ブラジル中銀主導のモバイル決済が大成功
ブラジル中銀が展開するモバイルペイメント基盤Pixは、開始から11カ月で一億人に迫るブラジル人に行き渡った。インドに次ぐ政府主導型のモバイルペイメントの成功例となりそうだ。
要点
ブラジル中銀が展開するモバイルペイメント基盤Pixは、開始から11カ月で一億人に迫るブラジル人に行き渡った。インドに次ぐ政府主導型のモバイルペイメントの成功例となりそうだ。
モバイルペイメント基盤Pixにおいて、相手に現金を送るために必要なのは、電子メールアドレスや電話番号など、相手が設定した簡単なキーだけだ。Pixは銀行や他のデジタルウォレットサービスの複数のアプリを通じて機能する。
Pixは世界で最も早く普及したインスタントペイメントシステムの一つ。Pixは昨年11月の運用開始以来、8300万人の個人ユーザーと550万社以上の企業が、2億4200万個以上のPixキーを登録した。また、ブラジルでは、成人人口の45%に相当する約7,500万人が、支払いや受け取りにPixを利用している。
4月には、Pixの取引額が、従来の決済手段の取引額の合計を上回った。TED、DOC、小切手、銀行手形など、従来の決済手段の統合額を上回った。BCBのロベルト・カンポス・ネト総裁は「Pixは、実用的で、早く、利用しやすく、安全な決済手段であり、手軽さをもたらし、新しいビジネスモデルを生み出している。この新しさは、市場に大きな影響を与え、金融システムの競争を促進している。Pixはこれからも存在し、新しい機能を備えて継続的に進化していくでしょう」と語った。
約890億ドルがこのネットワークを経由している。ブラジルでは現在、米国よりも多くのインスタントペイメントが行われている。
2020年11月、Pixは支払者と受取者の生活を楽にする多くの機能を備えて運用開始された。2021年第1四半期には、新機能の導入により、参加機関は連絡先リストを統合するソリューションを開発し、誰がPixキーを持っているかを顧客が簡単に確認できるようになった。また、各機関のアプリケーションでは、お客様が設定した取引限度額の管理ができるようになった。
2021年5月中旬、「Pix Cobrança for Payment with due date」という銀行手形とと同様の支払い機能が開始された。この新機能では、前払いに対する罰金、利息、割引を自動的に計算することができる。さらに、回収管理は中銀が標準化したPix APIを介して行う必要があり、QRコードによる回収を個別または一括で行うことができるほか、調停手続きに統合するために必要な領収書の検証も可能だ。
BCBは、現金を引き出すことができる2つの新しいPixの機能「Pix Saque」と「Pix Troco」についても年内にリリースする計画だ。
Pixの開始は良いタイミングだった。テクノロジーコンサルタントのFIS社の報告書によると、パンデミックの影響で企業が休業したため、2020年には販売店での現金の使用が25%減少した。その結果、非公式の仕事が急増し、2021年の最初の3カ月間にラテンアメリカ最大の経済大国で新たに増えた仕事の80%を占めることになった。
Pixはデジタルでの支払いを、紙幣を使うのとほぼ同じように簡単にした。Pixは主に個人間送金に用いられ、それはパンデミックで増加した非公式な仕事の支払いに適合していた。
ムーディーズ・アナリティクスのBankFocusによると、2019年にブラジルでは上位5行が全資産の93%を保有しているのに対し、隣国アルゼンチンでは54%、米国では41%となっている。ブラジルの銀行集中度は、同社が挙げた他の16の先進国および新興国の市場よりも高かった。しかし、この分野で、金融系スタートアップ企業がPixのプラットフォームを利用して市場シェアを獲得することになり、投資家から注目されている。Pixの登場は競争条件が平準化され、消費者の利益につながるきっかになっている。
ブラジルの5大金融機関には、イタウ・ユニバンコSA、バンコ・ブラデスコSA、バンコ・サンタンデール(ブラジル)SA、政府系のブラジル銀行、カイシャ・エコノミカ・フェデラルなどがある。寡占によって、サービスがずさんになり、コストがかかるようになったと批判され、中央銀行は対応を迫られている。
7月、Pixは1日に4,000万件の決済を行い、自社の記録を更新した。そのほとんどが個人間の送金だった。
ブラジルは、特にデジタル決済に適した国だろう。GlobalWebIndexの報告書によると、ブラジル人のソーシャルメディア利用時間は西半球のどの国よりも長く、オンライン人口は世界第5位だ。近年では、ウォーレン・バフェットが支援するNubankのようなフィンテック企業が、ブラジルの伝統的な銀行から顧客を奪っている。Nubankは、550億ドルの企業価値をもたらす新規株式公開(IPO)を目指している。
Pixは、Facebookが運営するメッセージングシステムWhatsAppを利用した新しい決済サービスなど、すでに競合他社に直面している。しかし、中央銀行はPixの利用範囲を拡大し続けることを目指している。インターネットに接続されていない場所でも、ユーザーが支払いを行える方法を近々提供する予定だ。
誘拐事件のリスク
ただ、ファストデジタルマネーには、現金と同じようなリスクがあることに留意しないといけない。ブラジルでは、犯罪者が被害者を拉致してATMに連れて行き、ナイフや銃を突きつけて可能な限りの金額を引き出させる「特急誘拐」という悪名高い犯罪がある。Pixはこの主の誘拐をより迅速に実行できるようにした側面がある。
ATMに行く必要はなく、アプリを使って貯金を振り込ませるだけだかからだ。Pixの取引は追跡可能だが、犯罪者が他人名義の口座を使っている場合もある。
中央銀行のロベルト・カンポス・ネト総裁は、サンパウロで行われたイベントで、今回の盗難事件は経済が再開したことによる一般的な犯罪の増加が原因であるとした上で、「我々のプラットフォームを使えば、非常に簡単に調整ができる」と述べた。また、8月には、ATMと同様に、強盗が多発する夜間の送金額を制限するなどの安全策を講じた。
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このような政府主導型のモバイルペイメント普及方法として、インドのUPIが先駆者である。中国の先例から学び、それを自らのユースケースに適応させる中で進化させた素晴らしい政策である。
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