説得的デザイン(パースエーシブデザイン)が生まれた文脈とは

説得的デザインは、動機や認知バイアスなどの心理学における行動の洞察を取り入れ、それらを製品設計に適用できるようにする設計手。事実上の誘導を行い、ユーザーが便益を感じたり、正しい方向に微調整したりするのを助ける。

説得的デザイン(パースエーシブデザイン)が生まれた文脈とは

説得的デザイン(パースエーシブデザイン)は、動機や認知バイアスなどの心理学における行動の洞察を取り入れ、それらを製品設計に適用できるようにフレームワークとパターンに変換する設計手法である。説得的デザインはユーザーが意思決定を行い、ユーザーを正しい方向に微調整するのに役立つ。

インタラクティブ技術の導入により人間の行動に影響を与える可能性が劇的に増加したため、この説得的デザインの実践は特にデジタルエクスペリエンスに応用されている。すべての製品とサービスの設計に適用できるわけではないが、それでも、他の人が理解できるように選択肢を設計することを役割とする人(プロダクトマネジャー、デザイナー、開発者ら)にとっては重要だ。これらのフレームワークは、ユーザーの信頼を侵害するリスクのあるネガティブな戦術に頼ることなく、ユーザーを獲得して維持する方法を提供するとされている。

説得的デザインを利己的な目標を達成するために人間の行動を悪用しようとするものがいるのは事実である。善意のデザインと悪意のそれの境界線はとても曖昧である。設計者は、透明性と慈善の価値を備えた説得的デザインテクニックのみを使用する必要があるだろう。説得力のあるデザインが重要なのは、そのフレームワークを使用する際に「選択的アーキテクチャ」が欺しや強制などのネガティブな戦術に頼らずナッジ(肘で小突くの意:誘導)するためである。

フォッグ行動モデル(FBM)

B.Jフォッグの行動モデル(FBM)は近年最も成功したモデルである。スタンフォードビヘイビアデザインラボの所長であるB. J.フォッグは、人の行動を促すには3つの変数(動機、能力、トリガー)がうまく働く必要があると考えている。行動が発生しない場合、これら3つの要素のいずれかが欠落している。このモデルは、設計者がユーザーがアクションを実行するのを阻んでしているものを特定するのに役立つ。

Figure01 3要素のシンプルな消費者行動モデル(「フォッグ行動モデル」)via behaviormodel.org
動機

フォッグは3つのタイプの動機付けの動機を特定し、それぞれに2つの側面がある。 動機が高い場合、ユーザーは目標を達成するためにより難しいタスクを実行する可能性がある。動機が低い場合、人々は簡単なタスクのみを実行する可能性が高くなる。動機にはいかの三つの類型があると彼は想定する。

  1. 感覚(喜び/痛み):身体的モチベーションのレベル
  2. 期待(希望/恐怖):モチベーションの感情レベル
  3. 社会的結束(社会的受容/拒絶):社会的レベルの動機付け
能力

FBMのもう1つの重要な要素は、目標となる動作を簡単に達成できることだ。人間が特定の行動を達成するためには、そうする能力が必要である。これは常識のように聞こえるが、設計者はユーザーが現実よりも能力があると仮定する傾向がある。フォッグは、能力を妨げる6つの要素を概説している(人は行動にともなうコストを深く考える生き物である)。

  1. 時間:動作を完了するのにかかった時間
  2. お金:行動を実行するためのコスト障壁
  3. 努力:行動を実行するのにかかる身体的努力
  4. サイクル:活動を完了するために必要な精神的努力
  5. 逸脱:行動を完了することがどれほど社会的に受け入れられるか
  6. ルーチン:所定の動作のルーチン(不規則な動作と比較して、ルーチンの動作を実行する能力が高い)

その後、フォッグは能力を高めるための3つの重要なパスを概説する。彼が最初に取り組むことを提唱する手法は、目標とされる行動を短縮して、より簡単にすることだ。 ユーザビリティテストは、ターゲットの動作を達成するための理解度や使いやすさなどの障壁を診断するつの方法である。能力を向上させるための最も難しい道は、ユーザーのトレーニングを通してであり、彼はこのルートを避けることを推奨する。 別のオプションは、動作を簡単にするツールまたはリソースを提供することである。

