配車と料理宅配の誤算
配車と料理宅配が優れたビジネスではないことが明らかになっている。投下された資本以上に資本を生み出さないビジネスは余り魅力的ではないという資本主義の原則に修練しつつある。
要点
配車と料理宅配は、投下資本以上の資本を生み出せるビジネスなのか疑問だ。ギグワーカーの安価な労働力という命綱が切れれば、儲からないビジネスを淘汰する資本主義の原則に囚われることになる。
過去10年ほどの間に行われた、シリコンバレーと孫正義の大きな賭けの1つとして、配車や出前代行が挙げられる。シリコンバレーの常として非常に楽観的な見通しが立てられ、中東の権威主義政権とシステム不具合を繰り返すメガバンクから日本のソフトバンクGが調達したお金が大量に投じられた。
しかし、現在、それらの試みが余りワークしてなかったことが明るみに出始めている。欧米最大の配車アプリ「Uber」と出前代行アプリ「DoorDash」の結果を見てみよう。Uberは11月4日調整後のEBITDA(Adjusted EBITDA)というお世辞にも好ましいとは言えない指標で、ついに黒字化を達成したと宣言した。また、11月9日に発表されたDoorDashの第3四半期の業績は好調で、DoorDashの株価はさらに上昇した(DoorDashは、フィンランドのフードデリバリー企業Woltを80億ドルで買収することも発表した)。
これまでに上場した9社(Uberとそのライバルである米国のLyft、中国の配車アプリのDidiの配車3社、DoorDash、ベルリンに本社を置くDelivery Hero、中国のMeituan、インドのZomatoなどの宅配会社6社)は、合計で1,000億ドル以上の資金を調達している。ほとんどの場合、これらの資本は、ネットワーク効果を促進し、市場支配を自己実現するためのものだった。
投資家の資金は、需要を喚起するために、乗り物や配達に補助金を出すために使われた。あるピザ屋は、DoorDashで自社の食材を割引価格で売ることで利益を得ることができた(DoorDashは通常の金額をピザやに払った)というように、無茶苦茶な話になった。
このような浪費を正当化するために、関係者はシリコンバレーでよく使われる用語である「トータル・アドレッサブル・マーケット(TAM)」の巨大さを指摘した。Uberに初期から投資していたBenchmarkのBill Gurleyは2014年、Uberを自動車所有の代替手段と見なした場合、同社は1.3兆ドルもの消費者支出を獲得できると主張していた。
今振り返ってみると、これらのギグエコノミー企業の試みは不発に終わったと言えるだろう。確かに、上場しているギグエコノミー企業9社は今でも順調に成長しており、最新の報告書では、収益は前年同期比で平均103%となっている。だからこそ、9社合計で5,000億ドル近くの価値があるのだと思います。しかし、収益性も高くない。昨年のグループ全体の収益は750億ドル、営業損失は115億ドル近くに達している。
これらの企業が発見したように、彼らのビジネスは永久機関ではない。実際には、ネットワーク効果は予想よりもはるかに弱いことがわかっている。
多くのユーザーがUberとLyftの間を行き来している。ドライバーもどちらのモデルが最も良い報酬を得られるかによって、UberとLyftの間を行き来したり、配送アプリを利用したりしている。このように双方に交渉力があるため、結局、システムは自己強化されない。これを経済学ではスピルオーバー効果(漏出効果)と呼ぶ。
テクノロジーもまた、予想以上に有益ではなかった。企業が収集したデータは、業務の最適化に役立つものの、一部の人々が期待していたような決定的な要因ではなかった。規制当局も取り締まりを続けている。ロンドンでは、Uberにドライバーへの最低賃金と年金の支払いを強制している。サンフランシスコでは、DoorDashがレストランに請求できる食事の配達料に上限を設けた。
Uberの損失を食い止めるための曲がりくねった道のりは、投資家の楽観的な見方を裏切るものだ。Uberは、48億5,000万ドルの売上に対して、800万ドルの「利益」を出した。この調整後EBITDAには、株式ベースの報酬など圧縮可能な費用は含まれていない。Uberはコスト削減、自律走行車部門などの技術資産の売却、高い料金設定、運賃の取り分である「テイクレート」の増加などにより、赤字の海から這い上がってきた。その結果、Uberは従来のタクシーよりも安くなく、しばしば割高になっている。
さらに、時価総額850億ドルのUberは、今や配車アプリというよりも出前代行サービスとしての側面が強い。Uber Eatsは収益の半分以上を占めている。DoorDash自身の650億ドルという時価総額は、人々が自宅で食事をする機会が増えた時期ではあるものの、2019年の最終四半期から4倍以上に成長した売上にかかっている。しかし、食料品やペットフードなど、最近参入した新市場での成功も織り込んでいる。
2年半前、UberはIPOで1億8,000万株を1株45ドルで売り出し、時価総額820億ドルで81億ドルを調達した。しかし、19日の取引では41.57ドルで引け、IPO価格から7.6%下落。脚光を浴びたビジネスモデルは最低賃金以下で働くギグワーカーに依存した収益性の低いものだとわかりベールが剥がれ落ちてしまった。
もちろん、ネットワーク効果を享受する「本物のモデル」は存在する。ソフトウェアメーカーは、サブスクリプションモデルで、ユーザーを固定化することで、通常70%以上の粗利益を得ることに成功している。
ベンチャーキャピタルは、新しいビジネスを見つけようと躍起になっている。彼らはすでに30分以内に満足感を提供するインスタントデリバリーのスタートアップに資金を投入している。ニューヨークなどの都市では、Buyk、Fridge No More、Gopuffなどのサービスを利用して、少なくとも1週間分の食料品を無料で手に入れることができ、クーポンを集める消費者が増えている。最終的には、UberやDoorDashよりもはるかに優れた経済性を持つようになると、インスタントデリバリー企業たちは約束している。少なくとも金利が低く、資本が基本的に無料である限り、新規参入者と誇大広告は永遠に続くのだ。
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