岸田政権のスタートアップ投資「5年で10倍」目標は小さすぎる

岸田政権はスタートアップ投資を「5年で10倍」に増やす目標を立てているが、10倍に増やしても2021年のインドの投資額に及ばない。目標はもっと高く設定されなければならないはずだ。

岸田政権のスタートアップ投資「5年で10倍」目標は小さすぎる
2022年7月11日(月)、東京の自民党本部で記者会見する岸田文雄首相兼自民党総裁。Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

岸田政権はスタートアップ投資を「5年で10倍」に増やす目標を立てているが、10倍に増やしても2021年のインドの投資額に及ばない。目標はもっと高く設定されなければならないはずだ。


政府は1日「スタートアップ担当大臣」を新設することを正式に決定した。岸田政権はスタートアップ企業への投資額を5年で10倍に増やす計画を打ち出しているという。

「5年で10倍」というと野心的な目標に聞こえるが、そうでもない。日本は世界の潮流に乗り遅れたスタートアップ後進国だからだ。

2021年、世界は未曾有のベンチャー投資ブームを経験した。CB Insightsによると、全世界のベンチャー投資額は過去最高の6210億ドルに上り、米国で3,110億ドル、欧州932億ドル、中国901億ドルとなっている。

昨年は新興国・地域に大きな萌芽があった年でもある。日本経済新聞が7万社以上のベンチャー企業の資金調達データを持つオランダの調査会社、ディールルームからデータの提供を受けて行った分析を基にすると、インドは477億ドルに到達している。東南アジアは257億ドル(DealStreetAsia調べ)、南米は148億ドル(PitchBook調べ)である。

では、2021年の日本の実績はどの程度なのか? 前述の日本経済新聞の分析を基にすると、日本は35億ドルとのことだ。「日本は11位の35億ドルで全体に占める割合は0.57%だった。日本より上位の国にはほかに英独仏、スウェーデンなどの欧州各国やイスラエルが含まれる」と日経は書いている。

この数字は納得行くものだ。2021年の国内でのベンチャーキャピタル(VC)・コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の投資額は2,277億円(一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター)。これに補足されていない、事業会社、個人投資家、海外投資家等の取引を加え、さらに隣の活況を呈したプライベート・エクイティ市場のグロースエクイティ案件のほんの一部を加えると、35億ドル程度になるのではないだろうか。

上述の日経が引用したディールルームのデータでは、為替レートは現在の円安を織り込んでいないとは思われるため、1ドル=110円と想定すると、やはり適切なレンジのように推察される。

さて、35億ドルを10倍にすると、350億ドルとなるが、これはインドの今年の実績に劣るわけだ。東南アジアも今後伸び続け、5年後には350億ドル以上のレンジにいるのではないだろうか。

「5年で10倍」ではインドや東南アジアよりも小さいということになる。誰もが忘れつつあるが、日本は世界で3番めの経済規模を誇っている。対GDP比という観点では、「5年で10倍」は少なすぎるように見受けられる。

参考文献

  1. CB Insights, State of Venture 2021.
  2. Bain & Company, India Venture Capital Report 2021.

関連記事

ベンチャーキャピタルの明るい新時代
破壊的なビジネスに資金を提供するベンチャーキャピタルのビジネスが活況を呈し、それ自体が破壊されている。様々なプレイヤーが参入した結果、すべての投資段階で目もくらむような競争が起きている。

エンジェル投資を募集

50万円以上から弊社に投資できます。ぜひご検討を。

エンジェル投資を募集中です
株式会社アクシオンテクノロジーズ代表取締役社長の吉田拓史です。次世代ビジネスニュースメディア「アクシオン」を運営する弊社はエンジェル投資を募集しております。

Read more

コロナは世界の子どもたちにとって大失敗だった[英エコノミスト]

コロナは世界の子どもたちにとって大失敗だった[英エコノミスト]

過去20年間、主に富裕国で構成されるOECDのアナリストたちは、学校の質を比較するために、3年ごとに数十カ国の生徒たちに読解、数学、科学のテストを受けてもらってきた。パンデミックによる混乱が何年も続いた後、1年遅れで2022年に実施された最新の試験で、良いニュースがもたらされるとは誰も予想していなかった。12月5日に発表された結果は、やはり打撃となった。

By エコノミスト(英国)
中国は2024年に経済的苦境を脱するか?[英エコノミスト]

中国は2024年に経済的苦境を脱するか?[英エコノミスト]

2007年から2009年にかけての世界金融危機の後、エコノミストたちは世界経済が二度と同じようにはならないことをすぐに理解した。災難を乗り越えたとはいえ、危機以前の現状ではなく、「新常態」へと回復するだろう。数年後、この言葉は中国の指導者たちにも採用された。彼らはこの言葉を、猛烈な成長、安価な労働力、途方もない貿易黒字からの脱却を表現するために使った。これらの変化は中国経済にとって必要な進化であり、それを受け入れるべきであり、激しく抵抗すべきではないと彼らは主張した。 中国がコロナを封じ込めるための長いキャンペーンを展開し、今年その再開が失望を呼んだ後、このような感情が再び現れている。格付け会社のムーディーズが今週、中国の信用格付けを中期的に引き下げなければならないかもしれないと述べた理由のひとつである。何人かのエコノミストは、中国の手に負えない不動産市場の新常態を宣言している。最近の日米首脳会談を受けて、中国とアメリカの関係に新たな均衡が生まれることを期待する論者もいる。中国社会科学院の蔡昉は9月、中国の人口減少、消費者の高齢化、選り好みする雇用主の混在によってもたら

By エコノミスト(英国)
イーロン・マスクの「X」は広告主のボイコットにめっぽう弱い[英エコノミスト]

イーロン・マスクの「X」は広告主のボイコットにめっぽう弱い[英エコノミスト]

広告業界を軽蔑するイーロン・マスクは、バイラルなスローガンを得意とする。11月29日に開催されたニューヨーク・タイムズのイベントで、世界一の富豪は、昨年彼が買収したソーシャル・ネットワーク、Xがツイッターとして知られていた頃の広告を引き上げる企業についてどう思うかと質問された。「誰かが私を脅迫しようとしているのなら、『勝手にしろ』」と彼は答えた。 彼のアプローチは、億万長者にとっては自然なことかもしれない。しかし、昨年、収益の90%ほどを広告から得ていた企業にとっては大胆なことだ。Xから広告を撤退させた企業には、アップルやディズニーが含まれる。マスクは以前、Xがブランドにとって安全な空間である証拠として、彼らの存在を挙げていた。

By エコノミスト(英国)