自動車メーカーはNVIDIA依存を避けられない?

多くの自動車メーカーは高度な自律走行の要請に対して、NVIDIAのチップとソフトウェアのバンドルを選択せざるを得なくなっている。一握りのトップランナーだけがチップの独自開発で「NVIDIA税」を回避しようとしている。

自動車メーカーはNVIDIA依存を避けられない?
出典:NVIDIA

多くの自動車メーカーは高度な自律走行の要請に対して、NVIDIAのチップとソフトウェアのバンドルを選択せざるを得なくなっている。一握りのトップランナーだけがチップの独自開発で「NVIDIA税」を回避しようとしている。


中国のEVメーカーXPengは先週月曜日、広東省広州市の公道で自律走行車(AV)としてのEV SUV「G9」のテストを開始する許可を取得した。同社は、セーフティドライバーが運転席に座った車両群のテストを開始する予定だ。将来的に同社の車両をロボタクシーに活用することを目指しているXPengにとって、これは画期的な出来事である。

ロボタクシーは、都市や住宅地のようなジオフェンスで囲まれたエリアにおいて、人間の監視なしに動作する完全自律型車両である。ドライバーの代わりに高解像度のセンサーとコンピューティングプラットフォームを搭載し、24時間365日、安全に運行することができる。

XpengのG9はNVIDIA DRIVE Orinシステムオンチップ(SoC)を2基搭載し、秒間508兆演算(TOPS)を実現している、とNVIDIAは記している。G9は高度運転支援システム(ADAS)であるXNGPを搭載しているが、ロボタクシーの実証実験において自律走行レベルL4/L5を実行する際には、どの程度NVIDIAのソフトウェアスタックに依存するかは明かしていない。

NVIDIAはAVサービスを「NVIDIA DRIVE」と総称しているが、実際には、SoCから並列コンピューティングプラットフォーム「Cuda」、OS、機械学習ライブラリ群、各種のツールチェーンからなる、ハードウェアとソフトウェアをまたいだ膨大なものである。

図3. NVIDIA DRIVEのソフトウェア/ハードウェアスタックの構成。出典:NVIDIA
図3. NVIDIA DRIVEのソフトウェア/ハードウェアスタックの構成。出典:NVIDIA

例えば、最新の「NVIDIA DRIVE Hyperion」は、「自律走行およびドライバーのモニタリングと可視化のためのフルソフトウェアスタックを備えている」という。これは、12台の外部カメラ、3台の内部カメラ、9台のレーダー、12台の超音波センサ、前面LiDAR1台、さらにグランドトゥルースデータ(モデルの出力の学習やテストに使用される実際のデータ)収集用のLiDAR1台を含むセンサー群を統合し、自律走行ソフトウェアの基盤となることを約束している。

急成長するNVIDIAの自律走行車事業
NVIDIAの稼ぎ頭はゲームとデータセンターの二つだが、自動車部門が3つ目になりそうだ。自律走行技術企業や完成車メーカー、EVメーカーは多かれ少なかれ、自律走行の実現のためNVIDIAに依存している。

SoCについては最近、強力なアップデート予告があった。9月に行われた開発者会議であるGTCの基調講演で発表された、最新SoCのDRIVE Thorは、2,000TPOSとOrinの約4倍の演算性能を誇る。DRIVE Thorを搭載した初期量産車は2025年初頭を予定している。最初の顧客は中国・吉利のハイエンド電気自動車(EV)ブランド「Zeekr」である。

DRIVE Thor。出典:NVIDIA
DRIVE Thor。出典:NVIDIA

また、DRIVE Thorは数十の断片的な電子制御ユニット(ECU)を集中的な一つのユニットに統合する役割も果たすという。このような集中的なソフトウェア制御は、テスラの差別化要因の一つとして完成車メーカーに認知され、ニーズが高い。

DRIVE Thorにより、自動車メーカーはインテリジェントな車両機能を単一のSoCに統合することができる、という。出典:NVIDIA
DRIVE Thorにより、自動車メーカーはインテリジェントな車両機能を単一のSoCに統合することができる、という。出典:NVIDIA

