NetflixがMicrosoftに広告技術をアウトソースした理由

広告が好ましくない状況を引き起こすのならば、いつでも撤退できるという戦略をNetflixが持っていることは想像に難くない。そのためには、中立的なサードパーティのベンダーが必要で、Microsoftが最適だった。

NetflixがMicrosoftに広告技術をアウトソースした理由
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Netflixが広告を表示するサービスを開始するというニュースで世界を驚かせて3ヶ月。先週、世界最大のストリーミングサービスはサードパーティベンダーをMicrosoftに決定した。

コムキャスト傘下のFreewheel、Roku、Googleなどがパートナー候補として挙がっており、Microsoftはちょっとしたダークホースだと考えられていた。しかし、Microsoftは戦略的パートナーシップには最もふさわしい相手と言っていいだろう。

Microsoftはストリーミング・ライブラリを持っていないが、GoogleのYouTubeとYouTube TV、ComcastのPeacockストリーミングサービスは、Netflixと直接競合している。さらに、Microsoftは、Xboxを所有し、今年アクティビジョンを買収したため、ゲームでも強いポジションを占めている。Netflixは昨年、ゲームに参入し、その後、3つのゲームスタジオを買収した。Xboxは、純粋なゲーム開発・配信のほかに、ユーザーがNetflixをダウンロードして視聴できるストリーミング・プラットフォームでもある。

MicrosoftのXandr(旧AppNexus)への投資の由来は2010年までさかのぼる。2010年代半ばには、Microsoftは自社メディア資産におけるプログラマティック広告を、Xandrに事実上アウトソーシングしていた。Microsoftの広告製品は現在、同社の検索エンジンBingでの広告掲載や、CBSスポーツやフォックス・ビジネスなどへの広告配信であるMicrosoft Audience Network(MAN)のほか、自社メディア資産を含む複数のサービスで構成されている。

同社広告部門Microsoft Advertising(以前はすべてBingブランドにまとめられていた)は1997年から存在している。一時はアドサーバー市場の一角を占めるほどの事業規模を誇ったが、Googleがデジタル広告での地位を確かなものにするに従って、本流から外れることになった(アドサーバー事業はFacebookに売却した)。その後、アマゾンが本格的に広告市場に参入すると、Google、Facebook、アマゾンの三強が形成され、Microsoftは大きく引き離された4番手となっていた。

しかし、昨年末、MicrosoftはXandrをAT&Tから買収することで再び、アドテク市場への意欲を見せるようになっていた。

AT&Tは2018年にXandrの前身企業であるAppNexusを買収した。XandrはAT&Tの広告型ビデオオンデマンド(AVOD)プラットフォームの立ち上げを支援した。AT&Tは最終的にXandrを手放すことを決め、その相手がMicrosoftとなっている。

Xandrはアドエクスチェンジ、アドサーバー、DSP、およびSSPの現代的なアドテク技術スタックをすべて持っている。Netflix単体の広告プラットフォームを作るのにはかなり効果的な協業となっているだろう。

Netflixの利用者の志向に応えるパーソナライズ・エンジンは広告に応用可能と考えていい。ただし、入札システムとキャンペーン作成用のインターフェイス等の追加の開発が必要となる。

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Netflixは長らく広告付きサービスの導入について否定してきた。しかし、成長鈍化が態度の変化を迫っている。だが、広告がもたらすう不利益は広告が生み出す利益によって相殺可能ではないのかもしれない。

広告付き廉価版は両刃の剣であり、現状サブスクリプションをしている会員がダウングレードしてしまう可能性を含んでいる。広告が好ましくない状況を引き起こすのならば、いつでも撤退できるという戦略をNetflixが持っていることは想像に難くない。

また、消費者は目下インフレに苦しんでいる。彼らは最初に娯楽費であるNetflix契約料をカットする可能性がある。市場関係者が織り込みつつある不況の間、価格弾力性が高まっている消費者が離れていくのを留め、わずかながら得られる収益の足しによって暖を取るための手段としても広告は有望なのだろう。

これらを勘案すると、新たな技術者の雇用が必要となる自社開発よりは、いつでも契約解除が利くサードパーティに委託しておくほうが、都合がいいということではないか。MicrosoftとそのXandrは求められているパズルのピースだったのだ。

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