ネットフリックスが広告付き廉価版を検討する背景
ネットフリックスは19日、向こう数年以内に広告付きの低価格プランを導入する方針を発表した。Photo by Nicolas Savignat on Unsplash

ネットフリックスが広告付き廉価版を検討する背景

ネットフリックスは19日、向こう数年以内に広告付きの廉価版を導入する方針を発表した。廉価版を導入した際には広告収益が望めるものの、上級プランの顧客がダウングレードするリスクもある。広告は打ち出の小槌ではない。

吉田拓史

ネットフリックスは19日、向こう数年以内に広告付きの低価格プランを導入する方針を発表した。共同創業者のリード・ヘイスティングスは、アナリストとの電話会議でさりげなく戦略の変更を打ち出し、Netflixが「来年か再来年には」広告に支えられた廉価版のサービスに取り組むと語った。

ヘイスティングスは長年、広告を表示したくない考えを示していた。だが、1〜3月(第1四半期)に会員数が20万人減り、2011年以来の純減を記録したことを踏まえ方針を転換する。ネットフリックスは4〜6月(第2四半期)にさらに200万人減る見通しも示しており、かつて年間2,500万人以上の会員増を記録していた同社にとって大幅な後退となりそうだ。

11月以来、Netflixは市場価値のほぼ3分の2を失い、アナリストはその落ち込みをドットコム・クラッシュになぞらえている。10月にはハイテク大手「FAANG」(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、グーグル)の一角として時価総額が3,100億ドル近くにまで高騰し、歴史的な株価上昇を遂げた後、950億ドルまで縮小している。Netflixの株価は水曜日だけで38%以上急落した。

モルガンスタンレーは、長期的にはNetflixが広告から「数十億」を稼ぐことができると予想しており、ライバルサービスのHuluでは広告が年間約30億ドルの収益を上げていると見積もっている。

Netflixにとって、広告システムを追加しても開発上の追加費用はそこまでかからない。同社の個々人に最適化したコンテンツ群を提案するレコメンド・エンジンは広告ネットワークに応用可能である。入札システムとキャンペーン作成用のインターフェイスを除けば、Netflixのパーソナライゼーション・インフラには、パーソナライズ広告の配信に必要なものは含まれている。

ネットフリックスが広告の採用をためらう理由
Netflixは長らく広告付きサービスの導入について否定してきた。しかし、成長鈍化が態度の変化を迫っている。だが、広告がもたらすう不利益は広告が生み出す利益によって相殺可能ではないのかもしれない。

Netflixの機械学習インフラの貢献はユーザーエクスペリエンス(UX)の至るところに存在する。経済的利益は相当なもので、2015年の論文では、Netflixの研究者が「パーソナライゼーションとレコメンデーションの複合効果により、年間10億ドル以上を節約している」と推定している。この統計が今日出されたとしたら、ほぼ間違いなくもっと高い数字になっているはずだ。

ただ、ヘイスティングスは19日の電話会議で、Netflixは、この目的のために独自のソフトウェアを構築するのではなく、広告技術機能を外注する可能性が高いと語っている。「我々は、純粋なパブリッシャーであり、派手な広告マッチングや人々に関するすべてのデータの統合を他の人にやってもらうことができる。だから、そのようなことには手を出さないようにできる」。

彼のこの発言の趣旨を憶測すると、Netflixはプロプライエタリ(専売的)な広告プラットフォームを作らず、オープンなプラットフォームを作り、他社のプラットフォームと統合することを意味しているように聞こえる。Netflixの規模があれば、プロプライエタリなプラットフォームを作るほうが、価格や掲出広告への支配が効き、サードパーティがもたらしうる混乱を回避できるのではないだろうか。発言は決算内容を踏まえたスピーディなものであり、深いリサーチに基づいていないと見るのが妥当だろう。

広告の採用には2つの採用方法が存在する。1つがSpotifyやYou Tubeのような広告付き無料部分と広告なしの有料部分にサービスを分割することだ。Netflixのコンテンツに費やしているコストを勘案すると無料はありえないため、広告付き低価格の区分を設けることになるだろう。

SpotifyやYou Tubeは広告付き無料部分で獲得した顧客を広告なしの有料会員へと育成する構造をとっている。Netflixは広告付き低価格プランでも同様の戦術が予想され、低価格帯の契約をカットしない程度までUXを悪化させて、通常の有料会員へと育成するようにするだろう。ユーザーの行動を見ながら製品に微調整を加えるのはNetflixのお家芸でもある。

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しかし、廉価版が生まれることで、月平均15ドルを支払っている米国とカナダの7,500万世帯のような同社の収益源のコアを傷つける可能性もある。彼らが15ドルのプランをダウングレードしてしまったら元も子もないのだ。Netflixの競合事業者が先行している広告付き廉価版の賭けは、割引サービスによって新規加入者を十分に増やし、結果として顧客基盤を拡大させることを目的としている。ただ、それをうまく成立させるバランスは未発見のままだ。

救いは、広告主が深い興味を示していることだ。「Netflixの視聴者、特にこれまでテレビ広告でリーチするのが難しかった若い富裕層世帯にリーチしたいという広告主の需要は、かなりある」と、信用格付け会社TransUnionのメディア・エンターテインメント部門シニアバイスプレジデント、アンドレ・スワンストンはWSJに対して語った。