FB暗号通貨Diemまもなく利用開始

暗号通貨ウォレット「Novi」 をFacebookアプリに統合へ

FB暗号通貨Diemまもなく利用開始

要点

Facebookの暗号通貨Diemの流通開始が迫っている。規制当局からバッシングを受けた最初のデザインから特徴の薄いステーブルコインへと変貌し、同社の仮想世界「メタバース」の通貨を担う役割を期待されている。


Facebookの金融サービス部門F2を率いるデビッド・マーカスは18日に公開したブログで、暗号通貨ウォレット「Novi」 をFacebookアプリに統合すると述べ、米国の「ほぼすべての」州でライセンスや規制当局の承認を得ていると付け加えた。

マーカスはサービス開始の正確な時期や、ウォレットに搭載するコインについての詳細は明らかにしなかったものの、波乱万丈の中を駆け抜けてきたFacebookの暗号通貨Diemがついに日の目を見る可能性が浮上してきた。

マーカスは、このウォレットが国内外で個人間の無料決済を提供すると主張している。世界的に見て、クロスボーダー決済の状況は劇的に悪く、消費者の平均コストは6.5%に上り、エンド・ツー・エンドの決済時間は平均3日だ。Diemのようなステーブルコインやデジタル人民元のような信頼すべき第三者(Trusted third party)が監督する集権型の暗号通貨の場合、これが速く安くなるのは間違いないだろう。

「しかし、これらの課題を解決するための責任あるイノベーションの前には、いまだに多くの障害が立ちはだかっている。アメリカはこの重要な時期に変化をリードすべきなのに、今は中国のような国がリードするのを許し、後手に回っている」とマーカスは書いている。

現在、この領域で世界の先端を走っているのは中国のデジタル人民元だ。中国人民銀行(中央銀行)は16日、「中国におけるデジタル人民元(中国数字人民币、e-CNY)の調査研究の進展」と題する白書を公表した。デジタル人民元の実験を始めた2019年末から今年6月末までで、その取引回数の総数は7,075万回、取引金額は345億元(約6千億円)に上ったという。また、現在、実験の対象都市の飲食店など132万か所でデジタル人民元が使え、デジタル人民元の個人のウォレット(財布)は2,087万個に上るという。これは中国の人口の約1.5%に相当する。

デジタル人民元が他国を突き放している
小売デジタル決済と国際決済通貨の両睨み

Diemは規制当局とのもみ合いの中でステーブルコインのひとつとなったが、ステーブルコインとは、ドルなどの伝統的な通貨と一対一で結びついている暗号通貨の一種だ。暗号通貨は決済への利用においてボラティリティが障害となっていた。ステーブルコインは法定通貨のフルバックとすることで、ボラティリティを抑制することができる。

ステーブルコイン、特に最大手のテザー社は繁栄している。テザーの発行額は600億ドルに達し、ビットコインとイーサリアムに次ぐ暗号市場の第3位に位置している。

単一型ステーブルコインとなった経緯

Facebookは当初、Libraブロックチェーンを分散型のピアツーピア電子キャッシュシステムと主張していたが、これは真っ赤な嘘だった。Libraは当初、信頼できる第三者機関(Trusted third party)を備えた分散型の許可制ブロックチェーン(Permissioned blockchain)としてスタートした。

しかし、スイッチを押すだけで、世界人口の約4分の1が、従来の金融システムの枠を超えてグローバルレベルで取引できるというアイデアは、システムを守る人々を震え上がらせた。規制当局、監督官庁、政策立案者、財務大臣、中央銀行などは、Libraの登場を阻止しようとしたが、Facebookのこの動きは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実験を活発化させ、そのうちのいくつかは現実のものとなりかけている。

数年後、Visa、Mastercard、PayPalをはじめとするオリジナルメンバーが離脱し、規制当局からの批判を受けてLibraのコンセプトが見直された。Libraは、スイス金融市場監督庁(Finma)を通じた決済システムライセンスの取得を引き続き目指していたが、2020年12月、当初のホワイトペーパーを大幅に変更してDiemとして再ブランド化。スイスの財団を引き払い、米国を基点とした展開へと舵をとった。

大きな変更点は、多数の通貨のデジタルバスケットから、ディエムユーロやディエムドルなどの単一通貨のステーブルコインになったことだ。これにより、当初懸念されていた通貨代替リスクが軽減されたととられた。これらのコインは、高品質の流動性資産(ドルや国庫短期証券)に1対1で裏付けられる。例えば、Diemドルの場合、90日以内の米国債が裏付けられる。また、Diemは、バーゼルIIIの資本規制に従い、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リスクによる潜在的な損失を考慮して、追加のバッファーを設置すると明言している。

暗号通貨ウォレットNoviの画面 via Facebook.

