SNSは後進に道を譲れ

Twitter元幹部による内部告発はSNSに「最後の一撃」を食らわせたように見える。SNSはモバイル化の波に乗って人々の可処分時間を占領したが、トレンドの転換とその負の側面に注目が集まったことで、再浮上の契機はなくなった。

SNSは後進に道を譲れ
Photo by Akshar Dave

Twitter元幹部による内部告発はSNSに「最後の一撃」を食らわせたように見える。SNSはモバイル化の波に乗って人々の可処分時間を占領したが、トレンドの転換とその負の側面に注目が集まったことで、再浮上の契機はなくなった。


TwitterのCEO直属の最高セキュリティ責任者だったピーター・ザトコが内部告発を行った。告発の内容は200ページ超の報告書にまとめられ、当局に提出されたという。

Twitter前セキュリティ責任者の内部告発の詳細:FTC命令の不遵守、ボット過少申告、スパイを主張
Twitterには、規制当局、株主、金融市場、ユーザー、そしてイーロン・マスクに対して行っていた説明と相反する重大なセキュリティ問題がいくつもある、と最近まで同社の最高セキュリティ責任者を務めていた人物が内部告発し、波紋を呼んでいる。

これは、買収に合意した後にTwitterの情報開示を非難し、買収完了をしようとせず、Twitterに訴えられたイーロン・マスクにとっては、願ったり叶ったりの内部告発となった。

マスクの弁護士は、ザトコを証言台に立たせるつもりだ。ザトコが内部告発の内容を法廷でなぞり、Twitterが敗訴し、一部始終が報道されることで会社のモメンタムが完全に失われる―そういう最悪シナリオが浮かんでいる。

この内部告発は昨年行われたFacebookの元データサイエンティスト、フランシス・ホーゲンによる内部告発に続くものだ。Facebookはその数週間後にMetaに社名変更し、「SNSの会社」というレッテル自ら剥ぎ取った。

このときすでにマーク・ザッカーバーグはSNSが退潮していくことを社内の非公開のデータから理解していたというのは穿った見方ではないだろう。Facebookの利用者が高齢化し、アクティブ性が低迷しているのは、数年前から公然の秘密だった。

Facebookはコンテンツ消費の場がモバイルへと移っていくことの旗手だった。同社はモバイルにおけるHTML5の可能性を探り、ユーザーは当時恐ろしく不便だったモバイルウェブを一生懸命使っていた。ザッカーバーグがネイティブアプリを重視する戦略にかじを切ってから、Facebookはスマートフォンの王者となった。

2010年代半ばまで欧米圏のSNSでは、「このドレスは何色ですか?(What Colors Are This Dress?)」という錯視をめぐる、とりとめないのない記事が世界的にシェアされる牧歌的な時代だった(下は前職時代に執筆した記事)―実際には新興国ではすでにSNSを使った政治や社会への攻撃が当たり前のように行われていたのだが……。

BuzzFeedの新技術「Pound」が解き明かす、SNS拡散の構造 | DIGIDAY[日本版]
バイラルメディア「BuzzFeed」のデータドリブンな運用方法を象徴する、独自開発の解析ツール「Pound」。シェアのプロセスに光を当て、ユーザー行動に深く入り込む、その解析結果から導き出された、SNS拡散の構造について。

当時珍しくなかったグローバル・バズは、FacebookやTwitterにとっては格好のユーザー獲得手法だった。しかし、ユーザー獲得がサチってくると、最高設定のスロットマシーンのように「バイラル」を引き起こしまくるアルゴリズムのいろんな副作用が気になってきたようだ。偽情報や倫理を逸脱した投稿のようなまずいものがものすごい勢いで流布していく様子をFacebookの中の人は見る羽目になったのだろう。それが最終的に未曾有のスキャンダルへと繋がり、それ以降も状況は悪化の一途にある。

アドテクの変遷 大手企業の独占的戦略が自由市場を打ち負かした経緯
アドテクノロジー市場ではGoogleとFacebookが独占的戦略が他の多数のスモールプレイヤーを押し出す結果となった。両者は、広告技術のエコシステムの要所を抑え、他社の参入可能性をなくした。

FacebookやInstagramから天下の座を奪い取ったTikTokは、厳密にはソーシャルメディアではなく動画アプリケーションである。TikTokが使うコンテンツレコメンドの手法は、FacebookやTwitterのようなつながりに依存していない。むしろ、このような手法をいまFacebookやInstagram、Twitterが取り入れ始めている。

トレンドは変わった。最も若い世代のファーストチョイスにSNSは入っておらず、彼らはそれを高齢者の嗜みだと考えている。

これらを反映するかのようにSNS企業の株価は低迷している。Snap、Twitter、Pinterestなど、米国の大手ソーシャルメディア企業の多くは、現在、上場時よりも時価総額が下がっている。Metaの株価は現在、史上最高値の半分以下で取引されている。

次の人々のコミュニケーションの場として期待されるメタバースは、まだ道半ばだ。Facebookはデバイスとプラットフォームを押さえる戦略をとるために100億ドルを超える投資をこれまでしてきた。

しかし、エピックゲームズのような長期的にゲーム産業に投資してきた企業と比較すると、アンリアルエンジンとフォートナイトの組み合わせのような戦略的優位性はまだ確立できていない。

しかも、知り合いのアイデアの盗用や「有望な新人」を片っ端から買収することによって、トレンドを捉えてきたMetaは、コンシューマをワクワクさせることには余りにも慣れていない。それは、先週世界を賑わした、ザッカーバーグの衝撃的な「メタバース内自撮り画像」で再び明らかになった。

出典:Meta

さて、Twitterの命運はマスクとの裁判にかかっている。ここでうまく勝訴し、マスクにその身を委ねることができたなら、命綱を掴んだと言えるだろう。だが、うまく行かなかった場合、残酷ではない未来を想像するのは難しい。

SNSはその登場から十分長く活躍した。いまは後進に道を譲るときだろう。

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

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脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)