2強から3強経と構造変化 2020年の米デジタル広告市場予測

プライバシーをめぐる社会の態度が変わっても、米国ではプログラマティック広告の成長は続いています。しかし、その成長を享受するのは、GoogleとFacebook、それからAmazonです。

2強から3強経と構造変化  2020年の米デジタル広告市場予測

プライバシーをめぐる社会の態度が変わっても、米国ではプログラマティック広告の成長は続いています。しかし、その成長を享受するのは、GoogleとFacebook、それからAmazonです。

プログラマティック広告市場の拡大

10年以上前にプログラマティックディスプレイ広告が登場して以来、アドテク業界は大きく成長しており、現在では、米国のプログラマティックがデジタル広告を買い付ける主要な方法になりました。

プログラマティック広告とは「インターネット広告における、広告枠の自動買い付けプロセスの総称」です。プログラマティック広告では、金融市場で使われていた技術を応用し、売り手と買い手を代表するシステムが即時的に取引を執行します。この取引手法はリーマンショックの余波で金融業界のエンジニアが広告業界に流入した2010年代前半に登場し、デジタル広告取引に大きな変化をもたらしました。

eMarketerは、米国の広告主が2019年末までに570億ドルをプログラマティックディスプレイ広告に費やすと、予測しています。プログラマティック広告は、2019年のデジタルディスプレイ広告の総支出の83.5%を占めると、同社は2019年11月時点で予測していました。

2019年にプログラマティックで取引されたと推計される570.3億ドルのディスプレイ広告のうち、かなりの部分(56.3%)がソーシャルメディアのバナー、動画、その他のディスプレイ広告に割り当てられました。eMarketerは広告主がソーシャル動画やその他のソーシャル広告フォーマットの優先順位を高めるにつれて、2021年までに、プログラマティック広告におけるソーシャル広告のシェアが上昇し続けると予測しています。

唯一変化のある領域:モバイル

モバイルディスプレイ広告の大部分はプログラマティック取引されています。

eMarketerは2019年、468.6億ドル、つまり米国のモバイルディスプレイ広告全体の88.7%がプログラマティックで取引されると予測しました。ソーシャルメディアやモバイルWebの分野ではプログラマティック広告が確立されていますが、アプリ内入札(in-app bidding)、プライベートマーケットプレイス(PMP)、およびその他のプログラマティック取引手法を含む実践も拡大しつつあります。今後、アプリ広告の機会は、デスクトップおよびモバイルWebにおいてサードパーティのトラッキングが制限されるため、ますます重要になります。

今後2年間、デジタルオーディオ、ソーシャル動画、OTT(Over-the-Top)広告などの分野への継続的な投資により、米国のプログラマティック広告支出は800億ドル近くに成長すると予測されています。

三者による寡占(Triopoly)

2019年末までに、米国のFacebookとGoogleの広告収益の合計は、プログラマティックディスプレイの広告主の総予算の半分以上を占めると、eMarketerは4月の時点で予測しています。 複占(Duopoly)は2020年にさらに深まり、両者の取り分は広告費の63%近くを占めると想定されます。

Amazon(7%のシェア)は、挑戦者たりうる唯一のプレイヤーです。Amazonは2019 年、DSPの使いやすさの向上、スポンサー広告のリーチの拡大リワードプログラムツールの追加顧客獲得指標の組み込みスポンサー広告の動的な入札の有効化など、広告買い付けプロセスにさまざまな改善を加えました。

この三者による寡占(Triopoly)は現在、米国のプログラマティックディスプレイ広告の大部分を占めています。

ただし、Amazonが引き続き広告製品を構築し、新しいモバイル、オーバーザトップ(OTT)広告の在庫が来年以降も増え続けているとしても、FacebookとGoogleの複占は維持される可能性が高いでしょう。WARCのGlobal Ad Trendsレポートによると、GoogleとFacebookの優位性の根拠は、検索広告とソーシャル広告のプラットフォームの使いやすさにあります。中小から大手まで、ほぼすべての事業規模の企業が、FacebookおよびGoogleのセルフサービス型の買い付けシステムにアクセス可能なのです。

同時に両者の広告システムは広告主や広告代理店のビジネスプロセスのなかに取り込まれています。非技術人材で占められる広告業界人にとって使いやすいプラットフォームを開発し、教育することはアドテクノロジー企業の成功の秘訣です。DSPの分野で寡占の一角を崩したTrade Deskはこの点に優れています。新興のAmazonにはこれらの点をキャッチアップする必要がありますが、顧客が開発者であるAWSの経験が生きる部分と生きない部分が存在するはずです。

WARCは、Amazonの2019年通年の広告収入を140億ドルと予測しました。今年のGoogleの1070億ドルの予測広告収入の13%に過ぎませんが、AmazonがGoogleの有料検索の優位性を著しく脅かす、とも指摘しています。

Amazon AlexaやGoogle Homeのようなスマートスピーカーは、音声検索結果を広告でまだ収益化していませんが、WARCはAmazonのデバイスがスマートスピーカーの所有者の63%で使用されており、Googleのプラットフォームの2倍の「スキル」を持っている、と説明します。

FacebookはInstagramにより本体を離れた若年層ユーザーを囲い込むことに成功しています。1500万人もの米国ユーザー(ほとんどが12〜34歳)が2017年以来Facebookを離れたという推計が存在しますが、これらの大半をInstagramですくい取ることに成功しているようです。

参考文献

Lauren Fisher. US Programmatic Digital Display Ad Spending. Nov. 2019. eMarketer.

More Than Half of US Programmatic Digital Display Ad Dollars Go to Social Networks. Nov. 2019. eMarketer.

吉田拓史. 『サルたちの狂宴』でアドテクの変遷を振り返る 独占が自由市場を駆逐した理由. axion.zone.

IAB internet advertising revenue report 2018 full year results. IAB, Prepared by PwC. May. 2019.

Photo by Nicolai Berntsen on [Unsplash](

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