クリエイターエコノミーの台頭

創造力の民主化と勝者総取りの法則

クリエイターエコノミーの台頭
Photo by Takushi Yoshida

要点

誰もがデジタルコンテンツから報酬を得られるクリエイターエコノミーが急速に成長している。しかし、成果物への報酬が一握りのスターに集中する中、この新しい経済は平衡を保てるのだろうか。


パンデミックが加速させた新しい経済

「我々も驚いている。スマートフォンでの動画撮影から、より本格的な動画の作成へと足を踏み入れるビギナーが増えており、対応が追いつかないほどだ」とアドビ株式会社の神谷知信社長は6月29日に開かれた戦略説明会で語った

アドビが提供するクリエイター向けソフトウェアの需要は近年旺盛であったが、それをコロナパンデミックが加速させた。Premiere Proというプロ向け動画制作ソフトウェアの利用者が急増しており、映画の編集も行えるツールに対してテレビ広告を打つような異常事態となった。

CMのターゲット像は、ソーシャルメディアで頻繁に動画をシェアしていて、「無料の動画編集ソフトだと少しこだわった映像が作れない、もう少し自分なりの動画を作りたい」とのニーズを持つ人だという。これでクリエイターの裾野がどれだけ広がったかがわかるだろう。

その結果はアドビの驚くべき業績成長という結果に跳ね返っている。米アドビ本社は、6月中旬に発表された、2021年度第2四半期決算において、四半期収益を38億4,000万ドルとし、前年同期比で23%の成長を達成。デジタルメディア部門の収益は、前年同期比25%増の27億9,000万ドルとなり、デジタルメディアの年間経常収益(ARR)は、前期比5億1,800万ドル増の112億1,000万ドルと驚異的な数字だ。

これは「クリエイターエコノミー」と呼ばれる誰もがクリエイターとなり、成果物から報酬をもらうという新しいトレンドを反映している。これにより、以前の敷居の高かったアドビの「プロ向け」のツールを手に取る人が急増し、デジタルコンテンツの洪水を引き起こしている。

これまでこのようなコンテンツクリエイターは無報酬でコンテンツを制作する「無給インターン」の側面を持っていた。現在は閉鎖されているショートビデオアプリ「Vine」は、その初期の例だ。2012年にTwitter社に買収されたVineは、2015年の最盛期には2億人もの月間アクティブユーザーを獲得。数多くのトップクリエイターを輩出した。

しかし、クリエイター支援のためのインフラが不足していたため、クリエイターが次々とプラットフォームを離れていった。「3年半は、私たちが無料であなたのプラットフォームに投稿するには長い時間だ」と、Vineのトップクリエイターは2016年にBuzzFeed Newsに語っている。「トップクリエイターの多くは、YouTubeで多くの成功を収め、今はFacebookで多くの成功を収めている」

インフルエンサーやクリエイターがより本格的なキャリアに志向するにつれ、間接的なマネタイズでは不十分になってきた。広告契約は広告主と広告代理店の気まぐれに左右され、ひも付きで、クリエイターを「低い立場」に押し留め、ステークホルダーの多さがトラブルを引き起こし、収入は月ごとに大きく変動し、入金は遅延しがちだった。クリエイターは広告収入を最大化するためには幅広いオーディエンスに対応しなければならず、特定のニッチや層に焦点をあわせることは困難だった。

しかし、最近では「無給のインターンたち」は自分たちの成果物に値段がつくことを知りつつある。クリエイターとユーザーを直接結び、報酬を定義できる仕組みが生まれたためだ。その結果、インターネット企業はビジネスモデルの変更を余儀なくされている。

クリエイターは、インターネットに接続するだけで世界中のオーディエンスにリーチでき、1,000人または100人の真のファンがいれば、生計を立てることができる。最近では、ブランドとの取引やデジタルコンテンツの販売、講座の開設などで、年間数百万ドルを稼いでいるクリエーターもいる。このようなオンラインのマイクロアントレプレナーは、今や米国で5,000万人以上に達している。

