「ネットワーク化された電池」としてEVの価値

今後のEV普及を見越して、V2G(ビークル・トゥ・グリッド)が脚光を浴びている。再エネの余剰電力を貯蔵し、電力システムが受給を調整するのを支援する「電池ネットワーク」はいずれ当たり前になるかもしれない。

「ネットワーク化された電池」としてEVの価値
Photo by Robert Linder

今後のEV普及を見越して、V2G(ビークル・トゥ・グリッド)が脚光を浴びている。再エネの余剰電力を貯蔵し、電力システムが受給を調整するのを支援する「電池ネットワーク」はいずれ当たり前になるかもしれない。


GMのエネルギー部門とサンディエゴ・ガス&エレクトリック(SDG&E)は、V2Gの機能の普及に必要なハードウェア、ソフトウェア、プロセス、設備建設に関する協力で合意した。両者による実現可能性評価には、クラウドベースのエネルギー管理プラットフォームとEVなどの分散型エネルギー資源を活用し、バーチャルパワープラント(VPP)を実現できるようなシステムを開発することも含まれている。

V2G技術は、再生可能エネルギーからの余剰エネルギーをEVの電池パックに蓄え、エネルギー需要のピーク時に送配電ネットワークに放出する技術である。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のDonald Shoup教授の研究によると、平均して、自動車は耐用年数の95%を駐車しているそうだ。有給状態のEVは、電池の供給源とみなすことができ、V2Gへの利用可能性を示している。

GMの協業相手のSDG&Eがあるカリフォルニア州には120万台のEVがあり、全米で最も集中している。2035年からは、カリフォルニア州で販売されるすべての新車と乗用車がゼロエミッション車になることが義務付けられており、今後もEVは増える予定だ。

MITの研究チームがEnergy Advances誌に発表したV2G技術に関する研究では、電気自動車(EV)の増加に伴い、その集合体の電池が費用対効果の高い大規模なエネルギー貯蔵システムとして機能し、再生可能エネルギーの採用を助けることが判明した。

MITで化学工学の博士課程に在籍する主執筆者のJim Owens、MITエネルギー・イニシアティブ(MITEI)の主任研究員であるEmre Gençerと、研究当時MITEIのリサーチスペシャリストであったIan Millerは、EV走行モデルとV2Gサービスモデルを、発電・蓄電・送電システムの投資・運用コストをシミュレーションするGenX、自動車台数と電力需要の伸びを予測するSESAMEというMITEIの既存モデリングツール2つと組み合わせた。

これにより、研究者らはV2Gがニューイングランドの架空電力系統に与える影響を分析。研究者は、EVの普及率、従来型電源と再生可能電源の発電コスト、充電インフラの更新、自動車の走行需要、電力需要の変化、EV用電池の価格などを考慮し、モデルの微調整を行ったという。

この結果、ニューイングランド地方の想定される800万台の小型EVのうち13.9%がV2Gを導入した場合、14.7ギガワットの定置用エネルギー貯蔵が不要になることを研究者らは発見した。これは、蓄電池の増設にかかる推定コストに匹敵する7億ドルの節約を意味する。

加えて、電力系統におけるV2Gアプリケーションは、炭素排出規制のどのレベルにおいても、また、排出規制が全くないシナリオにおいても、有利であることが確認された、と論文は主張している。彼らの計算によると、V2Gが電力網に最も恩恵をもたらすのは、炭素規制が最も厳しい場合、例えば負荷1kW時あた10gの二酸化炭素の場合である。V2Gによる電力系統の節約額は1億8,300万ドルから13億2,600万ドルで、これはEVの普及率が5%から80%の間であることを反映している。

以下の図は、V2Gの参加率が50%である一週間のV2Gの動作を示したもの。アグリゲータが制御するV2Gフリートは、再生可能エネルギーの発電ピーク時に充電し、ベースロードと非参加のEV充電がともにピークとなる夕方の時間帯に送配電網に放電している。オレンジ色の天然ガス発電の一部をV2Gが貯蔵した余剰電力で補っている。

James Owens et al(2022). CC BY-NC 3.0.
James Owens et al(2022). CC BY-NC 3.0.

統合エネルギーシステムとの組み合わせ

V2Gの効果は、動的に送配電ネットワークの電力の供給をコントロールする統合エネルギーシステム(IES)に依存するかもしれない。北京科学技術大学のHongqian Weiらによる研究は、V2Gと統合エネルギーシステム(IES)の組み合わせは、「エネルギーと輸送の両分野における脱炭素化のための新たなソリューションとなる」と主張している。

Weiらは、気候条件の異なる3つの都市と、住宅地と商業地の2つの機能エリアを考慮した6つのケーススタディを実施。V2GとIESを柔軟な蓄電池として結合することの実現性を評価するために、V2GをIESに組み込んだシステム計画フレームワークを提案した。その結果、北京と商業地域のケースが最も大きな相互利益を達成できることが明らかになった。感度分析の結果、電力価格とガス価格がシステム設計に大きな影響を与えることがわかった。

もう一つ、求められる将来の発展は、電気系統の周波数と電圧の調節の管理システムなどのアンシラリーサービス(AS)である。ASによって、電源・送配電ネットワークが一体となり、瞬時瞬時の需給バランスを維持することにより、高品質かつ安定した電力の使用を可能にするとされる。ASがなければ、MITの論文が想定するような動的な電力の運用はできないのだ。

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