トリガー

フォッグは、トリガーがなければ行動は起こらないと考えている。トリガーは、胃がうなり声を上げるように、または台所を通るときに冷蔵庫を開けるなどの決まりきったことに起因して、外部に存在する可能性がある。適切なトリガーは、一連の望ましい動作につながる可能性がある。フォッグは、3種類のプロンプトの概要を説明する。

  1. ファシリテーター(モチベーションが高く、能力が低い人向け):ファシリテータートリガーは行動を容易にする
  2. スパーク(モチベーションが低い + 能力が高い人向け):このトリガーは動機付け要素を伴って設計される必要がある
  3. シグナル(モチベーションが高く能力が高い人向け):行動を実行することを指示または思い出させる
アクティベーションのしきい値

タイミングはユーザーをトリガーする上で重要な役割を果たし、アクティベーションのしきい値(上図のグラフ上の曲線 = Action Line)で表される。 モチベーションと能力のレベルが十分に高い人はトリガーによってターゲットアクションを実行する。 ユーザーがしきい値を超えていないときにトリガーすることは、ユーザーにとって非常にイライラする可能性があり、迷惑なポップアップや通知が至る所で見られる。

FBMの成功例

FBMの具体的な例を見るには、成功したスタートアップとアプリがユーザーの行動をどのようにターゲットし影響を与えているかを調べるのが良い方法である。 たとえば、人々はすでにオンラインで写真を共有していたが、Instagramは共有を容易にし(能力を高め)、さらに楽しく、魅力的で社会的に受け入れられました(動機付けを高めた)。 このアプリはフォロワーがコンテンツへの好意を示すためのをハートのボタンのトリガーを設置している(ソーシャルトリガー)。 Instagramの共同創業者ケビン・シストロムとマイク・クリーガーはフォッグの教え子である。フォッグはアプリがかなりの成功を収めると、行動が私たちの生活や文化の一部になり得ることを指摘しているが、弟子はそれを実践したわけだ。

電子商取引の例は非常にわかりやすい。多くのオンライン小売業者は、顧客が必要なものを見つけてカートに追加し、最終的に長いチェックアウトプロセスの最後に取引するように誘導するのに苦労している。個人情報の保存と「1クリック注文」の採用により、大幅に簡単になりました。 ユーザーの能力は、購入に必要な時間と精神的および身体的努力を削減することにより向上しました。 製品を手に入れる意欲がある場合、最後の仕上げは行動を促す簡単なトリガーである「1クリック注文」のボタンである。アマゾンは特許を取得するほどまでにこの1クリック注文を好んでいるのだ。

FBMの適用方法

このモデルは、行動変化の根底にある要因と、デザイナーが特定の行動を奨励/阻止する方法を体系的に理解するためのフレームワークとして効果的である。

例えばあなたがWebサイトを設計していて、ユーザーにメールアドレスを入力してニュースレターを購読してもらいたいが、購読率が低いことに気づいたとする。行動モデルを使用して、ユーザーの動機、能力を分析し、経験している可能性のある外部/内部トリガーの概要を示してみる。この時点で、質問をするのに役立つだろう。この動作は難しいか? 行動を促すフレーズが適切なトリガーとして機能しているか? ユーザーは動機づけられているか? モデルを使った議論は、さまざまなが機能がうまく働いていない理由について、おそらく1つまたは2つの仮定を明らかにするだろう。ユーザーの調査と分析を通じて理論を検証することをお勧めする。

フォッグは、目標行動を達成するための最適な経路は、能力の前にトリガーにに変更を加えることだと断言している。トリガーを変更すると、その変更が目的に足りるかを評価できる。次に、動機付けの前に能力を変えてみる。これは、変化と測定が最も難しい変数である。逆に、モデルの働きを止めたい場合は、これらの要因のいずれかを削除すると役立つという。

より堅牢なエクスペリエンスを実現するには、ユーザーの行動を分析するために、ユーザーのジャーニーの分析から始める。フロー内で経路をマッピングし、動機、能力、トリガー、ユーザーがその後に実行するアクション、および全体に提供される報酬の概要を説明するのに役立つ場合がある。目的となる行動を実行するための障害を理解するためにユーザーのパスを分析し、必要に応じて「共感マップ」を使用して、ユーザーが瞬間にどのように考え/感じているかを理解する。可能であれば、ユーザーの調査と分析を活用して仮説を検証する。 そして、テストとその評価、修正を繰り返していくことで、あなたのWebサイトはFBMを取り込んだものになる。

参考文献

Photo by Youssef Sarhan on Unsplash

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