ベイエリアは失敗都市 - テスラがテキサスに移転した理由

テックで稼ぐも住宅政策は崩壊

ベイエリアは失敗都市 - テスラがテキサスに移転した理由
サンフランシスコ市郡の南部と西部は一戸建てゾーニングが住宅政策のボトルネックとなっている。政治nリーダーシップが欠如。Source: Othering & Belonging Institute, UCLA

要点

ベイエリアは失敗都市の烙印を押されそうだ。テクノロジー産業が成功を収め、住人の一部は世界で類を見ないレベルの金持ちになったが、住宅価格は天文学的な高さだ。裕福さは都市を成功させる一要素に過ぎなかった。


電気自動車メーカー(EV)のテスラは、本社をカリフォルニア州パロアルトからテキサス州オースティンに移転するとイーロン・マスクCEOが発表した。

ヒューレットパッカードやオラクルなどのシリコンバレー企業に続き、テスラも税金が安く、ビジネスに適した環境であるテキサス州を選んで、米国のハイテク産業発祥の地を離れることになった。

マスクは、テスラの年次株主総会が開催されたオースティンのギガファクトリーでは、「カリフォルニアに家を建てるのは難しく、多くの人が遠くから仕事に来なければならない」と語った。「ベイエリアで規模を拡大するには限界がある」。

ベイエリア自治体連合によると、カルフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアでは2023年から2031年の間に、人口に合わせて44万戸以上の住宅を建設する必要があり、これは年間平均で約5万戸になる。しかし、この3年間は、年間平均2万5,000戸以下の住宅しか建設されていない。

これは、ベイエリアが米国内で最も住宅建設が難しい地域のひとつであるためだ。その理由は、制限的なゾーニング、集中的な許可手続き、そして地元団体が住宅開発を阻止することを歴史的に認めてきた州法にある。

ペンシルバニア大学の2人の研究者は、このような制限が住宅購入者にどれほどの負担をかけているかを解明しようとした。具体的には、米国の大都市圏の住宅所有者が、自分の土地の一部として所有できるが、建築や分譲はできない追加の土地に対して支払う金額と、その地域の住宅建設希望者が一戸建て住宅を建設するために同じ金額の土地に対して支払う金額との差を試算した。基本的には、もし人々が好きな場所に家を建てることができたら、土地の値段はどれくらい安くなるか。

研究者たちは、土地の実際の価格と、制限的なゾーニングがなければかかるであろう価格との差を「ゾーニング税」と呼んだ。実際には政府の税金ではないが、区画整理法や許認可の遅れといった人為的な供給制約が、異なる都市圏の土地価格に与える影響を推定したものだ。

全米経済研究所(NBER)が発表したワーキングペーパーによると、サンフランシスコ都市圏(サンフランシスコ、アラメダ、コントラコスタ、マリン、サンマテオの各郡を含む)では、4分の1エーカーの土地にかかる「ゾーニング税」の中央値は40万9,000ドルで、これは同地域の世帯収入の中央値の4倍以上にあたる。

テック産業の高給取りもこのゾーニング税のもとでは無力だ。Googleのソフトウェア開発者で、地域の世帯収入の中央値の2倍以上の収入である年収20万ドルがあったとしても、ゾーニング税の中央値だけで年収の2倍になる。この余分なコストは、この地域の住宅価格の中央値126万ドルの約3分の1を占めており、多額の頭金がなければ、中央値またはそれに近い価格の住宅のローンを組むことはできない。

サンフランシスコ地域の住宅市場は全米で最もゾーニング規制が厳しいが、規制の厳しさと住宅価格には強い正の相関があった、と主著者のペンシルバニア大学ウォートン・スクールのJoseph Gyourko教授は主張している。Gyourko教授は規制の厳しさは、因果関係には還元できないものの、サンフランシスコとアトランタの間の40万ドル強の価格差に関連している、と記述している。

このようなゾーニング規制は、住宅購入者にとってコスト高になるだけでなく、ベイエリアが米国の主要な雇用ハブとしての役割を果たし続けているにもかかわらず、住宅建設業者がベイエリアに住宅を建設することを困難にしている。マンハッタン研究所が最近発表したレポートによると、2009年から2018年にかけて、サンフランシスコ都市圏では住宅建設許可1件につき約3.5件の雇用が創出されたという。サンフランシスコの予算が2010年から2倍以上に増加しているにもかかわらず、人口の増加率は9%以下である。裕福にはなったが住宅は増えず、人も増えなかった。

