米資本のVC、競合する中国のAIスタートアップに資金供給

米国の機関投資家は、ベンチャーキャピタル(VC)を経由して中国のAIスタートアップに資金を提供している。米政府が中国の封じ込め戦略を推し進める一方、同国の資本は科学技術競争の要所となるAIで中国が米国と競争するのを助けている。矛盾と言えるだろう。

米資本のVC、競合する中国のAIスタートアップに資金供給
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米国の機関投資家は、ベンチャーキャピタル(VC)を経由して中国のAIスタートアップに資金を提供している。米政府が中国の封じ込め戦略を推し進める一方、同国の資本は科学技術競争の要所となるAIで中国が米国と競争するのを助けている。矛盾と言えるだろう。


米テクノロジーメディアThe InformationのJuro Osawa記者による調査によると、大学基金のような米国の機関投資家は、Sequoia Capital China、Matrix Partners China、Qiming Venture Partners、Hillhouse Capital Managementといった中国の主要なVC企業を支援しており、地元のAIスタートアップとの取引を行っている。

米国政府関係者は、地政学的なライバルを援助する可能性があるため、半導体だけでなく中国のAIへのこうした投資への警戒感を強めている。例えば、シリコンバレーのVCの雄であるセコイアの中国法人は最近、中国のマサチューセッツ工科大学(MIT)に相当すると言われる北京の名門清華大学の若き助教授、Zhilin Yang (楊志林)が創設した全く新しいAIベンチャーに米ドルで投資したと、この取引について直接知る人物が述べている。

2019年にカーネギーメロン大学コンピュータサイエンス学部で博士号を取得した楊志林は、中国のトップAI研究者の1人とされている。同社のウェブサイトによると、彼は以前、セコイア・チャイナが支援した別のスタートアップ、Recurrent AI を共同設立し、営業担当者向けのツールを開発している。

一方、MatrixとQimingは最近、北京に拠点を置く別のAIスタートアップ、Frontisに出資し、自社の製品をChatGPTと比較している。同社のウェブサイトによれば、かつてJD.comのAI研究室を率いた清華大学の教授であるBowen Zhouによって2021年に設立された。この取引により、スタートアップは数億米ドルの評価額を得たという。

ジョージタウン大学のEmily S. WeinsteinとNgor Luongが調査会社Crunchbaseのデータを分析したところ、中国のAI企業への投資家は、依然として中国の投資家が支配的だったという。2015年から2021年にかけて、取引額の少なくとも71%、米国が参加しない投資取引の92%が中国の投資家のみによるものである。米国投資家が参加した投資取引では、251社の中国AI企業に総額402億ドルを投資されており、中国AI企業が調達した1100億ドルの37%を占めているという。

U.S. Outbound Investment into Chinese AI Companies - Center for Security and Emerging Technology
U.S. policymakers are increasingly concerned about the national security implications of U.S. investments in China, and some are considering a new regime for reviewing outbound investment security. The authors identify the main U.S. investors active in the Chinese artificial intelligence market and…

「中国の投資家」については、The Informationの記事にもある通り、米国の機関投資家がリミテッド・パートナー(LP)になっていることがある。どの程度の割合が米国の資金によってしめられるかは判然としないが、上述の数値より大きい公算が高い。

Weinsteinらの報告では、対象期間中に観察された中国AI企業への米国の投資取引の91%は、エンジェル、シード、プレシードなどのベンチャーキャピタル(VC)の投資ステージで行われたものという。つまり、AIスタートアップが足腰の立たない「幼児」の段階で投資は実行されており、重要な土壌を提供していると言える。

このような米国政府と米国のリスクマネーの思惑が相反する現象は、半導体分野でも起きてきた。

米調査会社ロジウム・グループのデータの分析によると、米国のベンチャーキャピタル(VC)、チップ業界の大手企業、その他の個人投資家は、2017年から2020年までに中国の半導体業界で58件の投資取引に参加しており、その数は過去4年間の2倍以上に上っている。

WSJが調査会社PitchBookのデータを分析したところによると、シリコンバレーのVCであるセコイア・キャピタル、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ、マトリックス・パートナーズ、レッドポイント・ベンチャーズの中国関連事業体は、2020年に入ってから、中国のチップ分野の企業に少なくとも67件の投資を行っていることが、判明している。

米国の企業とVC、中国半導体スタートアップに多額の投資
中国で雨後の筍のように生まれる半導体設計企業に米系の企業とVCが大量の資金を供給している。国家間はいがみ合うものの、資本と技術は国境をまたいでいる

ハーバード大学経済学部のデビッド・ヤン教授は、最近開催された世界的な大国の台頭について社会科学から得られた知見に関するシンポジウムで、中国のAI分野の突出した成功について言及した。その証拠として、ヤン教授は、最も正確な顔認識技術を生産している企業の最近のランキング(米国政府作成)を挙げた。その結果、上位5社はすべて中国企業であった。

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
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