中華GPU、雨後の筍
2000年代半ばの競合他社の凋落以降、PC用ディスクリートGPUの分野では、AMDとNVIDIAに対抗できる企業は存在しなかった。しかし、データセンター、マイニング、ゲーム用GPUの台頭に伴い、2強に対抗する数多くのライバルが中国から現れている。
要点
2000年代半ばの競合他社の凋落以降、PC用ディスクリートGPUの分野では、AMDとNVIDIAに対抗できる企業は存在しなかった。しかし、データセンター、マイニング、ゲーム用GPUの台頭に伴い、2強に対抗する数多くのライバルが中国から現れている。
中国のチップ設計企業、芯动科技(Innosilicon)は最近開催されたイベントで同社初のディスクリートGPU 「风华 1 号」(Feng Hua 1)を発表し、これをベースにしたグラフィックカードシリーズを展開するとした。同社は、このカードに最先端のGPU機能を搭載し、少なくとも3種類のモデルを提供する。
中国および台湾の報道によると、Innosiliconは「风华 1 号」シリーズのグラフィックスカードの計画を発表するイベントを開催し、それぞれの仕様を明らかにした。これらのGPUはコンシューマー向けのデスクトップやゲーミングリグに適している。ゲーム性能については完全には明らかになっていないがが、AMDのRadeon6700XTおよび6600XTと同程度の性能を持つ可能性があるとされている。
紹介によると、デスクトップ用「风华 1 号」グラフィックスカードは、シングルチップのAカードで、160GPixel/sのレンダリング能力、5T FLOPSのFP32浮動小数点性能、最大304GB/sのメモリ帯域幅、最大16GBのメモリ容量、PCIe4.0X16インターフェースをサポート。 表示インターフェースは、HDMI2.1/DP1.4/VGAなどに対応している。
サーバー側の「风华 1 号」は、デュアルチップで、デスクトップ用の2倍の性能を持ち、320GPixel/secのレンダリング性能、10T FLOPSのFP32(単精度浮動小数点演算)性能、32GBのビデオメモリを備えているとされている。
风华 1 号はDirectX、Vulkan、OpenGL、OpenCL、さらにはOpenGL ESなど、グラフィックスとコンピュートのための最新(およびレガシー)アプリケーションプログラミングインターフェースをすべてサポートしているとされる。さらに、このカードはPCIe 4.0規格と互換性があり、Windows、Linux、Android環境で動作するとしている。
現時点では「风华 1 号」が、AMDのRadeonやNVIDIAのGeForceの対抗馬となるかどうかはわからない。しかし、少なくとも、この2つのグラフィックスの巨人に対するライバルが、Intel、Phytium、Zhaoxinなど、データセンターやHPC用GPUを設計している数多くの企業に加えて、1つ増えたことには変わりない。
中国の景嘉微(Jingjia Micro)もまたNVIDIAとAMDの対抗馬になることを望んでいる。同社は9月、次世代GPU「JM9」をテープアウトした。この新しいGPUは、2016年に発売されたNVIDIAのGeForce GTX 10シリーズの「Pascal」GPUに匹敵するパフォーマンスを提供する、と同社は主張している。この新しいGPUは、来年中に市場に投入される予定だ。
ただ、まだライバルの数世代前後ろを追いかけているにすぎないだろう。公式に発表された仕様によると、JM9231の性能は2016年のローエンドからミッドレンジの製品のレベルで、NVIDIAのGPUの2017年後半から2018年前半のレベルに達することが期待されている。
快科技の報道によると、同社は少なくとも2019年からJM9 GPUファミリーの話をしていたが、同社がチップをテープアウトしたのはつい最近であり、このファミリーは明らかに開発が遅れていたそうだ。通常、チップが計画通りに動作した場合、最初のテープアウトからGPUが量産に入るまでには1年かかるため、JM9ベースのグラフィックスカードが市場に出回るのは2022年秋以降になると予想されている。
雨後の筍のように生まれるGPU企業
摩爾線程(Moore Threads)は若く期待と資本を集めている新興企業の1つだ。昨年10月に設立されたばかりでGPUを自主開発し、AIプラットフォームを構築しようとしている。同社のGPU製品はGPGPU(汎用計算に応用されるGPU)やHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)にも対応する。
Moore Threadsは秘密主義の会社で、コアメンバーはGPGPUに強いNVIDIAを筆頭にマイクロソフト、インテル、AMD、ARMなどの出身者が揃うとされる。
中国メディアのAI4Autoによると、創業者は2005年にNVIDIAに入社し、2020年9月に退社したとされるJames Zhangである可能性があり、彼は同社の中国ビジネスのグローバルバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めていた。AI4Autoは、投資家のWinsoulが「GPU分野で15年間働いてきた」「世界的なチップ企業の中国市場でのエコシステムを構築した」人物と説明していることを根拠に推測し、業界関係者から確認が得られたとしている。
