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現代会計は無形資産を算定できない

現代会計は、無形資産等のデジタル経済の新しい価値を算定できない。特に情報技術に関連するものは、バランスシート(貸借対照表)にうまく取り込まれていない。財務会計が時代遅れになっていることを物語る。

5 months ago

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無形資産等のデジタル経済的な新しい価値は、古典的な財務会計の必要性を著しく削いでいます。それは、デジタル経済の始まりと会計の終焉を物語ります。

企業の無形資産、特に情報技術に関連するものは、企業のバランスシート(貸借対照表)にうまく取り込まれていません。無形支出の大部分は費用に計上されます。つまり、貸借対照表に資産を構築する投資としては扱われません。まれな例外の1つは、のれんです。他の顕著な例外は、ソフトウェア開発費用のほんの一部です。大半の開発費用は、資産に計上されません。したがって、ビジネスプロセスの再構築や労働力の再構成、ソフトウェアを開発するための人材獲得などに関する支出はすべて、費用として処理する必要があります。しかし、テクノロジー投資の重要な要素を形成するのは、まさにこの無形支出にあたります。

ITは米企業投資の約30%を占めていますが、企業レベルのIT投資とITプラクティスに関する公開データは極めて不足しています。たとえば、最新の無料で公開されているIT支出データセットは1997年に最後に公開されました。これは、1997年までの段階で、ハードウェアの費用1ドルごとに、市場価値10ドル以上があることを示し、未測定のIT関連無形資産が少なくとも9ドルあることを示唆しています。ただし、IT関連の無形資産に関する利用可能なデータが不足しているため、ITとビジネス価値とのこの関係の性質を理解する努力が妨げられてきました。

仮に2020年時点で有用なデータがあるとすれば、ハードウェアの費用と市場価値の乖離はより著しいはずです。それは、GoogleやFacebookのハイパースケールデータセンターから容易に想像がつきます。基本的にはこの乖離の穴を埋めるのは、ソフトウェア技術とソフトウェアの拡張性や相乗効果、それらが市場で発揮するネットワーク効果によるリターンなどと想定できます。

現代の企業の最も目に見える資産はその構造、設備、その他の物理的資産かもしれませんが、多くの企業にとって最も価値のある資産は無形です。これには、特許や著作権などの知的財産、広告や口コミで作成されたブランド資本、ビジネスプロセスや方法、さらには企業の組織や決定権の割り当てなどが含まれます。

ITの経済性に関する研究により、コンピューターハードウェアへの投資には通常、実質的なソフトウェア、組織、およびプロセスへの投資が伴い、IT投資の生産性はこれらの補完的な投資も行うとはるかに高くなることがMITのErik Brynjolfssonらの研究で明らかになっています。 米経済分析局による最近の推定によると、米国の企業は2.3兆ドル以上の知的財産資産を保有しており、そのような資産に毎年さらに6,000億ドルを投資しています。

『無形資産が経済を支配する  資本のない資本主義の正体(Capitalism Without Capital)』(Jonathan Haskel, Stian Westlake)は、2006年のMicrosoftの財務からこのような洞察を得ています。「マイクロソフト社の2006年における市場価値は2500億ドルほどだった。マイクロソフト社の資産を計上するバランスシートを見たら、総資産は700億ドルほどで、うち600億ドルは現預金や金融資産だ。工場や設備といった伝統的な資産はたった30億ドル、マイクロソフト社の資産の4%という微々たるもので、時価総額の1%にすぎない。つまり伝統的な資産会計によると、マイクロソフト社は現代の奇跡だ。これは資本なき資本主義なのだ」。これを説明するには、いくつかの無形資産を定義せざるを得ず、概ねそれらはソフトウェア関連に収斂していたのです。

「古典的な」会計の終わり

このようなMicrosoftの例からも分かる通り、古典的な財務会計と企業価値評価の相関関係は著しく失われています。それは、産業経済からのデジタル経済への移行に起因しており、「会計の終わり」を示しています。

今日、企業の財務諸表からの単純な会計基準に基づく評価ではもはや十分ではありません。 2016年の書籍 "The End of Accounting and the Path Forward for Investors and Managers" で、ニューヨーク州立大学Stern School of Businessの会計および財務教授の Baruch Levとバッファロー大学の会計法学部准教授のFeng Guは、過去100年ほどで、財務報告書が資本市場の決定においてあまり役に立たなくなったと主張しました。

