タイのEV化が想定よりだいぶ速い:日本車の独占が危うい

東南アジアの自動車製造拠点であるタイのEV化が、想定を上回る速度で急速に進んでいる。今のところ、日本勢は対抗となるEVを出していない。同国政府は生産と消費のEV化を企図しており、中国勢が市場を制圧するシナリオは、十分に有り得るものになっている。

タイのEV化が想定よりだいぶ速い:日本車の独占が危うい
小型ハッチバックのBYD DOLPHIN。出典:BYD

東南アジアの自動車製造拠点であるタイのEV化が、想定を上回る速度で急速に進んでいる。今のところ、日本勢は対抗となるEVを出していない。同国政府は生産と消費のEV化を企図しており、中国勢が市場を制圧するシナリオは、十分に有り得るものになっている。


タイメディアAutolifeThailandが報じた2023年9月のタイの自動車販売台数のデータによると、タイの9月のEV販売台数は6875台。BYDが過去最高の3,242台を販売し、同社のEV市場のシェアは47%に達した。2023年1月から9月までにタイで登録されたEVは5万347台。このうちBYDのシェアは36%。

1−9月のタイの総自動車販売台数は50万942台で、EVが占める割合は10.05%に到達しているという。累計EV販売台数は、前年の9,729台から、9月時点ですでに5倍以上に増加したという。

リサーチ会社マークラインズのデータは8月までだが、内燃機関車(ICE)を含んだ全体の小売販売台数でも、BYDが3.7%でシェア5位、MGが3.5%で6位と、中国EV勢はすでに上位に食い込んでいる。トヨタ34.6%、いすゞ18.9%、ホンダ11.8%と3強には遠いものの、EV勢は市場を開拓したばかりであり、どこまで伸びるかが興味深い。

AutolifeThailandのデータに戻ると、9月のEVブランドトップ3は、BYD、MG(上海汽車傘下)、哪吒汽車(NETA)で、すべて中国メーカーだった。 中国メーカーはタイのEV市場で87%のシェアを占め、テスラが唯一気を吐いている非中国企業である。

EV市場を牽引するBYDのタイでの人気モデルは小型ハッチバック車「DOLPHIN」(699,999バーツ、約282万円)とSUV「ATTO 3」(109.9万バーツ、約442万円)。DOLPHINは発売初月に481台を販売し、EV販売台数第5位を達成。安価で航続距離が十分にある同車種は新興国市場と相性がいい。2023年6月にブラジルで発売されたDOLPHINは、わずか2ヵ月で4,000台以上を販売し、ブラジルで8月に最も売れたEVとなった。BYDは9月28日、価格132万5,000バーツのEVセダン「Seal」を発売した。こちらも発売後1時間で1,000台以上の受注を獲得している。

日産が2018年に実施した調査によると、タイの消費者の44%がEVの購入を検討すると回答している。このことから、タイ市場はまだ完全に成熟していないものの、消費者はすでにEVを導入する準備が整っており、自動車メーカーにとって絶好のチャンスであることがうかがえる。

中国企業の現地生産化

タイはEV国産化の優遇税制を展開しており、現地生産化が中国企業の進展している。上海汽車集団とタイ大手財閥CPグループは、タイ東部チョンブリ県の工業団地で合弁事業を立ち上げ、新エネルギー車(NEV)部品の現地生産を始める計画。一方、中国の長城汽車はタイでのEV生産能力を増やす方針であり、昨年は小型EV「オラ・グッドキャット」の市場投入を成功させた。さらに、BYDはタイ東部のラヨーン県で海外生産工場を設立し、2024年の操業開始を目指している。フル稼働で年間15万台の供給能力となる。

バッテリー製造能力は、EVのコストと性能に大きく影響し、その規模がEV供給網を規定する。中国のEV電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)は、タイのアルンプラスとの戦略的協力で、「CTP(セル・トゥー・パック)」技術のライセンスを供与することを発表した。タイのエナジー・アブソリュートは、中国のリチウムイオン電池メーカー、恵州億緯鋰能と欣旺達電動汽車電池との間で、電池工場建設の交渉を進めている。

東南アジアで中国のEV供給網が伸長:着々と進む日本支配を覆す準備
東南アジアで中国のEV供給網が着々と構築されている。販売もタイを筆頭に電動化の兆しを見せている。日本支配を覆す助走が始まった。日系メーカーが行う極東での意思決定は余りにも遅く、時代の趨勢を読み違えたのかもしれない。

2020年以降、タイの自動車市場で、日本メーカーが長らく支配していた状況に変化が見られるようになった。BYDや長城汽車などからの14億4,000万ドルの中国からの投資が影響している。特に、BYDが2024年に開始予定の新しい工場への投資があり、昨年中国は日本を超えてタイへの最大の直接投資国となった。これはインドネシアの状況と似ている。

タイは東南アジア最大の自動車製造拠点であり、60年以上の自動車組立・製造の経験を持つ、確立された自動車産業を誇っている。年間200万台近くの自動車を生産し、東南アジアの自動車市場の約半分を占めている。

タイは外国車には高い輸入関税を課す一方、国産車には減税を行い、メーカーが現地のサプライチェーンに投資するよう誘致してきた。この取り組みは、タイの自動車産業を支える強固な産業とエコシステムに結実した。

タイ政府はEVの普及に積極的で、EV購入の税額控除など有利な政策を打ち出している。政府はまた、2035年までに内燃機関を廃止し、2030年までに新車販売の50%をEVにすることを計画している。

タイは平均気温は24~30℃で、18℃を下回ることはめったにないため、消費者は、寒さのためにバッテリーの航続距離の減少に悩まされることがない。

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