新しいプラットフォームでは、クリエイターが自らのアウトプットをお金に換える方法が提供されている。ブロガーやTwitterインフルエンサーは、Substackのような有料ニュースレターサービスに自分の考えを移行し、アマチュアのビデオゲームメーカーは、Robloxのようなプラットフォームで自分のピクセル作品を販売し、視聴者はAmazonが所有するTwitchのようなストリーミングサービスで「ストリーマー」がプレイする様子をお金を払って見るようになっている。

OnlyFansが2016年にサービスを開始して以来、同サイトはクリエイターに6億ドル以上の支払いを行ってきた。クリエイターは、毎月4.99ドル~49.99ドルの月額制で、ファンがコンテンツにお金を払えるようにすることができる(OnlyFansは20%の手数料を留保)
OnlyFansが2016年にサービスを開始して以来、同サイトはクリエイターに6億ドル以上の支払いを行ってきた。クリエイターは、毎月4.99ドル~49.99ドルの月額制で、ファンがコンテンツにお金を払えるようにすることができる(OnlyFansは20%の手数料を留保)。

新興企業は、クリエイターが自分の作品を収益化するための新しい方法を開発している。Substackは、作家にニュースレターの購読料の90%を提供しており、50万人以上の人がこのプラットフォームで出版物の購読料を支払っている。トップ10の書き手は、年間1,500万ドル以上の収益を上げている。

Twitchでは、ゲーム配信者に有料会員料の半分以上を提供し、さらに広告収入と投げ銭を分配している。典型的な上位のストリーマーは、週に40時間プレイすることで、月に3,000ドルから5,000ドルを稼いでいる。Twitchでお金を稼ぎ始めるには、およそ500人の定期的な視聴者がいれば足る。

Cameoは、4万人の著名人がパーソナルビデオをファンに販売するプラットフォームで、収益の75%を投稿者に渡している。アメリカのシチュエーション・コメディ「The Office」の俳優であるブライアン・バウムガートナーは昨年、100万ドル以上を稼いだ

Cameoで配信をする配信主。左から1人目が「The Office」で名脇役だったブライアン・バウムガートナー。
Cameoで配信をする配信主。左から1人目が「The Office」で名脇役だったブライアン・バウムガートナー。

ソーシャルオーディオアプリのClubhouseでは、チップの提供が可能で、有望なホストを対象とした「アクセラレータプログラム」を実施している。今後は、チケットやサブスクリプションなどの機能をテストする予定だ。

クリエイターエコノミーを支えているのがデジタル決済の発展だ。デジタル決済のコストはオンラインサービス提供者と利用者の双方において低下し、消費者は底に心理的障壁を感じることがなくなった。

2010年代後半から人口に膾炙した暗号通貨はこの経済の主要通貨に躍り出る可能性が出てきている。そして暗号通貨を可能としているブロックチェーンには、デジタルアセットの固有性を一定程度証明する仕組みであるノンファンジブルトークン(NFT)という副産物を生み出した。これによって、クリエイターがファンに対して様々なものを売ることが可能になりそうなのだ。

大手プラットフォームの変化

これを受けて、かつてはクリエイターにほとんど何も支払わなかったプラットフォームが、お金を出すようになっている。いまでは、ほぼすべての大手ソーシャルメディアは、クリエイターを惹きつけ、維持するための新しい基金、プログラム、機能を展開している。

Twitterは、SubstackやClubhouseのコピーで対抗している。1月にはニュースレター会社のRevueを買収し、手数料をSubstackの半分の5%に下げた。5月3日には、クラブハウスのようなオーディオ機能「Spaces」を追加し、近々、ユーザーが主催するチャットのチケットを販売できるようになる予定だ。ニュースレターへの登録やオーディオルームへの参加を、アプリを移動させることなくTwitterから直接行えるようにした。

