中国のテック規制 次の一手は?
中国株の暴落に市場は戦々恐々
要点
7月に入り中国当局の包括的なテック規制が急進行し、中国株が米中の株式市場で暴落している。100周年を迎えた共産党が設定する終着点はどこか。次の一手に投資家は戦々恐々としている。
テクノロジー企業に対する中国当局の取り締まりは、配車大手滴滴出行(Didi Global)が先月末にニューヨークで株式公開したわずか2日後に突如勢いづいた。
中国の国家インターネット情報弁公室は7月4日、検査・確認の結果、滴滴出行アプリは違法に個人情報を収集・使用しており、重大な問題があると発表した。さらに、サイバーセキュリティー法の関連規定に基づき、アプリストアに対し、滴滴出行アプリを削除するよう通知した。
アリババの3,000億円の罰金を超える罰則が噂される同社の株価は、株式公開後42%も下落している。滴滴は中国当局から非公式の警告を受けていたにもかかわらず、投資家の出口戦略のため上場を強行した。これが当局の態度を「包括的に」硬化させた可能性がある。
これらの取り締まりの源流は、昨年10月にアントグループのIPO停止に遡らなければいけない。アントグループのジャック・マー(馬雲)は停止直前に行われた講演会で「中国に必要なのは、"文書の専門家" ではなく、"政策の専門家”」「銀行は質屋のメンタリティを持ち続けている」などと当局と金融機関を痛烈に批判した。その報告を受けた習近平が激怒したとも言われている。
この結果、IPOが停止となるだけでなく、デジタル人民元の普及に伴い、当局がアントのモバイル決済システムを解体し、傘下に収めるシナリオも否定できなくなっている。
当局に食って掛かったのは馬雲だけではない。今年の5月、料理宅配最大手美団(Meituan)のCEOである王興が反体制的な秦朝の焚書に関する唐詩をソーシャルメディアの「飯否」に投稿し、物議を醸した。美団の株価は5日間にかけて13%あまり下落し、約300億ドル相当の時価総額が吹き飛んだ。
国家市場監督管理総局(SAMR)は7月26日、美団に対する独禁法調査を開始したと発表した。国家市場監督管理総局を含む7つの政府機関が発表した指針は、SMARは美団などの料理宅配業者に対し、料理宅配の宅配員が最低賃金以上の報酬を得られるようにすること、宅配員がアルゴリズムによる不当な要求から解放されるようにすること、そしてこれらの労働者が社会保障を受けられ、組合に参加できるようにすることを命じた。
この政策は米バイデン政権のものとリンクするもので特段珍しくないが、美団の先行きの不透明感が増し、26日の香港株式市場では、美団が一時15%近く下落し、上場後で最大の下げを記録した。
最新の中国株急落要因は、テンセントが「すべての関連法規に対応するため」同社の主力アプリであるWeChat(微信)のユーザー登録を停止したと発表したことによるものだった。テンセントも投資先のゲームストリーミング企業の合併が独占禁止当局から退けられ、音楽部門では楽曲の独占的契約を禁じられている。
米国預託証券の投げ売り
滴滴の強行上場を引き金として、北京の指導者たちは、中国企業の海外上場方法の見直しを求めており、サイバーセキュリティ規制当局は、国家安全保障上の理由から、100万人以上のユーザーを持つグループの海外上場をすべて見直す予定だ。
おそらく今後、中国政府がメスをいれるのは、変動持分事業体(Variable Interest Entities:VIE)という、米上場の肝となる複雑な事業体だ。VIEはケイマン諸島のようなカリブ海のタックスヘイブンに作られるが、香港経由でつながった本土の事業体との契約により、支配関係を構築している。
米上下院は、米国に上場する企業に外国政府の支配下にないことを証明するよう求めるほか、米規制当局による会計監査状況の検査を義務付けている。検査を3年間、拒否したら上場廃止となる法案を2020年に可決している。
米中ともに国益のため規制の抜け穴を塞がないままにしてきた。データプロバイダーのDealogicによると、2014年にアリババが25億ドルを調達したのをはじめ、200社以上の中国企業は過去10年間で780億ドルを米国で調達している。
しかし、両者はいつでもこのつながりを切ることができる。そして、米中の緊張が高まる中、行われた滴滴への中国政府の唐突なサイバー・セキュリティ調査は、「そのとき」が近づきつつある印象を強めている。
中国当局によるテクノロジー産業に対する締め付け強化により、米国に上場している中国企業の株価はこのわずか5カ月で7690億ドル(約84兆8800億円)の時価総額が吹き飛んでいる。
投資家は中国企業の米国預託証券(ADR)の投げ売りを続けている。米上場の中国大手企業98銘柄で構成するナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は3営業日(7月25日〜7月27日)の下落率が約19%と、過去最大を記録した。構成銘柄の時価総額は2月の高値から8290億ドル(約91兆円)と、約半分吹き飛んだ。
米国でのさらなる上場が疑問視され、香港への方向転換が始まっている。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーをはじめとする投資銀行にとって、中国企業のIPOを支援することは利益の大きいビジネスだった。香港に変わることで手数料収入が落ち込むものの、背に腹は代えられないということだろう。
学習塾の非営利化
また、市場不安に拍車をかけたのが、教育テクノロジー業界への取り締まりである。7月24日、中国当局が学校の教科課程に関する学習支援サービス(主に学習塾・家庭教師)を手掛ける企業に非営利団体への転換を求めるほか増資や株式公開を禁止する胸を記した当局のメモが漏洩した。
影響を受けるのは家庭教師アプリ「Yuanfudao」に20.6%出資しているテンセントをはじめ、中国の家庭教師アプリに出資しているアリババ、ソフトバンク、タイガーグローバル、セコイア・キャピタル・チャイナなどだ。
TikTokのオーナーであるバイトダンスもまた、オンライン教育の分野で大きな計画を立て、1,000億ドル規模の市場に参入するために約1万人の従業員を雇用していた。しかし、中国が突然、学校のカリキュラムに営利目的の家庭教師を導入することを禁止したため、この計画は頓挫する可能性が高くなった。
ニューヨークに上場しているオンライン個別指導の「高途」の株価は今年の最高値149ドルから2.50米ドルまで98%下落した。
習近平は、3月の中国人民政治協商会議で、国内のK-12(幼稚園から12年生[高校3年生]までを指す)の放課後教育サービス市場を「社会問題」と表現した。SAMRは5月、オンラインに掲載された通知の中で、バイドゥとアリババが出資するZuoyebangとテンセントが出資するYuanfudaoの両社が、教師の職歴を偽り、売上を伸ばすために欺瞞的な割引を宣伝し、中国の価格設定法と不正競争防止法に違反したと発表していた。
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