EV世界2位のBYD、増収増益で価格競争への免疫力を示す
BYDは増収増益の決算を報告し、価格競争への抵抗力を示した。売上成長は鈍り、中国経済には暗雲が立ち込めているが、自動車市場のEV化傾向に変わりはなく、ポールポジションにいるといえる。
BYDは増収増益の決算を報告し、価格競争への抵抗力を示した。売上成長は鈍り、中国経済には暗雲が立ち込めているが、自動車市場のEV化傾向に変わりはなく、ポールポジションにいるといえる。
中国の自動車メーカー、比亜迪(BYD)は28日、第2四半期(Q2)の決算を報告した。Q1とQ2を合わせた2023年上半期(1〜6月)の売上高は、前年同期比で72.72%と大幅に増加。上半期の純利益は109億5,000万元(約2,200億円)に達し、前年同期の36億元から204.7%上昇した。
ただ、売上成長は鈍化している。ブルームバーグの計算によると、Q2の売上高は67%増の1,400億元となり、2022年Q1以来の最小の伸びとなった。その要因は、昨年からテスラが仕掛けた価格競争だ。自動車需要の低迷と相まって、中国に多く存在する新興EV企業の大半が退場を迫られる可能性がある。ガソリン車メーカーにも圧力がかかっており、いくつかの日系メーカーは中国市場から撤退を迫られる可能性が高い。
それでも、BYDが価格競争への「免疫力」を証明した格好ではある。他のEVメーカーは明確に圧迫されている。XpengとNIOは今月、Q2の損失が予想を上回った。
- 販売は好調。今年に入ってから、BYDの販売台数は増加し続け、6月には初めて月販25万台を突破し、上半期の累計販売台数は125万5600台、前年同期比94%増となった。Q2の販売台数は前年同期比98%増の70万244台となり、四半期ベースで過去最高の販売実績を達成した。これに対し、テスラの同四半期の世界販売台数は46万6140台だった。
- BYDのEV市場の存在感は高い。上半期の中国新エネルギー車(NEV、*1)全体の販売台数は375万台で、BYDは首位で30%以上のシェアを占め、2022年比で6.5ポイント上昇した。PHEVの「王朝(Dynasty)」とBEVの「海洋Ocean)」シリーズに支えられ、7月には月間販売台数の最高記録を更新した。
- ハイエンドモデルに多様性が生まれつつある。以前は、BYDの主な販売モデルはすべてローエンドモデルだったが、近年、BYDの市場での地位は徐々に向上しており、特に昨年からは、騰勢(Denza)などの価格が30万元(約600万円)を超えるモデルが徐々に増加している。今年上半期のDenza D9の販売台数は5万6,000台に達し、前年比30%以上増加し、平均販売価格は42万元(約840万円)だった。
- 価格競争への対応には一定のコストが伴っている。成都モーターショーでは、BEVの「Chaser 07」として知られていたモデルを「Seal DM-i」とリブランドして発表した。7月19日に河南省鄭州市で初期生産が開始された。航続距離は121kmから200kmの間。価格は17万6,800〜24万6,800元(約355万〜495万円)。価格競争を織り込んでか、早期購入者には2年間無金利ローン、5,000人民元の下取り補助金、充電パイルの無料提供などの特典が用意されている。
- ローエンドは引き続き主役になりそう。BYDは成都オートショーで、2023年型唐(Tang)のやや安価なモデルを発表。4,000人民元の下取り補助と無料の充電装置を受け取ることができる。コロナ以降の景気回復がマクロ経済環境が急速に悪化している。ロイターの計算によると、BYDは2月以降、売れ筋モデルのうち8車種について、旧バージョンと比べて4~25%安い価格の新バージョンを発売した。
電池事業
BYDは、電池と自動車の両方を生産する垂直統合により、世界の電池市場における地位を強化。世界2位の規模のEV電池事業は、好調を維持している。
- 電池事業も堅調。BYDは2023年上半期の世界電池市場における市場シェアは15.7%。絶対的な首位となったCATLに次ぐ2位で、韓国のLGエナジーソリューションを凌いだ。欧州とアジアで市場シェアを拡大している。
- LFP電池の市場シェア首位を死守。3月に電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)のシェアが39.47%で、BYDの38.88%を上回り、1年ぶりに首位となった。しかし、BYDのLFP市場シェアは4月に42.78%まで回復し、CATLの33.75%を再び上回った。その後もBYDが首位を守っている。
- LFP電池の高い競争力。BYD傘下の中国・無為弗迪電池(Wuwei FinDreams Battery)が製造するLFP電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)の性能は折り紙付き。日経クロステックが新潟国際自動車大学校(通称GIA)の協力を得て実施した「SEAL」の電池パックの電池の分解によると、フォルクスワーゲンのEV「ID.3」が搭載する三元系電池の質量エネルギー密度と比べて、シールの質量エネルギー密度は5%程度しか劣らない。「BYDは電池セルの搭載効率を高めることでパックとしてのエネルギー密度を向上させ、ID.3に肉薄した格好である」と日経クロステックの久米秀尚は書いている。
海外展開
BYDはまた、海外に目を向ける中国のEVメーカーの波に乗り、シンガポールやオーストラリアなどにショールームを構えている。中国汽車工業協会のデータによると、BYDが上半期に販売したBEV61万2425台のうち、10%が輸出だった。テスラは同期間に世界で88万9,015台のEVを販売した。
*1:中国では、PHEVとEVの2つのカテゴリーを新エネルギー車(NEV)と一つにくくっている。