競合他社の半分以下: アップルのアームへの驚きの低ロイヤリティ料

ソフトバンク傘下のチップ設計会社アームは、アップル製品が競合他社のパフォーマンスを上回るのを助ける重要な役割を果たしている。しかし、金のなる木を持つアップルはその影響力を行使し、通常よりも低い料金で済ませているようだ。

競合他社の半分以下: アップルのアームへの驚きの低ロイヤリティ料
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ソフトバンク傘下のチップ設計会社アームは、アップル製品が競合他社のパフォーマンスを上回るのを助ける重要な役割を果たしている。しかし、金のなる木を持つアップルはその影響力を行使し、通常よりも低い料金で済ませているようだ。


アップルは、iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TV、HomePodに使われている半導体の知的財産権(IP)をアームからライセンス供与されている。アップルは半導体設計会社のP.A.Semiのチームが、アームのIPを基にカスタムチップを設計することで、それまで重要な役割を担っていたインテルなどを追い出し、独自半導体の道を進んでいる。iPhoneの成功にアームは一定の寄与を示しているだろう。

しかし、The InformationのWayne MaとCory Weinbergのレポートによると、アップルはアームの最大かつ最も重要な顧客の1つであるにもかかわらず、アームの年間売上高の5%未満に寄与するのみであり、同社が支払うスマートフォンチップの顧客はアームの中で最も少ない、という。アップルは、コア数に関係なく、自社のデバイスに使用される各チップに対して一律30セント以下のロイヤルティを支払っているだけだ。

How a Lopsided Apple Deal Got Under Arm’s Skin
In 2017, SoftBank CEO Masayoshi Son gathered a group of executives from Arm Holdings, the British chip designer SoftBank had just bought, to complain about one of its most important customers: Apple. In a conference room in Tokyo, Son told the group that Apple paid more for the piece of plastic…

これは、アームのスマートフォン向けチップの顧客の中で最も低いロイヤリティである。アップルのロイヤルティは半導体設計企業の上位2社、クアルコムと台湾のメディアテックの半分程度にとどまっているとされた。アップルとの取引はサプライヤーに絶大な信用を与えるため、アップルは値引きを要求するとされ、ときには赤字での取引を受け入れる場合あるとされている。

アップルはアームの父とも言える存在で、父の威厳は相当なもののようだ。アームは元々、複数のハイテク企業による合弁会社としてスタートし、アップルもその創立メンバーだった。設立後の1993年、アップルはアームが設計したチップを心臓部に搭載した携帯情報端末(PDA)である「Apple Newton」を開発した。

アームのオーナーのソフトバンクグループ(SBG)の孫正義は、2017年には同社のCEOがアームの幹部を集め、アップルはアームの知的財産のライセンス料よりも、新型iPhoneの画面を保護するために使われていたプラスチックの価格の方が高い、と不満を明らかにしたという。しかし、SBGはアームとアップルとの契約について、ロイヤリティの引き上げを再交渉しようと試みたが、失敗に終わったようだ。

レポートでは、孫がアップルのCEO、ティム・クックに電話をかけ、アームが主要なスマートフォンやチップの顧客全てに対して値上げをすると伝えたことが述べられている。しかし、クックのチームが指摘した通り、当時の契約は2028年まで続いていたため、アームは料金を値上げすることができなかった。このため、孫はその計画を取りやめた。以降、アップルとアームの間で何度か交渉は行われたが、アップルとの契約の財務条件はほぼそのまま維持されていると、この問題に詳しい関係者が述べている。

アップルとアームとの現在のライセンス契約は9月に締結され、「2040年以降も続く」ものだが、アームは継続的に財務条件の再交渉を試みているという。

アップルがアームとの関係を断ち切る可能性は低いが、同社はRISC-Vと呼ばれる競合するオープンソース技術をチップに使用する長期的な可能性を模索しているようだ。アップルは以前、RISC-V技術者の求人を出していた。iOSの対抗馬であるAndroidは、一足先にRISC-V移行を進めている。

ソフトバンク傘下アームの将来に暗雲:AndroidのRISC-V移行
携帯電話OSのAndroidが、英半導体会社Arm(アーム)からRISC-Vへと移行する兆しを見せている。推進するのは、アームの最大顧客である米半導体大手クアルコムと、Androidの親であるGoogle。ソフトバンクグループ傘下のチップ会社の「スマホの城」に暗雲が漂っている。

クアルコムとも火花

アームの戦線は半導体大手クアルコムに対しても広がっている。2022年8月、アームはクアルコムとその子会社であるNuviaに対して、Nuviaのライセンス契約違反と商標権侵害を理由に訴訟を起こした。Nuviaはアップルの半導体設計チームの元メンバーが設立した会社で、アップルシリコンの技術アプローチをクアルコムにもたらしていたとされている。アームは、より高いロイヤリティを支払うか、独自の技術を破棄するよう要求した。

この訴訟により、クアルコムがアームの技術を利用してWindows PC市場に参入する計画が損なわれるかのように見えた。10月下旬にクアルコムはPC向けのチップを発表したが、この発表と訴訟との関連性については明確に説明されていない。このことから、アームとの訴訟がクアルコムの製品戦略にどのような影響を与えているのかは不明な状況だ。クアルコムの幹部は訴訟が始まった後、アームのことを「レガシーアーキテクチャ」と非難している。

アームのクアルコム提訴は不合理:対抗馬RISC-Vへの移行を早めるか
英半導体大手Armによる米半導体大手Qualcomm提訴は、Armアーキテクチャの市場シェアを拡大しようとするQualcommの試みを頓挫させる不合理な梯子外しだ。QualcommにはArmの対抗馬RISC-Vに投資するインセンティブが生まれた。

サンディエゴに本社を置くクアルコムからのロイヤルティは、スマートフォン用チップの世界最大のサプライヤーであり、3月期のアームの売上高26億8000万ドルのうち、ほぼ3億ドル(11%)を占めている。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
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アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

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