアにリークされた内部文書は、テスラの自動運転技術の安全性をめぐる問題の詳細を知らせた。さまざまな混乱が提示する状況証拠が、テスラはこの分野で遅れているという観測を決定的なものにしている。


独メディアのハンデルスブラット(Handelsblatt)が取得した2万3,000のドキュメントによると、2015年から2022年の3月までの欧州、米国、アジアの事例に基づき、テスラの自動運転技術には深刻な問題が存在している可能性が示唆されているようだ。

Handelsblattによると、この期間、テスラの顧客は2,400件以上の自己加速の問題と1,500件以上のブレーキの問題を報告しており、その中には「意図しない緊急ブレーキ」の報告が139件、誤った衝突警告による一時停止の報告が383件含まれているという。

テスラの自律走行の経緯

  • リコールを余儀なくされる。2月、テスラはフルセルフドライビング・ベータ(FSDベータ)ソフトウェアを搭載した2016~2023年モデルS、モデルX、2017~2023年モデル3、2020~2023年モデルYの一部車両、または搭載を保留しているものをリコール。規制当局は、このシステムが交差点付近で車両が危険な行動を起こし、事故を引き起こす可能性があると指摘した。リコールは、同ソフトウェアを搭載した362,758台もの車両に影響を及ぼす。
  • 自律走行の方向転換。昨夏、AI部門チーフのAndrej Karpathyが退任。彼は自律走行をカメラのセンシングデータのみで実現するアプローチを主導していた。マスクはかつてカメラ等を補足するセンサーであるLiDARを「松葉杖」と呼んだことがある。テスラは、Karpathyの退任と同時期に画像にタグを付ける数百人のアノテーターを解雇していた。
  • WaymoとCruise、中国勢が突き放す。彼らが運営するロボタクシーは北米・中国で導入が進んでおり、運転手なしの運用も行われている。テスラは大量生産のビジネスモデル上、ロボタクシーは社内で利益相反が生じている。WaymoとCruiseは、サンフランシスコ市内全域で24時間営業のセーフティドライバーなしロボタクシーを運賃を課す最終承認を得る目処がついた、と報じられている。
  • 半導体でかつては先行。テスラは2015年、有名半導体エンジニアのジム・ケラーを採用し、車載SoCを設計。ADAS(先進運転支援システム)と自律運転の要求に伴い、車載半導体の高度化が求められたことが背景にあった。
  • 下位のランクに。自動運転技術に取り組む大企業を毎年ランク付けしている調査・コンサルティング会社のGuidehouse Insightsが最近ランク付けした16社のうち、テスラは最下位だった。
  • 敗者が淘汰。昨年、フォードとフォルクスワーゲンが支援する自律走行車事業、Argo AIが閉鎖された。二番手集団のAurora Innovation、TuSimple Holdings、Embark Technologyは営利化の道筋が立たず、身売りが取り沙汰されている。

同社の自律走行技術

自動運転技術の「Full Self-Driving (FSD)」は約40万人の顧客を抱える。FSDは、テスラの顧客には月額99ドル以上で提供されている。また、古いテスラモデルを持つ顧客の中には、FSDコンピュータをインストールするために追加料金を支払う人もいる。

3月の投資家向け説明会で、テスラのオートパイロット・ソフトウェア担当ディレクター、アショク・エルスワミは「現在、車内の8台のカメラから視覚データをリアルタイムで収集し、障害物の存在やその動き、車線、道路、信号などを識別する3D出力を行い、車の意思決定を助けるタスクをモデル化するAIシステムを備えている」と説明した。

エルスワミは、自律走行車が歩行者、信号機など車の周りの環境と相互作用した後、走行判断を下すのに必要な応答時間が50ミリ秒である、と話した。

テスラは、世界各地で変化する道路状況や交通の傾向について車からデータを収集することで、生データを増強(この多量の生データがテスラの優位性になるという観測も存在した)。テスラはアルゴリズムを使って車線、道路の境界、縁石、横断歩道、その他の画像を再構築し、それを基に車両のナビゲーションを支援する。テスラには、敵対的な天候や照明条件、さらには現実世界では稀な他の物体の動きまで合成できる高性能なシミュレーターがある、とエルスワミは話している。

同社は現在、データセンター(「Dojo」と名付けられている)の14,000個のGPUでAIシステムを稼働。約4,000個のGPUがオートラベリングに使用され、残りの10,000個はトレーニングに使用されている。Dojoは、自社製AI半導体のD1チップを採用している。

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