スーパーアプリ化するFacebook 本体の再活性化と広告一本足の打開

FacebookとWeChatの間には相互作用があり、近年はFacebookがWeChatを真似ています。アクティブ率の落ちた本体アプリの復活作としてスーパーアプリ戦略を採用するのは不思議ではありません。

スーパーアプリ化するFacebook  本体の再活性化と広告一本足の打開

過去数四半期にわたって、Facebookは、フラッグシップアプリへのエンゲージメントを増やすことを、傘下アプリ全体の広告インプレッション(広告表示回数)を増加させるための重要な要因として挙げ続けています。インプレッションは前四半期に31%増加し、Facebookのニュースフィードが成長を牽引している、とCFOのDave Wehnerが第4四半期の決算報告で投資家に語っています(Instagram StoriesとInstagramフィードがこれに続きます)。

決算報告の後半で、創業者兼CEOのマーク・ザッカーバーグは、同社が最も古く、最も成熟した製品の1つで継続的なエンゲージメントの成長を見ていると思う主な理由を説明しました。同社は、デーティング、ゲーム、マーケットプレイス、ウォッチ、その他の機能などの追加機能を使用して、メインアプリがもたらす効用を拡張するための手段を講じています。そして、誰もがこれらの機能を使用するわけではありませんが、それぞれの機能がそれぞれのセグメントにアピールし、エンゲージメントの成長を促進した、と説明しているのです。

中国では、基本的にそれなしでは生きていけないアプリ、WeChat(微信)があります。この「スーパーアプリ」であるWechatを運営するTencentは、かつて単なるメッセージングアプリであったものに多くの機能を組み込みました。WeChatがあれば、人々はオンラインマーチャントから地元のスーパーマーケットまで、実質的に何でも支払うことができます。「ミニアプリ」を使用して、他の多数のオプションの中でも、タクシーを呼ぶ、電車のチケットを予約する、または医師の予約を予約することができます。また、友人からの最新情報を掲載したMomentsというFacebookのようなフィードもあります。

FacebookとWeChatの間には相互作用があります。WeChatは、FacebookがMessengerアプリを発表した直後にTencentがそれに追随することを決意したことで生まれたとする説があります。しかし、近年はFacebookがWeChatを真似るようになっています。Facebookは、メインアプリの機能をWeChatと同様の方法で構築しました。かつては友人とつながるだけの場所でしたが、現在はロマンス(デーティング)、モノの売買(マーケットプレイス)、新しいコミュニティの検索(グループとイベント)、面白いビデオの視聴( ウォッチとゲーム)、および現在のイベント(ニュース)などの機能を提供するようになっています。

ザッカーバーグは、Facebookの機能すべてが、すべてのユーザーに適しているわけではない、と説明しています。 「しかし、数千万人または数億人がそれらを使用している場合でも、他の人々が構築できないかもしれないユニークな価値を追加し、アプリをより価値のあるものにしています」と直近の決算報告で彼は言いました。

Facebookアプリの上に追加機能を構築すれば、全体的なエンゲージメントがさらに増加する可能性がある、とザッカーバーグは考えており、これらの「社会的ユーティリティ」をFacebookの将来の重要な部分と指摘しています。

ザッカーバーグは3月に会社のビジョンについて長いブログを書きました。同社に打撃を与え続けているプライバシーが主たる話題になっていますが、そのなかには、メインアプリをスーパーアプリに変貌させる意欲が示されています。「今日、私たちはすでに、プライベートメッセージング、はかない”ストーリー”、および小さなグループが、オンラインコミュニケーションの中で最も急速に成長している分野であることを認識しています。これにはいくつかの理由があります。多くの人は、一対一で、または数人の友人とのみコミュニケーションをとることを好みます。人々は、共有したものの永続的な記録を保持することにより注意を払っています。そして、私たちは皆、個人的に安全な支払いのようなことができると期待しています」。

Tencentは、WeChatで多くの機能を提供していますが、WeChatの収益化の主な形態はMomentsの広告からです。Tencentの決済機能のテイクレート(料率)はわずか0.6%です。同社の収益性はペイメント処理会社単体の収益性をも大きく下回っており、重要な収益源ではありません。WeChatとAnt Financialは、ユーザーがウォレット内に保持する資金を運用し巨額の利益を上げてきたとされていますが、中央銀行は、クリアリングハウスが一括して管轄する制度を適用し、ファンドの運用益などを監視下に入れたため、以前のような柔軟な運用が難しくなってきました。

Facebookの傘下アプリ全体でペイメントを提供できるようになると、Facebookの広告主は、宣伝している商品の販売をFacebookの中で完結できるようになります。WeChatはすでに、京東商城(JD.com)との協働によりアプリ内で購買を完了する機能を提供しています。一方、木曜日の夜のデート相手を見つけるなど、ユーザーにより多くのユーティリティを提供すると、より多くのユーザーがメインアプリに頻繁にログインして、ニュースフィードも確認するようになります。 つまり、Facebookの広告在庫が増えるのです。

最終的に、Facebookにより多くの機能を組み込むことで、広告の表示回数を増やし、それらの表示回数の価値を高める効果が期待されています。ひとつひとつの機能が数千万人のユーザーを引き付ける場合、ニュースフィード広告ビジネスにプラスの影響を与える可能性があります。そしてあわよくば、広告一本槍の事業構造を打開するヒントを探そうとしているでしょう。ケンブリッジ・アナリティカマイクロターゲティング疑惑以降、同社のターゲティング広告は非難の渦の中にいます。

同社のリスクとしては、Uberがほぼ同様のタイミングでスーパーアプリ化を進めています。彼らにはGojekというTencentが投資する先行モデルがあり、それを模倣しています。メキシコではすでに部分的に金融サービスの提供を開始しています。FacebookはインドでWhatAppに決済機能を合体させていますが、Paytm等の地場勢、Google等の米国勢の後塵を拝しています。

Facebook Messenger、WhatsApp、Instagramの3つのプラットフォームで26億人のユーザーを抱えるFacebookは、欧米初のスーパーアプリになる可能性があります。ただし、Facebookには現在、組み込みの支払い機能という重要な要素がありませんが、Uberにはユーザーのクレジットカード情報があり、ソーシャルメディアの巨人よりもはるかに多くのトランザクションを処理しています。前四半期のユーザーあたりの平均収益は、Uberで31.60ドルでしたが、Facebookではわずか6.40ドルでした。Facebookの収益の大部分(約90%)は広告によるものでした。

どちらが先に目的地に行き着くのか、注目に値する競争です。そして新興国には、中華勢の投資をうけた、地場の先行モデルたちがすでに根を張っています。UberとFacebookのスーパーアプリをめぐる競争の大半は米国でのみ行われるでしょう。

参考文献

Mark Zuckerberg. "A Privacy-Focused Vision for Social Networking" March. 7. 2019.

Image via Facebook Newsroom.

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