米FTCが大手テック企業提訴を増やす理由
米連邦取引委員会(FTC)は大手テクノロジー企業の反トラスト慣行への法執行を強化するため、最近、関連法制の解釈を拡張した。この戦略が有効かどうかを知るには、より多くの事案を法廷に持ち込むこむ必要がある。
米連邦取引委員会(FTC)は大手テクノロジー企業の反トラスト慣行への法執行を強化するため、最近、関連法制の解釈を拡張した。この戦略が有効かどうかを知るには、より多くの事案を法廷に持ち込むこむ必要がある。
米連邦取引委員会(FTC)は8日、MicrosoftがゲームメーカーのActivision Blizzardを690億ドルで買収することを阻止するために提訴した。Microsoftは、ライバルがActivisionのゲームにアクセスできるようし続けると言っているが、同機関は、Microsoftが過去に同様の約束を反故にしたと述べている。
競合他社は、Microsoftが計画している750億ドルの買収によって、人気の「Call of Duty」シリーズなど、アクティビジョンのゲームへのアクセスが遮断されるのではないかという懸念を表明していた。
長い法廷闘争になる可能性が示唆されている。Bloomberg IntelligenceのアナリストであるJennifer Rieの分析によると、行政法審判官による過去の合併問題では、裁判が始まってから7カ月から12カ月の間に裁判官が最初の決定を下しているという。このため、判決は、2024年初頭になると予想される。その後、Microsoftまたはこの訴訟を担当するFTCのスタッフは、上訴することができる。
FTCは同日、メタによる仮想現実(VR)フィットネスアプリのメーカーであるWithinの買収を阻止するための初公判に臨んだ。FTCはカリフォルニア州サンノゼの法廷で、Metaによる4億ドルの買収は、仮想現実(VR)の新興市場における将来の競争を阻害すると主張した。
FTC側は 「この訴訟は、世界最大のハイテク企業の1社が革新的な企業を買収すると決定したときに起こる競争への害についてだ」と冒頭陳述で述べた。「提案されている買収の効果は競争を弱めるものだと信じるに足る理由がある」と述べ、Withinがなければ、Metaはおそらく独自のアプリを作ってVRフィットネスのゲームに参入するだろうと付け加えている。
これらの2つの係争は、米反トラスト当局がタカ派の姿勢をとっていることを明示している。FTCのリナ・カーン委員長は、2021年6月にジョー・バイデン大統領に任命されて以来、ロッキード・マーチンとエアロジェット・ロケットダイン・ホールディングスの合併や、NVIDIAがソフトバンクグループのArmを買収することを阻止してきた。
FTCは11月10日、不公正な競争方法を禁じるFTC法を厳格に執行する政策方針を発表した。政策方針は、FTCの4人の委員のうち、リナ・カーン委員長を含む民主党委員3人の賛成により採択した。FTCは2015年に、シャーマン法、クレイトン法と合わせて米国の反トラスト法制を構成するFTC法第5条が実質的な反競争的効果を有すると発表した。しかし、この方針は、不正競争行為を取り締まるFTCの執行力を制限することになると懸念され、カーン現委員長が就任した2021年7月に撤回した。
FTCは、今回の政策方針によって、FTC法5条の適用範囲はシャーマン法とクレイトン法のそれにとどまらず、競争条件に負の影響を与える性質を持つ不公正な行為を広く含むことを明確化した。この政策方針の下では、FTC法の目的は独占の初期段階での阻止にある、という法の解釈を採用しており、より予防的な行動を意図している。MetaのWithin買収への提訴はこれに該当し、キラーアクイジション(キラー買収)と呼ばれる競合企業の芽を早期に摘む大手企業の買収活動を防ぐ目論見が見て取れる。
ただ、FTCの闘いを難しくなると予想される。今回のMicrosoftとActivision Blizzardの事案と、MetaとWithinの事案はともに、直接の競争関係にあるライバル同士が合併する水平統合ではなく、コンソール提供者とゲームソフト提供者が合併する垂直統合であることだ。ボストン大学教授で元FTCチーフエコノミストのマイケル・サリンジャーは垂直統合が引き起こす影響の予想は一筋縄ではいかず、反トラスト当局には確実に影響を予想できる分析ツールがないと指摘している。
「規制当局が将来の市場を予測するというのは、非常に危険な前例と立場だ」と、クラウドストレージ会社BoxのCEOであるアーロン・レヴィは述べた。規制当局がMetaのような企業が新興企業を買収する能力を絶てば、ベンチャーキャピタルや起業家は新市場への参入を警戒するようになるだろう、とレヴィは警告している。
FTCが主張する反トラストの範囲を判例に落とし込むためには、訴訟を増やすよりほかない。法律事務所フライド・フランク・ハリス・シュライバー・アンド・ジェイコブソンのパートナー、バリー・ニグロは「垂直統合への異議申し立てを裏付ける判例は少ないが、FTCと司法省がこの現状を変えるには、より多くの案件を裁判に持ち込むしかない」と語っている。