アマゾンのヘルスケアへの険しい道のり

多くのテクノロジー企業と同様、アマゾンも利益の大きいヘルスケア市場に参入する野心を抱いている。しかし、ヘルスケア業界への適応は生半可なものではなく、アマゾンに膨大なコストを課している。

アマゾンのヘルスケアへの険しい道のり
出典:Amazon.

多くのテクノロジー企業と同様、アマゾンも利益の大きいヘルスケア市場に参入する野心を抱いている。しかし、ヘルスケア業界への適応は生半可なものではなく、アマゾンに膨大なコストを課している。


アマゾンは、2019年に初めて開始した遠隔医療サービス「アマゾン・ケア(Amazon Care)」を年内に閉鎖する予定だ。同社は先週、Amazon Careの従業員にこの決定を伝えたとワシントン・ポストが報じた

アマゾンは、Careの約束を果たすのに苦労した。当初はアマゾンの従業員向けに、24時間オンデマンドで健康管理士を提供するはずだった。このサービスを大企業に売り込もうというのだ。

しかし、サービスを成り立たせるのが難しかったようだ。Amazon Health Servicesの責任者であるニール・リンゼイは、Fierce Healthcareが取得したメモの中で、「当社の登録会員はAmazon Careの多くの側面を気に入ってくれたが、当社がターゲットにしてきた大企業顧客にとっては十分な完成度ではなく、長期的には機能しそうになかった」と書いている。

Amazon Careは、シアトルに拠点を置くアマゾン従業員向けのサービスとしてスタートした。バーチャルなヘルスケア・サービスと、看護師による自宅訪問のオプションがセットになっていた。今年2月には、このプログラムを全米に拡大し、従業員へのサービス提供を希望する全米50州の企業に提供したばかりだ。アマゾンは今月に入ってもサービスを拡大しており、ウェブページにはメンタルヘルス企業のジンジャーとの提携によるメンタルヘルスケアを追加することが記載されていた。

Amazonが医療をディスラプトする
Amazonは医療に本腰を入れ始めた。遠隔診療と対面診療のほか、薬品配送と薬局経営でも投資が本格化。クラウドコンピューティングやAI方面からも手が伸びている。

社内医療サービスを停止する動きは、アマゾンが計画している定額制プライマリーケア企業「ワン・メディカル(One Medical)」の買収の後に出てきたものである。

アマゾンは方向転換をしたのは明確だ。買収で不足を埋めようとしている。39億ドルでのOne Medicalの買収により、アマゾンはAmazon Careのターゲット顧客だった大手企業にアクセスすることができるようになる。

Omers Venturesの医療技術投資家であるクリスティーナ・ファーは、フィナンシャル・タイムズに次のように語った。「One Medicalはすでに大手企業との契約をすべて持ち、遠隔医療を行っている。医師の採用は本当に難しく、保険契約も本当に難しく、雇用主との関係も本当に難しい。それら全てに時間がかかる。このためOne Medicalは買うべき対象だったようだ」

在宅医療サービスプロバイダーSignify Healthの競売に参加。このヘルスケア企業の市場価値はおよそ50億ドルで、 取引の可能性が報じられてから価格が上昇し、80億ドル以上の値をつける可能性を指摘する関係者もいるという。

ウォールストリート・ジャーナルが以前報じたところによると、大手ドラッグストアチェーンCVS Healthも入札者の一人で、ドラッグストアと保険の巨大企業が在宅医療サービスの拡大を狙っている。また、健康保険大手UnitedHealthや別の企業の買い手も、この会社を狙っているという。

多くのテクノロジー企業がそうであるように、アマゾンも儲かるヘルスケア市場に進出する野心を持っている。2018年には処方箋配達会社のPillPackを買収し、自社で薬局も持っている。

しかし、アマゾンが健康ベンチャーを突然閉鎖したのは今回が初めてではなく、バークシャー・ハサウェイやJPモルガン・チェースと立ち上げたヘルスケア業界を破壊するプロジェクト「Haven」は2021年に崩壊している。モルガン・スタンレーの最近の調査によると、同社の自社薬局事業は、プライム加入に向けた大きな推進力にはなっていない。

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)