NVIDIAと鴻海の協業が意味すること
鴻海のEVプラットフォームにNVIDIAのSoCがデフォルトで組み込まれることになった。NVIDIAが、自律走行をめぐるチップとソフトウェアの陣地を広げたことを意味する。
鴻海のEVプラットフォームにNVIDIAのSoCがデフォルトで組み込まれることになった。NVIDIAが、自律走行をめぐるチップとソフトウェアの陣地を広げたことを意味する。
NVIDIAと鴻海は、米国で開催された世界最大級の電子機器の見本市CESで、電気自動車(EV)と自律走行車(AV)のプラットフォームを開発するための戦略的パートナーシップを締結したことを発表した。
この契約の一環として、鴻海はEVサプライチェーンのティア1メーカーとしてNVIDIA DRIVE Orin ECUとDRIVE Hyperionセンサーをベースにした電子制御ユニット(ECU)を生産する。鴻海が製造するEVには、高度な自動運転機能を実現するNVIDIAの技術が搭載される予定。
AVの基盤となるシステムオンチップ(SoC) であるNVIDIA DRIVE Orinは、4年間の研究開発投資の成果で、170億個のトランジスタで構成される。前世代のXavier SoCの7倍以上の性能を持ち、1秒間に最大254兆回の演算を実現し、AVで同時に実行される多数のアプリケーションとディープニューラルネットワークを処理するように設計されている。完成車メーカーは、Orinによって、レベル2+の先進運転支援システム(ADAS)からレベル5の完全自律走行までに対応可能、とNVIDIAは説明している。Orinは、CUDAとTensorRTのAPIとライブラリを通じてNVIDIAが構築するAVソフトウェアスタックの活用可能性を完成車メーカーに提供する。
NVIDIA DRIVE Hyperionは、レベル2+のADASソリューションのためのリファレンスアーキテクチャである。Hyperionは、「自律走行およびドライバーのモニタリングと可視化のためのフルソフトウェアスタックを備えている」。これは、12台の外部カメラ、3台の内部カメラ、9台のレーダー、12台の超音波センサ、前面LiDAR1台、さらにグランドトゥルースデータ(モデルの出力の学習やテストに使用される実際のデータ)収集用のLiDAR1台を含むセンサー群を統合することができる。Hyperion開発者キットは、車両に組み込むことですぐさま利用可能で、無線アップデートが可能だ。
完成車メーカーはOrinとHyperionを組み合わせることで、車両の「脳」と「中枢神経系」として機能し、大量のセンサーデータをリアルタイムで処理し、自律走行車は安全に知覚し、計画し、行動することができる、とNVIDIAは主張している。
多くの完成車メーカーは高度な自律走行の要請に対して、対抗馬のQualcommの追走がいつ完了するかは不透明な中、 NVIDIAのチップとソフトウェアのバンドルを選択せざるを得なくなりつつある。チップの独自開発で「NVIDIA税」を回避する試みに挑戦できるのは、一握りのトップランナーだけだ。
一方、鴻海はiPhoneの組み立てで成し遂げた成功をEVでも再現しようと目論んでいる。EVはガソリン車の内燃機関とそれに関連する部品群、油圧式部品などが排除され、鴻海が得意とする電子製品に近い構成になる。それでも参入が容易なわけではないだろう。
2020年、裕隆汽車とのジョイントベンチャーとしてFoxtron Vehicle Technologiesを設立した。その後、Lordstown Motors Corp.の米オハイオ工場を買収して米国拠点を作り、オープンEVプラットフォームを立ち上げ、新興企業のFisker Inc.と製造契約を結ぶなど、活発な活動に乗り出した。
鴻海はiPhoneの組み立てでもチップやソフトウェアは外部から調達しており、NVIDIAとの契約によって調達経路を確保することは合理的といえる。ただし、NVIDIAの他のソリューションと同様効果と考えられるOrinがどの程度、消費者に対する最終価格に影響するかは見守る必要があるだろう。
契約は完成車メーカーが鴻海のEVプラットフォームを選択したとき、Orinがデフォルトでパッケージになるという意味合いがある。現状は鴻海にEV生産を委託するのは、Lordstown MotorsとFiskerで大きなパイではない。だが、鴻海の生産能力が既存のEV完成車メーカーを上回るのならば、何らかの形でサプライチェーンに組み込まれる様になり、NVIDIAのSoCのシェアが広がっていくことになるだろう。