EVのモーターがレアアースを必要としなくなる

テスラは次世代のモーターが希土類(レアアース)・フリーであると明言し、EV業界におけるレアアース削減の動きを主導した。中国の供給網支配は強烈で、EVメーカーはリスク分散が求められている。

EVのモーターがレアアースを必要としなくなる
次世代のレアース・フリーの出典:2023 Investor Day、テスラ。

テスラは次世代のモーターが希土類(レアアース)・フリーであると明言し、EV業界におけるレアアース削減の動きを主導した。中国の供給網支配は強烈で、EVメーカーはリスク分散が求められている。


テスラは、3月初旬の投資家向け説明会で、次世代のモーターにレアアースのネオジム磁石を使用しないと発表した。

パワートレイン・エンジニアリング担当バイスプレジデントのコリン・キャンベルは「Model 3 とModel Yのパワートレインはすでにレアアースの消費量を4分の1に削減しており、テスラの次期ドライブユニットにはこの材料を一切使用しない永久磁石モーターを採用する」と述べた

説明では明言されなかったが、テスラの次世代モーター設計においてネオジム磁石に代わる最も可能性の高い候補は、フェライト磁石であると予想される。フェライト磁石は酸化鉄を主成分にコバルトやニッケル、マンガンなどを混合焼結した磁性体だ。

ただし、影響は限定的なようだ。金属・鉱物のアドバイザリー会社Adamas Intelligenceの調査によると、世界のネオジム磁石の消費量のうちEVモーターが占める割合は12%で、そのうちテスラは約15%から20%を担っていたという。

テスラがレアアース不要の新しいモーターをすぐに商業化し、規模を拡大できると仮定しても、世界のレアアース磁石市場は「短期的には需要のわずか2~3%を失うだけで、テスラがEV市場のリーダーシップを維持すると仮定すると長期的には最大3~4%になる」とAdamas Intelligenceは書いている。

だが、テスラの決断を他社が追随する可能性はあり、レアアース・フリーは長期的な共通の目標になりうる。

プロテリアル(旧日立金属)は昨年12月、シミュレーションで、レアアースの使用量を減らしたモーター(フェライト磁石を使用)が、「一定の条件下」では、ネオジム磁石を使用したモーターと同等の出力を達成したと発表した。「フェライト磁石としては世界最高レベルの磁気特性を持つ当社高性能フェライト磁石NMF15材」を採用し、シミュレーションで設計の最適化を行ったという。

フェライト磁石を使用した永久磁石同期電動機(PMSM)は、1つ以上のパラメータにおいて、ネオジム磁石を使用した代替品と同等以上の性能を発揮できることが実証されているが、この性能には大きな重量または効率のペナルティが伴うため、従来はこの切り替えは魅力的ではなかった。

プロテリアルが提案した新しいモーター設計例(図表の「高性能フェライト磁石使用①」)では、フェライト磁石を使用したEVトラクションモーターをシミュレーションし、ネオジム磁石を使用した同等のPMSMの出力と最大回転速度に一致させたが、重量は30%重い。

出典:プレスリリース「xEV駆動モーター用高性能フェライト磁石の提案を開始」、プロテリアル
出典:プレスリリース「xEV駆動モーター用高性能フェライト磁石の提案を開始」、プロテリアル

プロテリアルの2つ目の設計(図表の「高性能フェライト磁石使用②」)では、フェライト磁石を使用したEVトラクションモーターをシミュレーションし、NdFeB磁石を使用した同等のPMSMの出力とモーター重量に匹敵するものの、50%高い回転速度で作動する。「このためトルクが大幅に減少する」とAdamas Intelligenceは書いている。

レアース・フリーのモーターはアカデミアでは以前から研究が行われており、産業的なニーズが急増したことから、今後はテスラやプロテリアル以外のプレイヤーも力を注ぎ、実用化の引力が生じるのは想像に難くない。

レアアースは、レアメタルの一種で、17種類の元素(希土類)の総称だ。EVに含まれるレアアースは、電池よりもモーターに使われる。最も多く使われているのはネオジム磁石で、スピーカーやハードディスク、電気モーターなどの強力な磁石に使われている。ネオジム磁石の添加物として、ジスプロシウム、テルビウム、プレソジムもよく使われている。

レアアースの種類。経産省プレスリリース「日本として初となるレアアース(重希土類)の権益を獲得します」より抜粋。
レアアースの種類。経産省プレスリリース「日本として初となるレアアース(重希土類)の権益を獲得します」より抜粋。

中国依存を削減する動き

レアアースは、自動車のモーター、風力タービン、ミサイル、戦闘機など、多くのハイテク用途に欠かせない17種類の金属のグループから構成されている。米国とその同盟国は、中国は、この材料の採掘の約3分の2と精製の85%を占めていることを、国家安全保障上の大きなリスクとみなしている。

中国への依存を減らす動きも出ている。双日は、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と設立した日豪レアアース(JARE)を通じ、豪州にライナス・レアアースズへ総額2億豪ドル相当を追加出資し、電動車向けモーターなどに使用するレアアースの日本向け供給を確保した、と明らかにした。

住友商事はEV向けのレアアースで、中国抜きのサプライチェーン(供給網)を構築したいと考えている、と日経が2月下旬に報じた。これまで精錬などの工程を中国に依存してきたが、米国と東南アジアに切り替える方針という。

参考文献

  1. Riba, Jordi-Roger & López-Torres, Carlos & Romeral, Luis & Garcia Espinosa, Antonio. (2016). Rare-earth-free propulsion motors for electric vehicles: A technology review. Renewable and Sustainable Energy Reviews. 57. 367-379. 10.1016/j.rser.2015.12.121.
  2. M. S. Islam, S. Agoro, R. Chattopadhyay and I. Husain, "Heavy Rare Earth Free High Power Density Traction Machine for Electric Vehicles," 2021 IEEE International Electric Machines & Drives Conference (IEMDC), Hartford, CT, USA, 2021, pp. 1-8, doi: 10.1109/IEMDC47953.2021.9449585.

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