EV世界2位のBYD、増収増益で価格競争への免疫力を示す

BYDは増収増益の決算を報告し、価格競争への抵抗力を示した。売上成長は鈍り、中国経済には暗雲が立ち込めているが、自動車市場のEV化傾向に変わりはなく、ポールポジションにいるといえる。

EV世界2位のBYD、増収増益で価格競争への免疫力を示す
2023年8月28日(月)、中国・北京のディーラーにて。

BYDは増収増益の決算を報告し、価格競争への抵抗力を示した。売上成長は鈍り、中国経済には暗雲が立ち込めているが、自動車市場のEV化傾向に変わりはなく、ポールポジションにいるといえる。


中国の自動車メーカー、比亜迪(BYD)は28日、第2四半期(Q2)の決算を報告した。Q1とQ2を合わせた2023年上半期(1〜6月)の売上高は、前年同期比で72.72%と大幅に増加。上半期の純利益は109億5,000万元(約2,200億円)に達し、前年同期の36億元から204.7%上昇した。

BYD、中国市場が停滞も販売300万台達成に自信[ブルームバーグ]
BYDは、世界第2位の経済大国における経済的課題と激しい価格競争にもかかわらず、今年300万台のEVとPHEVを販売する自信があると、創業者の王伝福董事長が火曜日のアナリスト向け説明会で語った。

ただ、売上成長は鈍化している。ブルームバーグの計算によると、Q2の売上高は67%増の1,400億元となり、2022年Q1以来の最小の伸びとなった。その要因は、昨年からテスラが仕掛けた価格競争だ。自動車需要の低迷と相まって、中国に多く存在する新興EV企業の大半が退場を迫られる可能性がある。ガソリン車メーカーにも圧力がかかっており、いくつかの日系メーカーは中国市場から撤退を迫られる可能性が高い。

中国市場の陣地を失う日系自動車メーカー、長期的な競争力に不透明感
EVの投入で出遅れる日系自動車メーカーは、中国市場から押し出されつつある。世界で最も急速に電動化する先進的な市場での苦戦は、日系メーカーの長期的な競争力に不透明感を投げかける。

それでも、BYDが価格競争への「免疫力」を証明した格好ではある。他のEVメーカーは明確に圧迫されている。XpengとNIOは今月、Q2の損失が予想を上回った。

  • 販売は好調。今年に入ってから、BYDの販売台数は増加し続け、6月には初めて月販25万台を突破し、上半期の累計販売台数は125万5600台、前年同期比94%増となった。Q2の販売台数は前年同期比98%増の70万244台となり、四半期ベースで過去最高の販売実績を達成した。これに対し、テスラの同四半期の世界販売台数は46万6140台だった。
  • BYDのEV市場の存在感は高い。上半期の中国新エネルギー車(NEV、*1)全体の販売台数は375万台で、BYDは首位で30%以上のシェアを占め、2022年比で6.5ポイント上昇した。PHEVの「王朝(Dynasty)」とBEVの「海洋Ocean)」シリーズに支えられ、7月には月間販売台数の最高記録を更新した。
  • ハイエンドモデルに多様性が生まれつつある。以前は、BYDの主な販売モデルはすべてローエンドモデルだったが、近年、BYDの市場での地位は徐々に向上しており、特に昨年からは、騰勢(Denza)などの価格が30万元(約600万円)を超えるモデルが徐々に増加している。今年上半期のDenza D9の販売台数は5万6,000台に達し、前年比30%以上増加し、平均販売価格は42万元(約840万円)だった。
  • 価格競争への対応には一定のコストが伴っている。成都モーターショーでは、BEVの「Chaser 07」として知られていたモデルを「Seal DM-i」とリブランドして発表した。7月19日に河南省鄭州市で初期生産が開始された。航続距離は121kmから200kmの間。価格は17万6,800〜24万6,800元(約355万〜495万円)。価格競争を織り込んでか、早期購入者には2年間無金利ローン、5,000人民元の下取り補助金、充電パイルの無料提供などの特典が用意されている。
  • ローエンドは引き続き主役になりそう。BYDは成都オートショーで、2023年型唐(Tang)のやや安価なモデルを発表。4,000人民元の下取り補助と無料の充電装置を受け取ることができる。コロナ以降の景気回復がマクロ経済環境が急速に悪化している。ロイターの計算によると、BYDは2月以降、売れ筋モデルのうち8車種について、旧バージョンと比べて4~25%安い価格の新バージョンを発売した。

電池事業

BYDは、電池と自動車の両方を生産する垂直統合により、世界の電池市場における地位を強化。世界2位の規模のEV電池事業は、好調を維持している。

  • 電池事業も堅調。BYDは2023年上半期の世界電池市場における市場シェアは15.7%。絶対的な首位となったCATLに次ぐ2位で、韓国のLGエナジーソリューションを凌いだ。欧州とアジアで市場シェアを拡大している。
  • LFP電池の市場シェア首位を死守。3月に電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)のシェアが39.47%で、BYDの38.88%を上回り、1年ぶりに首位となった。しかし、BYDのLFP市場シェアは4月に42.78%まで回復し、CATLの33.75%を再び上回った。その後もBYDが首位を守っている。
  • LFP電池の高い競争力。BYD傘下の中国・無為弗迪電池(Wuwei FinDreams Battery)が製造するLFP電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)の性能は折り紙付き。日経クロステックが新潟国際自動車大学校(通称GIA)の協力を得て実施した「SEAL」の電池パックの電池の分解によると、フォルクスワーゲンのEV「ID.3」が搭載する三元系電池の質量エネルギー密度と比べて、シールの質量エネルギー密度は5%程度しか劣らない。「BYDは電池セルの搭載効率を高めることでパックとしてのエネルギー密度を向上させ、ID.3に肉薄した格好である」と日経クロステックの久米秀尚は書いている。

海外展開

BYDはまた、海外に目を向ける中国のEVメーカーの波に乗り、シンガポールやオーストラリアなどにショールームを構えている。中国汽車工業協会のデータによると、BYDが上半期に販売したBEV61万2425台のうち、10%が輸出だった。テスラは同期間に世界で88万9,015台のEVを販売した。

*1:中国では、PHEVとEVの2つのカテゴリーを新エネルギー車(NEV)と一つにくくっている。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
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By 吉田拓史