NVIDIAはこのようなソフトウェアによって完全に制御される次世代の自動車を「ソフトウェア定義自動車(Software Defined Vehicle)」と呼び、これに関連する必要なツールのほぼ全ての選択肢を開発・提供し、バンドル販売しようとしている。

言い換えれば、NVIDIAは「走るデータセンター」と言われるAVのデータセンターとそれを動かすソフトウェアの両方を占拠するということだ。多くの自動車会社はチップとソフトウェアの開発ノウハウがなく、NVIDIAへの完全依存を避けられる術があるのか不透明である。

NVIDIAに依存すれば、自動車会社はそれに見合う高額の支払いを余儀なくされるであろう。ジェン・スン・フアンCEOは、AV技術に関して自動車会社と収益分配を行う考えを示したことがある。発言上不明瞭な部分も残るが、彼は、NVIDIAはライセンスやサブスクリプションで得られた収益の半分を受け取りたい、と語っている。

脱獄者…少数

最近では、GM傘下の自律走行ソフトウェア企業であるCruiseがNVIDIAのハードウェアの採用を止める計画を明らかにしている。

Cruiseのハードウェア責任者、カール・ジェンキンスはロイターに対し、2025年までに投入する予定の自動運転車用の半導体を独自に開発したと明らかにした。2年前まで有名ベンダーのGPUに大金を支払ってきたが、Cruiseは購入量が少ないため、価格交渉の余地がなく、自社生産に切り替えることを決定したと説明した。半導体の自社開発には多額の投資が必要だが、複数の半導体を搭載した自動車の生産規模を拡大することで回収できるという。

Cruiseは、NVIDIAを利用し、そして内製化に移行する最初の自動車会社ではない。3年前、テスラはFSDチップを独自に開発すると発表した。当時、NVIDIAはブログで、イーロン・マスクが、FSDチップとNVIDIAのSoCの性能比較の際に「ずる」をしたことを追及していた。

NVIDIA DRIVEを採用するロボタクシー会社。2021年4月時点。出典:NVIDIA、https://blogs.nvidia.com/blog/2021/04/12/robotaxi-companies-hail-rides-nvidia-drive/

ただし、このような「脱獄」はCruseのような資金が潤沢にある企業に限られるのかもしれない。半導体製造の高度化に伴い、新しいチップの開発価格は過去10年間で10倍に跳ね上がっている。半導体を製造に回す前に、各コンポーネントの設計、検証、テスト、プロトタイプ化が必要だ。マッキンゼー・アンド・カンパニーの分析によると、この初期費用は、11年前に初めて利用可能になった28ナノメートル技術の5,000万ドルに対し、最新の5ナノメートル製造ノードでは5億4,000万ドルに達している。

前述の2019年のブログは、テスラの独自開発に対して、NVIDIAだけが自動車メーカーを支援する唯一のプラットフォームである、と高らかにうたっている。「AIコンピューティングの馬力を手に入れられるのは、NVIDIAとテスラの2社だけです。そのうちの1つだけが、業界が構築できるオープン・プラットフォームなのです」。これは裏返すと、テスラとCruise等以外の「その他大勢」はすべてNVIDIAに深く依存する構図でもあるのだ。そしてその未来は近づいている。

Read more

新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

今月初め、イギリス、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った際、その目的は戦闘技術を磨くことではなかった。その代わり、海底のガスやデータのパイプラインを妨害行為から守るための訓練が行われた。今回の訓練は、10月に同海域の海底ケーブルが破損した事件を受けたものだ。フィンランド大統領のサウリ・ニーニストは、このいたずらの原因とされた中国船が海底にいかりを引きずった事故について、「意図的なのか、それとも極めて稚拙な技術の結果なのか」と疑問を呈した。 海底ケーブルはかつて、インターネットの退屈な配管と見なされていた。現在、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちは、中国と米国の緊張が世界のデジタルインフラを分断する危険性をはらんでいるにもかかわらず、データの流れをよりコントロールすることを主張している。その結果、海底ケーブルは貴重な経済的・戦略的資産へと変貌を遂げようとしている。 海底データパイプは、大陸間インターネットトラフィックのほぼ99%を運んでいる。調査会社TeleGeographyによると、現在550本の海底ケーブルが活動

By エコノミスト(英国)