ChatGPTはGoogleの脅威だ

ChatGPTのクオリティに皆が驚いている。これまでのチャットボットとは一線を画している。検索をするよりも速く正確で、簡潔な回答が得られる場合もある。人々の情報収集の方法を大きく変える新しいツールが誕生した瞬間かもしれない。

ChatGPTはGoogleの脅威だ
Licensed under the Unsplash+ License

ChatGPTのクオリティに皆が驚いている。これまでのチャットボットとは一線を画している。検索よりも速く正確で、簡潔な回答が得られる場合もある。人々の情報収集の方法を大きく変える新しいツールが誕生した瞬間かもしれない。


ChatGPTはGoogleを完全に代替するとは言えないものの、一部のユースケースではすでにGoogleよりも優れている兆候がある。ChatGPTはOpen AIの大規模言語モデル(LLM)のGPT3.5で動いているが、これが噂されるGPT4.0に置き換えられたとき、どの程度のインパクトがあるだろうか。

Googleの検索結果の品質が低下しているかどうか定量的な検証は行われていないが、そう感じている人は少なくないのかもしれない。

GoogleはSEOで視界不良になっている。所定のクエリに対して、検索最適化のための付随する大量の余分な情報がついた、情報過多なコンテンツへのリンクが、検索結果の上位を占めることが少なくない。ユーザーはスクロールを繰り返して、長大なコンテンツの中で自分が必要とするセクションにたどり着く。知りたいことを見つけるのに大量の時間を要するようになっているのだ(Googleは検索のアップデートでSEO記事を追放しようと躍起だ)。

GoogleもChatGPTと同じ試みをしている。結果ページでサイトへのリンクの上に質問に対する答えを簡潔に表示することが増えていることにあなたは気づくだろう。しかし、ChatGPTは質問と回答だけで構成されている簡潔なユーザーインターフェイス(UI)を採用しており、こちらが意図するポイントだけについて回答し、余分な情報がないように見受けられる。

Googleの体験を脅かすものは社内にある。元Google広告部門トップのスリダール・ラマスワミは、「(Google検索は)ゆっくりではあるが、非常に決定的に悪い方向へ変化している」と主張している。彼はその大きな要因を、彼がその構築に貢献した「広告による負荷」と表現している。

「私はかつてそのチームを運営していましたが、お金を稼がなければならないというプレッシャーはものすごいものがあります。最近、Facebookに何が起こったか思い出してください。すべてのハイテク企業は、彼らが成し遂げたことだけではなく、将来の展望によっても定義されます。Googleには、広告のスペースをどんどん取るように、あるいは注目を集める作戦を際限なく繰り広げるようにという圧力がかかっています」

ラマスワミの主張で目を引いたのは、Googleは広告を扱っているため、必ずしもユーザーのための製品設計を行わない「忠誠心の分裂」が起きていると主張している。

さらにもう一つ、決定的なファクターはワールド・ワイド・ウェブの質が落ちていると言われることだ。ウェブが巨大化するにつれ(Googleは現在1兆以上のページをインデックスしている)、多くのサイトにおける情報の質が低下している可能性が指摘されているのだ。

最初期のGoogleの元バイスプレジデント(検索製品およびユーザーエクスペリエンス担当)であるマリッサ・メイヤーは、「クリックベイトや詐欺、誤情報など、トラフィックを増やすためのページがあふれているが、一般の検索ユーザーには役に立たない」と指摘した。

このウェブの状況に大きなインパクト及ぼしそうなのが、AIによるコンテンツの生成だ。

ウェブはAIに支援されたコンテンツで溢れるようになるだろう。実際、Googleのトラフィックに依存するウェブサイトを持つ企業は、コンテンツを書くためにAIに頼ることが増えていると言われる。特に、何百もの製品に関する説明文を掲載することが多いeコマースサイトによく見られることだ。

そのようなツールを提供する新興企業が雨後の筍のように増えている。ChatGPTを提供するOpen AIのGPTはその火付け役だったが、最近ユニコーンになった米新興企業Jasperはまざまな商品に関する文章をAIに書かせることで、コピーライターに仕事を依頼するコストを削減できるとうたっている。マーケティング文書はそれこそウェブに大量にあるため、AI学習用のデータに事欠かない。

AIによるライティングはウェブの品質を向上させている最中なのかもしれない。人間のライティングにはある種の不確実性が伴うものだし、DeNAのWELQ問題のように、RPA的な人間の使い方でSEO記事を量産する手法は珍しいことではない。これらはAIに置き換わった方がまだいいとも言える。

しかし、悪意の人がこのAIを使えば、偽情報や誤情報をより効果的に流通させる手段にもなりうることは、重要な視点だ。偽情報キャンペーンに携わるトロールファームはすでにAIを広範に採用しているだろう。ゼレンスキー大統領のディープフェイクのようなことは、ウェブの中でも少なからず起こっているはずだ。

また商業目的でそれらを使う人達も、必ずしもGoogleやGoogleのユーザーのためにそういうコンテンツ制作をするわけではない。偽情報と機械量産型SEO記事と相まってGoogleのためにならないウェブがどんどん拡張していく未来も予見できる。そのとき、我々は従来型の情報の見つけ方が使い物にならなくなったことを悟るのだろう。たぶん。

Read more

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

Google Cloudは10月8日、「自治体におけるゼロトラスト セキュリティ 実現に向けて」と題した記者説明会を開催し、自治体向けにゼロトラストセキュリティ導入を支援するプログラムを発表した。宮崎市の事例では、Google WorkspaceやChrome Enterprise Premiumなどを導入し、災害時の情報共有の効率化などに成功したようだ。

By 吉田拓史
​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

Google Cloudが9月25日に開催した記者説明会では、イオンリテール株式会社がCloud Runを活用し顧客生涯価値(LTV)向上を目指したデータ分析基盤を内製化した事例を紹介。従業員1,000人以上がデータ分析を行う体制を目指し、BIツールによる販促効果分析、生成AIによる会話分析、リテールメディア活用などの取り組みを進めている。

By 吉田拓史
Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Google Cloudは、年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」で、大規模言語モデル「Gemini」を活用したAIエージェントの取り組みを多数発表した。Geminiは、コーディング支援、データ分析、アプリケーション開発など、様々な分野で活用され、業務効率化や新たな価値創出に貢献することが期待されている。

By 吉田拓史