沐曦集成電路(MetaX)もまた生まれたばかりのGPUを扱う新興企業だ。2020年9月に設立されたMetaXは、設立以来、数十億元の資金を調達し、すでに300人以上の従業員を抱え、その80%が研究開発に従事していると言われている。
MetaXのGPUアーキテクチャは、完全に自社開発された命令セットとグラフィックスIPをベースに、従来のGPUのエネルギー効率のボトルネックを効果的に解消するとうたわれる。
MetaXは9月、10億元(約177億円)のシリーズAラウンドの資金調達を終了した。この資金調達は2つの国有株式投資プラットフォームが主導した。また、既存の株主であるLightspeed China Partners、Sequoia China、Matrix Partners Chinaも出資している。
壁仞科技(Biren Technology)は2019年に設立され、500人以上のスタッフを採用している。2021年3月には47億元(約834億万円)以上の資金を調達し、企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」の地位を主張している。
Biren TechnologyはAMD Greater Chinaの研究開発部門の責任者であったLi Xinrongが共同CEOに就任したことで注目を集めている。李は、GPUの分野で30年の経験を持ち、AMDに15年間勤務し、AMD Greater Chinaの研究開発、建設、管理を担当するバイスプレジデントに就任した。
同社は、当初は汎用のクラウド処理に注力し、AIのトレーニングや推論、グラフィックスのレンダリングなどの分野で、既存のソリューションに追いつくことを目指しているという。
同社の最初の製品の研究開発は終了しており、Biren Technologyは初のGPGPU製品「GPU+」がテープアウトし、実働検証を経て顧客にサンプルを配布し始めた。
機械学習専用チップ企業も台頭
コンピュータビジョン専用のチップを設計する瀚博半导体(Vastai Technologies)はすでに、パブリッククラウドと企業のデータセンターの両方に対応するAI推論アクセラレータである最初のチップのシリコンをテープアウトしている。
同社のシリコンはコンピュータビジョンやビデオ処理のアプリケーションに適しているが、BERTを含む自然言語処理(NLP)のワークロードにも対応できるという。将来的にはトレーニング用のチップも登場するかもしれませんが、今は推論に重点を置いている。
Vastai Technologiesは、上海と北京にデザインセンター、カナダのトロントに研究開発センターを設置し、中国で事業を展開している。Vastai Technologiesは2021年4月、5億人民元(約89億円)のシリーズA+資金調達ラウンドを終了したと発表した。同社は2020年11月に行われた前回のシリーズAラウンドで5,000万ドルを調達している。同社のこれまでの資金調達額は、初期のシードラウンド800万ドルを含めて約1億3300万ドルに上る。
天数智芯半導体(Iluvatar CoreX)は1月、7nmプロセスで製造したGPGPU「BI」が昨年11月にテープアウト後の実働検証を終え、同12月に量産に入ったと発表した。
米中の資本が流入
2020年下半期から、中国のチップ業界ではGPUへの投資がブームとなっている。同年6月には壁仞科技(Biren Technology)がシリーズAで11億元(約180億円)を調達。啓明創投(Qiming Venture Partners)、IDGキャピタル、Walden International Chinaがリードインベスターを務め、大手家電メーカー傘下のVC格力創投(Gree Venture Capital)も出資した。
今年2月には登臨科技(DENGLIN TECHNOLOGY)が、元禾璞華投資管理(Yuanhe Puhua)元生資本(GENESIS CAPITAL)がリードインベスターを務めたシリーズA+で資金を調達。北極光創投(northern light VENTURE CAPITAL)を含む既存株主らも出資に参加している。
また米国勢の投資も盛んだ。WSJが引用したニューヨークに拠点を置く調査会社ロジウム・グループのデータの分析によると、米国のベンチャーキャピタル(VC)、チップ業界の大手企業、その他の個人投資家は、2017年から2020年までに中国の半導体業界で58件の投資取引に参加しており、その数は過去4年間の2倍以上に上っている。
ロジウムの調べによると、2020年に米国のVCやその他の個人投資家が参加した中国のチップ分野の案件数は、過去最高の20件に達した。これは、米国の政策当局が中国による米国のチップ企業への投資や製品の購入を阻止しようとし始めた2017年以降、年平均14~15件の取引が行われていることを意味する。米国が中国からの投資に寛容であった過去4年間には、年間5~6件の取引にとどまっており、厳格化と同じ時期に投資が活発化したことになる。