インドネシアの「日本車の牙城」、EVブームに脅かされる

インドネシアは、ニッケルという必要不可欠な電池材料の産出国であり、欧米中に次ぐ「EV競争の台風の目」と目されている。同国ではEV投資が急増し、長く続いた日本車の地盤がゆらぎ始めている。

インドネシアの「日本車の牙城」、EVブームに脅かされる
Photo by Aleksandr Popov 

インドネシアは、ニッケルという必要不可欠な電池材料の産出国であり、欧米中に次ぐ「EV競争の台風の目」と目されている。同国ではEV投資が急増し、長く続いた日本車の地盤がゆらぎ始めている。


インドネシアのアグス・グミワン・カルタサスミタ産業大臣は3月下旬、EV補助金の概要を説明した。新しい電動バイク1台につき700万ルピア(6.2万円)の補助金が支給され、既存の税制優遇措置に上乗せされる。さらに、3万5,000台のEVと138台のEVバスに対して、さらなる優遇措置が取られる予定である、と大臣は語った。

優遇措置は、インドネシアに生産拠点を持ち、40%以上現地の部品を使用している自動車メーカーに対して行われる予定だ。この条件を満たすのが韓国の現代自動車と中国の上汽通用五菱汽車のみであるという。

さらに4月3日、政府はEV購入の付加価値税を年内は11%から1%に引き下げると発表した。電動バイクはホンダとヤマハが支配する同国の二輪市場を、EVはトヨタらが支配する四輪市場を脅かそうとしており、そこにインドネシアはインセンティブを設けているのだ。

同国ではEV関連企業の資金調達が活発になっている。新規株式公開(IPO)市場は、国有企業の上場、グローバルなEVサプライチェーン統合への取り組み、同国のEV産業への関心などから、第1四半期に株式公開した企業は、香港の2倍となる14億5,000万ドルを調達し、盛況となっている。

市場の変動にもかかわらず、企業はIPOの準備を進めており、証券会社は、国際的な売出しを見込んで、年間を通じて中規模から大規模の株式公開が行われると予想している。

Harita Nickel、Merdeka Battery Materials、Hillcon などのニッケル企業の上場は、インドネシアが世界最大級のニッケル埋蔵量を持つことから、EV市場で重要なグローバルプレーヤーになるという国家的な目標とリンクしている。

インドネシアのニッケル産業は、長らく欠けていた下流(精錬、加工)への拡張を加速しており、精錬所の建設が続く。インドネシアは2009年、ニッケルを含む未加工の金属鉱石の輸出を禁止する政策を実施し始めた。この政策は2017年に一時的に緩和されたが、2020年1月1日に復活し、法令が「厳密に執行」され、中国企業の投資によって国内の精錬能力が拡張した。

インドネシアのEV供給網の野望
インドネシアは、中国が圧倒的な優位を築き、欧米が巨額の産業政策で追走するEV供給網をめぐる競争の中で、台風の目となっている。この特集記事ではEV大国化を目論む同国の野心とその政策について詳述している。

より川下の電池とEVの生産プロジェクトも進行中だ。ニッケルが豊富なスラウェシ島やハルマヘラ島を中心に、中国の電池大手CATLや韓国のライバル、LGエナジーソリューションが主導する電池関連工場が数十件建設中である。

コンサルタント会社のBenchmark Mineral Intelligenceは、メーカーが公表している計画を分析し、2031年までに中国に226ヶ所と電池のギガファクトリーが建設されると予想したが、インドネシアも24ヶ所と一角を崩すことになるとみている。

中国に電池のギガファクトリーが一極集中すると予想されるが、インドネシアも一画を崩すとみられる。出典:Benchmark Minerals

インドネシアは、EV電池のエコシステムを開発するために、2026年までに300億ドルの投資を見込んでいる、とルフット・パンジャイタン調整相は1月に発言している。

テスラとBYD、インドネシアのEV市場に投資するための契約を締結
テスラや中国の自動車メーカーBYD、韓国の現代自動車が、インドネシアの電気自動車産業への投資に向けて最終調整に入ったと、ある高官が述べた。

同国内の電池、EV市場に最も積極的に参入してきたのは、エネルギー、インフラ、電気通信にまたがる利益を有するコングロマリットであるバクリー&ブラザーズだ。同社は昨年、子会社のVKTR Teknologi Mobilitasを通じて、公共バスシステムにBYDの電気バスを数十台供給し、さらなる取引を求めている。

インディカ・エナジー、アダロ・エナジー、TBSエネルジ・ウタマといった大手炭鉱会社は、過去2年間の石炭価格の高騰で記録的な利益を得ている。TBSは2021年、インドネシアの配車大手Gojekと合弁会社Electrumを設立し、この10年間でGojekのドライバー向けに200万台の電子スクーターを供給する目標を立てた。Electrumは、台湾のeスクーターメーカーGogoroやインドネシアの国営eスクーターメーカーGesitsと提携して調達しているが、今年中に自社で生産施設を建設する予定である。

一方、アダロは、韓国の現代自動車とインドネシアでの自動車、電池セル、アルミニウムの生産における協力をめぐるパートナーシップの覚書を締結

これを踏まえてアダロは電池子会社を設立し、子会社を通じて1兆5,100億ルピア(約134億円)の増資を行った。アダロはボルネオ島に20億ドルのアルミニウム製錬所と支援施設を建設中で、第一期は2025年に終了する予定。アダロが採掘したアルミニウムや電池材料が現代に供給される見通しだ。

Read more

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表 往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史