メタバース内通貨への道

また、マーカスは「メタバース」における貨幣のあり方についても触れている。「結局のところ、もし今、デジタルだけの世界のためにお金や決済システムが発明されたとしたら、それはどのようなものになるでしょうか?」。

Facebookのマーク・ザッカーバーグは最近、自社がソーシャルネットワークとしてではなく「メタバース企業」として認識される日が来ると宣言した。フェイスブックでは現在、1万人以上のスタッフがこの分野のさまざまなプロジェクトに取り組んでいる。その中には、現実世界に物体や情報を重ねて表示するARグラスの開発や、指の微妙な動きで現実世界と対話できるリストバンドの開発などが含まれている。

同社はFacebookだけでなく、WhatsApp、Instagram、VRヘッドセットメーカーのOculusと人々のコミュニケーション経路を押さえている。

これらをまたがる仮想的な世界が登場した時、その通貨として暗号通貨は非常に相性がいいだろう。実物資産との連関がなく、なおかつ暗号技術がセキュリティを担保している。任天堂の『あつまれ どうぶつの森』でそうであるように、すでに様々なゲームの中にはゲーム内通貨が存在し、それがゲーム内経済の重要な構成要素となっている。それが暗号通貨に変わることには摩擦は少ないだろう。

Facebookの仮想通貨がモバイル決済に使われる日は来るか?
政府中銀はCBDCと規制の二刀流
デジタル人民元とFacebookがドル覇権に挑戦
中国は越境決済を視野、FBはアフリカに活路か
Facebookの暗号資産 Libra (リブラ) 2.0の解説
Libra協会は2020年4月にホワイトペーパーのv2.0を発表した。Libraコインは単一通貨ステーブルコインとそれらのバスケットである複合ステーブルコインの二階層にマイナーチェンジ。規制当局の激しい反発と中国などのデジタル通貨(CBDC)開発の潮流が背景にある。

📨ニュースレター登録

平日朝 6 時発行のAxion Newsletterは、テックジャーナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、最新のトレンドを調べて解説するニュースレター。同様の趣旨のポッドキャストもあります。

株式会社アクシオンテクノロジーズへの出資

一口50万円の秋のラウンドに向けて事前登録を募っております。事前登録者には優先的に投資ラウンドの案内を差し上げます。登録は以下のからメールアドレスだけの記入で済みます。登録には義務は一切ともないません。すでに100人超に登録を頂いています。

【2021年秋】(株)アクシオンテクノロジーズ個人投資家ラウンド事前登録
登録を頂いた方には優先して投資ラウンドのご案内を行います。

クリエイターをサポート

運営者の吉田は2年間無給、現在も月8万円の報酬のみでAxionを運営しています。毎月700円〜の支援👇

デジタル経済メディアAxionを支援しよう
Axionはテクノロジー×経済の最先端情報を提供する次世代メディアです。経験豊富なプロによる徹底的な調査と分析によって信頼度の高い情報を提供しています。投資家、金融業界人、スタートアップ関係者、テクノロジー企業にお勤めの方、政策立案者が主要読者。運営の持続可能性を担保するため支援を募っています。

Special thanks to supporters !

Shogo Otani, 林祐輔, 鈴木卓也, Kinoco, Masatoshi Yokota,  Tomochika Hara, 秋元 善次, Satoshi Takeda, Ken Manabe, Yasuhiro Hatabe, 4383, lostworld, ogawaa1218, txpyr12, shimon8470, tokyo_h, kkawakami, nakamatchy, wslash, TS, ikebukurou 黒田太郎, bantou, shota0404, Sarah_investing, Sotaro Kimura, TAMAKI Yoshihito, kanikanaa, La2019, magnettyy, kttshnd, satoshihirose, Tale of orca, TAKEKATA, Yuki Fujishima.

Read more

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

Google Cloudは10月8日、「自治体におけるゼロトラスト セキュリティ 実現に向けて」と題した記者説明会を開催し、自治体向けにゼロトラストセキュリティ導入を支援するプログラムを発表した。宮崎市の事例では、Google WorkspaceやChrome Enterprise Premiumなどを導入し、災害時の情報共有の効率化などに成功したようだ。

By 吉田拓史
​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

Google Cloudが9月25日に開催した記者説明会では、イオンリテール株式会社がCloud Runを活用し顧客生涯価値(LTV)向上を目指したデータ分析基盤を内製化した事例を紹介。従業員1,000人以上がデータ分析を行う体制を目指し、BIツールによる販促効果分析、生成AIによる会話分析、リテールメディア活用などの取り組みを進めている。

By 吉田拓史
Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Google Cloudは、年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」で、大規模言語モデル「Gemini」を活用したAIエージェントの取り組みを多数発表した。Geminiは、コーディング支援、データ分析、アプリケーション開発など、様々な分野で活用され、業務効率化や新たな価値創出に貢献することが期待されている。

By 吉田拓史