料理宅配はコロナ・ブーストでも黒字化しなかった
自律ロボットがギグエコノミーを退場させる
要点
マーケットプレイス型の料理宅配はお金を燃やすために生まれたようなビジネスモデルだ。画期的なブレークスルーがない限り、黒字化することはない。この低スキル労働に人々を釘付けにするのは、労働人口が減少している日本にとって得策ではない。
報酬は約3割下落
ウーバーイーツジャパンが3月から、一部地域で配達員の報酬体系を見直した、と共同通信が報じた。
労働組合「ウーバーイーツユニオン」や複数の配達員への取材で明らかになったという。報道は「配送距離などに応じて算出する基本料の水準を下げ、報酬総額は平均で約3割下落したとみられる」としている。
ここから推測できるのは、流行してきたこのビジネスが、実は黒字化から程遠いところにあるかもしれないことだ。東京は欧米諸国の都市に比べて人口密度が高く、コロナ禍によるブーストによってビジネスの収益性を担保できる可能性が期待されていた。
黒字化しづらい構造
料理宅配は、レストラン、配達員、顧客の3者マッチングで、2者マッチングの配車より複雑だ。この3者マッチングの特徴の一つは、いずれかの供給が不十分になると、マーケットプレイスがうまく働かなくなることだ。そのため、恒常的に「補助金」を付ける必要がある。補助金の内訳は、配達員報酬の増額、レストランへの手数料の切り下げ、それから広告費だ。これらを含んだコストが、非常に薄いUberの取り分を蝕んでしまうようだ。
Uberの配車単体のEBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益)は、3億8,800万ドル(2017年)、15億4,100万ドル(2018年)、20億7,100万ドル(2019年)と、コロナパンデミックが起きる前までは黒字だ。これに対し、料理宅配単体のEBITDAは、-3億5,500万ドル(2017年)、-6億100万ドル(2018年)、-13億7,200万ドル(2019年)と赤字で推移している。2019年の料理宅配の収益である13億8,300万ドルを生み出すために2倍のコストを投じたことになる。
さて、コロナブーストがかかった2020年はどうか。2020年通年の料理宅配のEBITDAは-8億7,300万ドルだ。Gross Bookings(総予約)は43億7,400万ドル(2019年)から100億50万ドル(2020年)まで130%成長したものの、Uberの取り分は薄く、収益は4億1,800万ドル(2019年)から13億5,600万ドル(2020年)までの増加に過ぎなかった。そしてコストが十分に圧縮されなかったため赤字となった。
料理宅配はビジネスとして成立しているかは怪しい。改善の余地があるのかすら疑問がある。少なくとも画期的なブレークスルーがいるのは明白だ。
ギグワーカーへの深い依存
さらにこの資本効率の低いビジネスを支える影の存在がいる。それが「ギグワーカー」と呼ばれる独立請負者だ。日本の場合、ウーバージャパンは配達員を正規雇用せず、配達員はウーバーポルティエ社から単発仕事の請負う形態をとっている。
昨年、カルフォルニア地裁は同州の新法に基づいて、ギグワーカーを従業員化するようウーバーに迫ったが、ウーバーは従業員化が義務付けられた場合、同州での操業を停止すると主張した。
カルフォルニア大学バークリー校のケン・ジェイコブス教授とマイケル・ライヒ教授らの研究によると、カリフォルニア州は、配車企業からの4億1300万ドルの失業保険税の納税を逸失している可能性がある。
カリフォルニア州では、雇用者への失業保険の税率は給与の3.4%と設定されるが、10年以上前の創業以来、UberとLyftは、州の失業保険基金への支払いを行っていない。両社は、運転手は従業員ではなく独立請負者であるとして、税制を迂回してきた。これは、費用の外部化であり、政府や地方自治体が提供する社会インフラへのフリーライドに当たる。
自律ロボットの時代
コロナパンデミックは、世界中でロボット化の波を生み出しているが、機械学習技術とロボティクスが融合した「自律ロボット」が普及し始めれば、社会保険から除外された請負労働に依存したビジネスモデルは過去のものになるだろう。
Waymoはセーフティドライバーなしの自律走行を部分的に提供している。2020年12月には中国のスタートアップAutoXが、深圳の繁華街でテレオペレーターや安全運転手なしで顧客を送迎していると発表した。このようなロボタクシー(robo-taxis)と呼ばれる自律走行車の車群によって形成されるサービスがモビリティの主流の一つになるはずだ。
料理宅配もまた自律的なロボットに取って代わられる可能性がある。ピザハット・イスラエルは、イスラエル政府とともに僻地に所在する顧客に自律的なドローンによってピザを宅配するプロジェクトを今年6月から開始する。試験に使われるドローンは実際には25キロの荷を運ぶことができる。ここから無人機が様々なラストワンマイル輸送を置き換えるのを想像するのは容易なはずだ。
Photo: "Uber Eats bicycle"by Yuya Tamai is licensed under CC BY 2.0
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