相次ぐサブスク製品の値上げは消費者のストレステストとなる
Photo by James Yarema on Unsplash

相次ぐサブスク製品の値上げは消費者のストレステストとなる

アマゾンやネットフリックスなどサブスク製品の値上げが相次いでいる。月額課金制のアプリの増加も加わり、どのレベルまで消費者は離れないのかを測るストレステスストとなっている。

吉田拓史

今月初め、米国のアマゾンの送料・ビデオ無料のプライム会員が、新規登録で年額119ドルから139ドルに値上げされた。この変更は、3月25日以降に現在の会員に適用される。Hulu、Spotify、Disney +、Sling TVも過去1年間に値上げされた。

サービス料金の高騰や月額課金制のアプリの増加により、消費者のデジタルライフはより多くの予算を消費している。防犯カメラ、クラウド写真ストレージ、パスワード管理、何週間も開いていない語学学習アプリ、さらにストリーミングサービスの選択肢は無限にある。サブスクリプションの「燃え尽き症候群」は現実であり、価格の上昇も同様だ。

提供企業は、人件費、一般諸経費など、多くのコスト増に直面し、それを価格転嫁しようとしている。ネットフリックスは、プラットフォームを満たす新しいコンテンツのための製作費用が値上げの背景にあると述べ、アマゾンは賃金と輸送に関連するコストの上昇を挙げている。ネットフリックスが前回料金を引き上げたのは2020年だった。アマゾンの場合は2018年だった。

すぐさまサブスクを解約する消費者行動が顕著に

利用者側には利用者側の戦略が確立しつつある。ストリーミング・サービスが提供する月単位の支払いモデルは、消費者が好きな作品を見て、すぐさま解約するという行動を助長していると見られている。

加入者測定会社Antennaがウォール・ストリート・ジャーナルに提供したデータによると、Disney+で「ハミルトン」、HBO Maxで「ワンダーウーマン1984」の公開に合わせて契約した米国内の視聴者の約半数が、6カ月以内に退会しているという。

コネクテッドTV分析会社のTVisionのデータによると、この分析会社は、パネルメンバーの中で最も視聴された2021年公開のネットフリックスオリジナル作品10作品の大半が、公開後1ヶ月目に視聴率のピークを迎えたという。エンタテインメントコンテンツのインサイトプロバイダーであるWhip Mediaが運営する「TV Time」アプリユーザーの73%が公開後1ヵ月で「イカゲーム」を視聴したと回答している。

イカゲームでも1カ月で圏外 瞬発的に消費されるNetflixドラマ
Netflixコンテンツの消費はたった一カ月に凝縮されている。Netflixは来年330億ドルを費やす予定のディズニーのような競合他社と歩調を合わせるためにはさらに予算を増やし続ける必要がありそうだ。

これらの大作シリーズが視聴者の間でどれだけ急速に勢いを失っていくかは、ネットフリックスが、加入者を惹きつけるために必要なヒット作を常に補充しなければならないオリジナル番組の供給にどれだけの費用をかけなければならないかを示唆している。

ストリーミングサービスは、オリジナル番組に率直に言ってとんでもない額を費やしており、企業Ampere Analysisの推計によると、2022年には全世界で2300億ドルを超えると予想されている。Ampereは、Netflixをビデオコンテンツへの第3位の投資家と位置づけ、DisneyとComcastに次ぐ規模としている。この2社は、高価なスポーツの放映権に投資していると同社は指摘している。

メディアアナリストのモフェット・ナサンソンはこの極端な視聴傾向に触れていた。彼は12月の報告書でネットフリックスのオリジナル作品の多くはリリース後すぐに視聴者数がピークに達し、比較的短い視聴期間しか持たないと指摘している。

ナサンソンの調査によると、ネットフリックスは第3四半期にニールセンのトップ10に入ったオリジナル番組が40本あったが、米国でネットフリックスを利用した時間の1.5%以上を占めた番組はなかった。つまり、視聴の嗜好には分散傾向があり、さらに視聴者は次から次へとコンテンツを飛び移る傾向があると推定できる。

そしてこれは、ネットフリックスがオリジナルコンテンツに莫大な費用を投じ続けないと、有料会員の維持と新規獲得を継続できない可能性をもっともらしくしている。

サンクコストの誤謬

ペンシルバニア大学マーケティング学部教授のラグラム・アイエンガーらの研究は、サブスクリプションに加入していることが、積極的な顧客行動を引き出している可能性があると結論づけている。

アマゾン・プライムは非常に成功しており、会員は年間1,300ドルを消費し、非会員の年間平均消費額700ドルのほぼ2倍となっているが、研究によると、このような消費額の差分は、サブスクリプションに加入していることが利用者のサンクコスト(埋没費用)の誤謬に陥っていると主張している。

サブスクリプション製品は料金の前払いが基本であり、その前払金は取り返し不能な「埋没したコスト」であるため、合理的な発想のもとでは、そのコストを考慮せずに消費行動を組み立てるべきである。実際には「これだけ払ったのだから」という心理が働いて、より活発にアマゾンで商品を注文するようになると彼らは主張している。

「興味深いことに、顧客が購入から得られる効果のうち、購読プログラムの経済的利益によるものは3分の1に過ぎず、残りは会員になることそれ自体によるものであった」とアイエンガーは書いている。

しかし、現在、人々は多数のサブスクを変更して利用しており、契約しているものの手の届かないサブスク製品が存在するのも確かだ。そこで、今回のようなネットフリックスやアマゾンらが総じて値上げを行う局面になったときでも、サンクコストの誤謬は効果的なのだろうか? サブスク消費者は再び試されているのだ。

参考文献

  1. Iyengar, Raghuram and Park, Young-Hoon and Yu, Qi, The Impact of Subscription Programs on Customer Purchases (January 1, 2022). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3529681 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3529681