TwitterのSpaceの画面。
TwitterのSpaceの画面。ライバルの台頭を押さえるためClunhouseを「そのまま」移植した格好。

Facebookはクリエーターを定着させることにも力を入れている。昨年は、有料会員制を普及させ、チップを使えるようにした。現在は「Super」というSubstack風のニュースレタープラットフォームをテストしており、TwitchへのオマージュであるFacebook Gamingに参加するゲーマーには大金を支払っている。その結果、このプラットフォームで月に1,000ドル以上を稼ぐコンテンツメーカーの数は、2020年にほぼ倍増したという。

Facebook Gamimg via Facebook.
Facebook Gamimg via Facebook. Facebookは持ち出しでストリーマーに報酬を支払っている。

クリエイター獲得競争

YouTubeは、一般のビデオ投稿者に広告収入の55%を提供してきたが、「スーパーチャット」というお布施のシステムのように新しい機能を開発している。YouTubeによると、2020年に有料の「パートナープログラム」に参加したチャンネルの数は、2019年の2倍以上になったそうだ。全部で過去3年間に広告収入のシェアや購読料として300億ドルをコントリビューターに支払っており、これは他のどのソーシャルプラットフォームよりもはるかに多い。また、Oxford Economicsの報告書によると、YouTubeは「2019年に米国のGDPに約160億ドルを貢献し、345,000人分のフルタイムの雇用を支えている」という。

ショートビデオアプリのTikTokは昨年、「クリエイターファンド」を立ち上げ、最初の3年間で20億ドル以上をユーザーに分配するとしている。TikTokの中国版「抖音」は、15億ドルを投じてクリエイターの収益を倍増させることを目指している。同じくソーシャルビデオアプリのSnapchatは、昨年「Spotlight」という共有機能を立ち上げ、最も人気のあるクリップのクリエーターに1日100万ドルを支払っている。

また、新しいタイプのメディアも参加している。中国最大のゲーム配信プラットフォームであるDouyuとHuyaは、昨年、それぞれ71億元(1200億円)をストリーマーに支払ったが、これは2019年よりも31%多い金額だった。ポッドキャストの2大プラットフォームであるSpotifyとAppleは、ポッドキャスターの獲得競争を繰り広げている。

多くのプラットフォームは、最も成功したクリエイターに対してより良い条件を提示している。Twitchでは、トップストリーマーへの受信料収入の分配率が高く、Substackでは、ヒットすると思われる作家に前金を支払っている。Substackからメールリストを移すのは簡単なので、作家には収益の90%を還元している。Robloxのゲーム制作者は、基本的にRobloxから離れられないため、収益の25%程度の収入しか得られない。

TwitchでのFortnite実況で人気が爆発し、その後多額の契約金でストリーミングプラットフォームを渡り歩くNinja. Image via Redbull.
TwitchでのFortnite実況で人気が爆発し、その後多額の契約金でストリーミングプラットフォームを渡り歩くNinja. Image via Redbull.

ギグ・エコノミーと同様に、クリエイター・エコノミーにおいても、供給過多のインセンティブが働いていることは見逃せない。すなわち、コンテンツを作りたいと思うクリエイターが多数存在し、アルゴリズムによって次々と代替案が提供される。クリエイターとしての自分のコンテンツはコモディティ化しており、ライバルのコンテンツと代替可能なように映る。

しかし実際には、常にオンライン上にいるスターとの単純接触効果が他の有名人よりも彼らの視聴者をより忠実にしている可能性がある。例えば、ヒカキンは2008年から動画のアップロードを続け、2010年頃には人気者となったが、その後も人気を拡大し続けている。

知名度の高いインフルエンサーはコンテンツをクリック・タップされる可能性が他のクリエイターに比べ高く、レコメンドがそれを織り込んで彼らのコンテンツを多く露出することがある。トップクリエイターはプラットフォーム上のプレゼンスを雪だるま式に増やしていく好循環を享受しやすい立場だ。

クリエイターの経済学: 1% vs 99%

では、フォロワー数が少ないクリエイターはどうだろうか。ハーバードビジネススクールのリ・ジンは「少数のオンラインスターは大金を稼いでいるが、大多数は十分なお金を得ることはかなわない。クリエイターエコノミーには中産階級が必要だ」と主張している。