最もボトルネックとなっているのが、一戸建てのみの建設を容認する「一戸建てゾーニング(Single-Family Zoning)」だ。

カリフォルニア大学バークレー校のOthering & Belonging Instituteは、一戸建てゾーニングが一般的に住宅をより高価にし、多くの中低所得世帯を締め出していることを発見した。その結果、富裕度の低い有色人種の住民の多くが排除され、人種的に隔離(サグリゲーション)がより多く発生している。

研究者たちは、一戸建てゾーニングされた住宅の割合を示すために、サンフランシスコ・ベイエリアのすべての区域をマッピングすると以下のようになり、その多くが一戸建て区画となった。

サンフランシスコ・ベイエリアのゾーニングのマッピング。ほとんどが一戸建て区画。住宅需要が高い地域にも関わらず、新規住宅の追加を認めない区画が策定されている。Source: Othering & Belonging Institute, UCLA
サンフランシスコ・ベイエリアのゾーニングのマッピング。ほとんどが一戸建て区画。住宅需要が高い地域にも関わらず、新規住宅の追加を認めない区画が策定されている。Source: Othering & Belonging Institute, UCLA

危機緩和策も効果は薄い

カリフォルニア州の住宅危機を緩和するための新しい法律は、サンフランシスコの住宅不足の解消にはあまり効果がないだろうとの分析結果が発表された。「SB9」と呼ばれるこの法律は、不動産所有者が一戸建て用の土地を分割して二世帯住宅にすることを許可するもので、これまで一戸しかなかった土地に最大3戸の住宅を追加することができる。

カリフォルニア大学バークレー校の「Terner Center for Housing Innovation」は、SB9によって70万戸の新築住宅が「市場で実現可能」になると発表した。これはそれなりの数の新築住宅だが、州全体で200万戸近い住宅不足を解消するには十分ではない。しかも、サンフランシスコでは、SB9によって住宅供給が増加するのは8,500戸に過ぎず、現在の住宅数の2%増に過ぎないとTerner Centerは推定している。これは、サンフランシスコの近隣地域が小さな土地に小さな家が建っていることが大きな理由だという。

「大量出国」と行政の腐敗

GDPがギリシャとほぼ同じであるサンフランシスコは、様々な問題に直面している。移民、ある種の犯罪、麻薬、ホームレスの増加などだ。また、機能不全や腐敗した行政は、これらの問題を解決するのを難しくしている。

昨年から国内で最も長く厳しいロックダウンに耐えながら、高額な家賃を支払わなければならないという見通しに直面し、人々はサンフランシスコを離れていった。商業不動産会社のCBREによると、サンフランシスコでは27%のオフィスが空き物件として売り出されている(マンハッタンの19%よりも多い)。

カリフォルニア大学のカリフォルニア・ポリシー・ラボの分析によると、サンフランシスコからの「正味の出国者数」(出国者数から入国者数を差し引いた数)は、2020年の第2四半期から第4四半期までで5,200人から約39,000人へと649%増加した。アパートメントの家賃の下落幅は全米で最大だったが、現在は回復しつつある。このような調整を行っても、サンフランシスコの生活費は、全米平均の約2.5倍、ニューヨーク市の44%増となっている。

イーロン・マスクやピーター・ティールが率いる企業などが郊外やシエラ、テキサス州オースティンなどに移動することが注目されているが、あまり裕福でない人々も移動している。2021年第1四半期の平均賃金は、前年同期比34%増と、大都市では最大の伸びを示し、全国平均の6倍となった。これは、地域での深刻な労働力不足を示唆している。

サンフランシスコ市は連邦捜査局(FBI)による大規模な公的汚職調査の最中にある。すでに市庁舎の元部長3人が連邦検察官によって起訴されており、その中には収賄容疑で告発されている公共事業部の元ボス、モハメド・ヌルも含まれている。

参考文献

  1. Gyourko, Joseph and Krimmel, Jacob, The Impact of Local Residential Land Use Restrictions on Land Values Across and within Single Family Housing Markets (July 2021). NBER Working Paper No. w28993, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3880226

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