ビジョンファンド、低報酬への不満で幹部の退職が相次ぐ

鳴り物入りで始まったソフトバンク・ビジョン・ファンドだが、リターンが優れないせいか、年功序列型の水準の低い報酬制度を従業員に提示し、孫正義の個人的利益を叶えるための新ファンドの設計もあらわになったため、幹部が続々退職している。

ビジョンファンド、低報酬への不満で幹部の退職が相次ぐ
Based on "SoftBank."by MIKI Yoshihito. (#mikiyoshihito) is licensed under CC BY 2.0

要点

鳴り物入りで始まったソフトバンク・ビジョン・ファンドだが、リターンが優れないせいか、年功序列型の水準の低い報酬制度を従業員に提示し、孫正義の個人的利益を叶えるための新ファンドの設計もあらわになったため、幹部が続々退職している。


ブルームバーグが引用した関係者によると、ソフトバンクグループ(SBG)は、12月にビジョン・ファンドの従業員に初めて利益を分配する準備をしているという。しかし、SBG CEOの孫正義は日本式の年功序列の利益分配を行おうとして、離職者を続出させているという。

昨年3月以降、7人のマネージング・パートナーが退社し、唯一のシニア・マネージング・パートナーであるディープ・ニシャールも年末までに退社する予定だ。最近の退任者の中には米料理宅配のDoorDashへの投資を主導したJeff Housenboldもいる。

これに先立って行われたThe Informationの報道では、ニシャールはビジョンファンド 2の報酬パッケージに私的に失望を表明した後に退社を打診したという。2019年半ばの時点でビジョン・ファンドのウェブサイトに掲載されていた23人の投資パートナーのうち、13人がその後退社したか、最近退社することを発表したという。

孫の計画では、主に年功序列に基づいて利益を配分する予定で、DoorDashや韓国の電子商取引企業Coupangへの投資のようなヒット案件でも、WeWorkやグリーンシルのような失敗案件でも、バイスプレジデントクラス以上のすべての組合員に分配を受ける権利を与えるという。

ビジョン・ファンドは1,000億ドルの資金を調達し、ベンチャーキャピタル界のパワープレーヤーになるはずだったが、WeWorkやグリーンシル、カテラのような失敗案件が相次ぎ、実際のリターンは振るわなかった。

2017年に創設されたビジョンファンドの1号ファンドは、2021年6月30日の時点で、投資額は48.5%上昇し、公正価値は約1,465億ドルに達している。しかし、これは、同時期に80%近く上昇したS&P500株価指数と比較すると大幅に劣っており、より大きなリターンが想定されている未上場株投資としては敗者に類するパフォーマンスだった。

ブルームバーグが取材した報酬体系に詳しい関係者によると、ビジョンファンドでは、中級レベルの投資家には約50万ドル、より経験豊富なスタッフには70万ドル以上の基本給を支給している。また、パートナーには数百万ドルの報酬が支払われている。

しかし、これに対し、利益分配が小さいことが不満の種となっているようだ。基本給とボーナスで約70人に対し1億ドルから1億5千万ドルの分配に達する可能性があるというが、これは一流のベンチャーキャピタルのパートナーが手にする金額からはかけ離れたものになるだろう。

孫は、ビジョンファンド2の利益を社員やソフトバンクに分配する前に、出資者である自分に分配することを決めており、これもまた不満を誘っている。孫は、ビジョンファンド2の株式の17.25%を保有する予定だ。孫は公開株やデリバティブに投資するユニット「SBノーススター」に33%の個人株を持っていたことも懸念されたことがある。

このような孫の自己利益を追求する動きと、それが会社の利益と相反しかねない様子は、幹部にも波及している。巨額の不正会計が明らかにされ、複数の経営陣が逮捕された独フィンテック大手ワイヤーカードの転換社債をめぐる取引によって、ラジーブ・ミスラ、アクシェイ・ナヘタ、佐護勝紀などの幹部が個人的な利益を享受したことが知られている。

離職勧告の側面

低い報酬の提示は、婉曲的な離職勧告なのかもしれない。

最近、タイガーグローバルやその他のヘッジファンドが、先に投資しているVCを信頼することで、投資先の調査や支援へのコストをカットし、その分投資意思決定の速度と提案する企業価値を高めることで、有料新興企業への投資シェアを引き上げる戦略をとっているが、ビジョンファンドも二本目のファンドからその方向にかじを切っている。

このような戦略では、ヘッジファンドは先行するシリコンバレーのVCの目利きに依存すればよく、経験を積んだ人材を雇う必要があまりない。

The Informationの報道では、春頃、孫はビジョンファンドが注目のテクノロジー企業への投資を逃してしまったことに不満を抱き、パートナーたちに、リストに載っている新興企業にできる限り多く連絡を取り、投資提案に応じてもらえるかを確認するよう求めた。「それからの数ヶ月間の会議で、孫はパートナーたちが接触した新興企業の数を定期的に尋ね、時には十分な電話をかけていないとして特定の個人を非難したと、関係者の一人は語っている」と記述している。

The Informationが引用した関係者によると、従業員には「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる(spray and pray)戦略」への不満があるとされる。

ここからは、有望と目されているスタートアップ企業にできる限りコンタクトを取り、投資を成約させればいいという「不動産営業」に似たようなものにビジョンファンドの投資手法が変化したと推し量ることができる。不動産屋で電話をかけまくるのは、百戦錬磨のプレイヤーではなく、新人の営業の仕事だ。

そして、SBGは4年前に買収した資産運用会社であるフォートレス・インベストメント・グループの売却を検討している。同社の戦略が優良投資先に投資提案の機会をもらい、他の投資家よりも高い値をつけるというシンプルなものになったいまでは、不要になったのかもしれない。