Spotifyに登録している700万人以上のミュージシャンのうち、年間5万ドル以上のロイヤリティを得ているのはわずか0.2%、1,000ドル以上のロイヤリティを得ているのはわずか3%だ。Spotifyでは、フルタイムの最低賃金労働者の年間収入である1万5,080ドルを達成するためには、アーティストは年間350万回のストリーミングが必要であり、この事実により、ほとんどのミュージシャンはツアーやグッズで収入を補っている。

Robloxには2,000万ものゲーム体験があるが、ゲーム開発会社エレクトロニック・アーツのラン・モーの分析によると、全プレイの15%近くが「Brookhaven RP」という1つのゲーム内ゲームの中で行われている。あらゆる種類のクリエイティブなサービスを申し込むことができるPatreonでは、20万人のクリエイターが年間で合計10億ドルを稼いでいる。トップの稼ぎ手は約200万ドルだが、約98%は連邦政府の最低賃金である月1,257ドル以下だ。

ワイアード誌の編集者であるクリス・アンダーソンが2004年に「ロングテール」理論を発表して以来、この考えは議論され続けてきた。アンダーソンは、インターネットが物理的な制限(地域の視聴者や希少な棚のスペース)を取り除くことで、ニッチな製品やクリエイターが活躍できるようになると主張した。

しかし、ロングテールが微笑んでいるのは、ニッチプレイヤーではなくスーパースターの方だ。オーディエンスのダイナミズムとレコメンドアルゴリズムの相互作用は一握りのスターへの一極集中をもたらした。

コンテンツの洪水が起こる中、人々はその関心の行く宛をレコメンドに装填された人工知能(AI)技術に委ねているのだ。このようなプラットフォームでは、富が集中していないということは、競合他社がトップクリエイターを奪い、ビジネス全体を脅かすリスクが少ないことを意味する。

1981年にシカゴ大学の経済学者シャーウィン・ローゼンが発表した論文では、テクノロジーの発達によって「スーパースターの経済学」がより顕著になることを予見的に説明している。そして40年を経た現在、この経済学は国家、都市、企業のセクターで顕著になっている。クリエイターエコノミーもまた例外ではなかった。

「スーパースターの経済学」を享受するYoutuberのヒカキン。彼はテレビ番組同様の撮影クルーを持っている。

しかし、サブスクリプションやその他のマネタイズモデルへのトレンドは、この状況を変えつつあり、クリエイターの中産階級の可能性をもたらしている。

オンラインコンテンツで生計を立てることが可能になればなるほど、クリエイターと消費者の間を取り持ってきた企業の立場は危うくなる。個人の作家が乗り越えられなかった物理的な流通の問題を解決した新聞は、その一例だ。Substackには、グレン・グリーンウォルドやマシュー・イグレシアスなどのジャーナリストが名を連ねているが、彼らは、かつて彼らを雇っていた新聞社よりもはるかに高い報酬を読者が喜んで支払ってくれることを知っている(そして、ニュースレターは彼らに大きな編集の自由を与えてくれる)。

また、クリエイターの資金調達も簡単になってきている。「HIFI」というスタートアップは、アーティストのロイヤリティ管理を支援し、定期的に支払いを行ったり、不足分を補うために小額の資金を提供したりしている。

参考文献

  1. Goldman sachs. Music industry report. May 14, 2020.
  2. Vine Stars Want To Be Paid, And Twitter Is Considering It. BuzzFeed News. Alex Kantrowitz. March 14, 2016.
  3. The Creator Economy Explained: How Companies Are Transforming The Self-Monetization Boom. CB Insights. June 15, 2021.
  4. The Passion Economy and the Future of Work. a16z. Li Jin.
  5. Li Jin, Nathan Baschez, and Yash Bagal.  Apple is Holding Back the Creator Economy. Dec 18, 2020
  6. Jinal Sanghavi. Move Over, it's the Creator's Economy.  May 26, 2021

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