マイクロソフトの「親の総取り」ならず、アルトマン復帰で決着:OpenAI騒動

OpenAI騒動は、アルトマンとAI研究者の軍団が勝利し、取締役会を打倒するという結末を迎えた。マイクロソフトは、OpenAIをまるごと吸収しかけたが、親の総取りとは行かなかった。

マイクロソフトの「親の総取り」ならず、アルトマン復帰で決着:OpenAI騒動
サム・アルトマン。Photographer: SeongJoon Cho/Bloomberg

OpenAI騒動は、アルトマンとAI研究者の軍団が勝利し、取締役会を打倒するという結末を迎えた。マイクロソフトは、OpenAIをまるごと吸収しかけたが、親の総取りとは行かなかった。


OpenAIの発表によると、サム・アルトマンは最高経営責任者(CEO)として復帰し、取締役会はセールスフォースの元共同CEOで、イーロン・マスクに買収される前のTwitterの取締役だったブレット・テイラーが率いる。他の取締役は、元米財務長官のラリー・サマーズと、既存メンバーのアダム・ダンジェロ(Quaraの共同設立者兼CEO)である。ブルームバーグが引用した関係者は、マイクロソフトは、そのAI戦略がOpenAIに依存しているため、新取締役会にオブザーバーとして、あるいは1つ以上の議席を持つことになる、と言った。合意は4日間にわたる交渉の末になされた。

舞台裏では、アルトマンは取締役会のメンバー、特にチーフサイエンティストのイリヤ・サツケバーと、生成AIをいかに早く開発するか、製品をどのように商品化するか、そして一般市民への潜在的な害を軽減するために必要な措置をめぐって衝突していたと報じられてきた。

OpenAIのCEO交代はAIの安全性と倫理の問題を強調した
衝撃的なOpenAIのCEO交代により、AI研究を牽引する同社の科学者が、汎用人工知能(AGI)の安全性について強い危機感を持っていることが露見した。これは、AIアライメント(道徳や価値観の枠組み)構築のための警鐘かもしれない。

経緯

11月17日、OpenAIの取締役会は突然、共同設立者兼CEOのサム・アルトマンが即刻解任されたことを発表した。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは20日、アルトマンとOpenAIの共同設立者グレッグ・ブロックマンがともにマイクロソフトに入社し、AI研究開発チームを率いることをXで発表した。

それから1日も経たないうちに、アルトマンはまだOpenAIのCEOに戻ろうとしていると米メディアThe Vergeが報じた。The Vergeによると、アルトマン、ブロックマン、そして同社の投資家たちは、二人を放逐した取締役会の潔い退場を模索していると、状況を直接知る複数の情報筋は語った。この情報筋は、二人と追随する研究者・エンジニアを雇うとマイクロソフトが発表したことについては「保留」とした。

アルトマン解任が明らかになると、OpenAIの770人の従業員のうち700人以上が、もしサツケバーと他の取締役が退任しなければ、公開書簡で辞職すると脅していた。この行動の速さと人数を見ると、組織内に意見の対立は元々あったと考えられる。500人以上の従業員は、マイクロソフトの新しい部署でのポジションを提案された、とフィナンシャル・タイムズ(FT)が関係者談話を引用して報じた

アルトマンらがマイクロソフト傘下でAIチームを結成するシナリオは、マイクロソフトにとって有利で、OpenAIを構成するエンティティの別の株主であるベンチャーキャピタル(VC)や慈善団体にとっては不利だとみられる。アルトマンとブロックマンにとっても、一人の従業員としてマイクロソフト入りするよりは、反対派を排除してOpenAIを支配するシナリオがベストである。

先のThe Vergeの報道によると、金曜日以来、OpenAI内部では権力闘争が絶え間なく続いており、ほぼすべての従業員が、アルトマンの復帰に反対する取締役会に反対していた。サンフランシスコ本社の従業員は、日曜日に予定されていたエメット・シアー新CEOとの緊急全員会議に出席することを拒否したと、関係者はThe Vergeに対して言った。

The Informationによると、暫定CEOのエメット・シアーが就任する前に、OpenAIの残りの役員は、元GitHub CEOのナット・フリードマンとScale AI CEOのアレックス・ワンの2人にオファーを出したという。両者とも辞退した。また別のThe Informationの報道によると、取締役会のメンバーは競合のAnthropicのCEO、ダリオ・アモデイに連絡し両社の合併を提案したという。

社会思想の対立説?

今回の出来事について、思想の対立を描く情報が多く流通している。この議論は成熟していないため注意が必要だが、OpenAIの取締役会はAIの開発速度を落とそうと考えており、それが効果的利他主義(EA)という新興社会思想によって支持されていると吹聴されている。有力なコースラベンチャーズのビノッド・コースラは、The Informationへの寄稿で、OpenAIの取締役たちが信奉するEAとその誤った適用は、AIがもたらす多大な恩恵への世界の道を後退させることになりかねない、と書いている。

コースラは社会的変革を資本主義を通じて実行するという加速主義(アクセラレーショニズム)の側に立っているとされる。加速主義とAIの組み合わせがどのような思想を生み出すかといえば、想像しやすく、それはAIの利得を資本主義の力で人類に広くあまねく提供する、という考え方だろう。

EAは功利主義に根ざした哲学的枠組みであり、世界における正味の利益を最大化することを目的としている。功利主義は、「最大多数の最大幸福」という言葉に代表されるように集団の利益が個人の利益に優先すると考える。EAは米国の一部の富裕層で支持を広げていたが、重要な唱導者だった起業家のサム・バンクマン・フリードが、暗号資産取引所FTXをめぐる巨大詐欺事件で有罪判決を受けたことで、EAに対する不信感を抱かせた。加速主義はこの一件以降、勢いを得たとされている。

利害関係だけで見ると、コースラはOpenAI従業員が大挙してマイクロソフトに合流すると投資がほぼ溶ける立場におり、取締役会を放逐したいと考えていたはずだ。

EA対加速主義の構図は物事を過度に単純化しすぎている印象が多分にあり、もう少し推移を見るべきだろう。

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