たとえば、GAAPの下では、ブランド創造のために多額の金額を支出したとしても、貸借対照表はそれらの投資に対してゼロの価値を示します。対照的に、競合他社が同様の支出を行った会社を買収した後、競合他社のバランスシートに数十億ドルの資産が表示される場合があります。買収額のうち相手企業の純資産額を上回る部分がのれんですが、これは後に減損で対応することになります。この一貫性のない会計処理は、企業価値を指針として企業を比較しようとする投資家を混乱させます。

あるいは、GAAPでは、R&D(研究開発)費用を発生時に支払う必要がありますが、投資家はこれらの支出を会社の価値を高める資産と見なしています。 この本は、株式投資家がGAAP収益を正しく予測するよりもキャッシュフローを正しく予測することで、はるかに高い投資収益を獲得できることを指摘しています。さらに、キャッシュフローは利益よりも簡単に予測できます。利益は、GAAPによって義務付けられた疑わしい会計上の見積もりで構成されます。

GAAPと株式投資家の企業価値評価の関係は著しく緩んでいます。 過去60年以上にわたり、株価と、収益、簿価、売上、売上原価、資産、負債などの主要な会計指標との相関関係が急激かつ着実に低下しています。この衰退が主に産業経済時代から情報化時代への移行に起因するとしている、とLevらは説明します。

国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)はどうでしょうか。IFRSは、無形資産を、「IAS 38」としてこのように定義します。「無形資産は、物理的実体のない識別可能な非貨幣性資産です。そのような資産は、分離可能な場合、または契約上の権利またはその他の法的権利から生じる場合に識別可能です。分離可能な資産は、販売、譲渡、ライセンス供与などが可能です。無形資産の例には、コンピューターソフトウェア、ライセンス、商標、特許、映画、著作権、輸入割当が含まれます。(以下略)」。つまり、無形資産として、財務諸表に計上するためには、「物理的実態がない」「非貨幣性資産」「識別可能」「資源の支配」「経済的便益の流入」「原価の信頼性」が確認されたものということになります。これは、かなり困難な基準であり、また、企業はソフトウェアを資産として計上することで、追加的な課税を受けかねないことを好まないでしょう。

この問題を修正するために、Levらは大胆に会計システムの根本的なオーバーホールを提案します。彼らの新しいモデルは、著者の推定によると、今日の財務報告は投資家が使用する情報のわずか5%を提供するという事実に対処しています。Levらは、持続的な経済的優位性を生み出す項目に焦点を当てた「戦略的資源と結果報告書」で伝統的な財務諸表を補完しようとしています。この報告書は、業界内の発行者の比較を容易にするために、いくつかの公開企業がすでに行った偶然の開示ではなく、特許、石油埋蔵量、情報技術などの詳細をすべて標準化された形式で示す、と彼らは定義しました。

LevとGuは、とりわけ、提案されたレポートをキャッシュフローに焦点を当てることにより、GAAPの価値創造の測定を改善することを目指しています。研究(つまり、新しい知識の体系的な追求)と開発(つまり、研究を使用して新しい製品やプロセスを開発する)を分ける内訳を企業に対し提供することを提案します。さらに、資本コストの費用は、キャッシュフローから差し引かれます。たとえば、可能であれば、石油およびガス埋蔵量からのキャッシュフローの現在価値など、主要な戦略的資産の価値の変化が考慮されます。

The End of Accounting and the Path Forward for Investors and Managers. 2016. Baruch Lev and Feng Gu. Via Willey Publishing

無形資産が示す事実

飛躍がありますが、無形資産とは、理論物理学におけるダークマターのような形で生まれてきました。「それがそこにないと説明がつかない」ということです。しかし、これは「説明のための説明」に堕落する可能性があるとわたしは恐れています。その補足と定式化には、慎重さが求められます。

無形資産が賃借対照表にうまく取り入れられていないという事実は、わたしが経営するような初期のスタートアップから、成長期にあるスタートアップまでの企業価値を評価することを、とても難解にしています。最も犯してはいけない過ちは、これらを短期的な損益計算書による、製造業などに摘要されるような古典的な基準によって、評価してしまうことです。そしてこれは、日本ではいまも通例とされており、スタートアップ業界を活性化するときの大きな制度的障害として機能していることを、わたしは指摘しておきましょう。(もっと詳しいことは、わたしにとって非常に不利に働くので調べてもらうと幸いです)。現代は産業経済時代から情報化時代に移行を完了し、古典的な財務会計は死にました。あなたは手元のコンピュータからスプレッドシートのファイルを消去するべきときが来たのです。

参考文献

  1. .Jonathan Haskel, Stian Westlake.『無形資産が経済を支配する  資本のない資本主義の正体』.東洋経済新報社. 2020.
  2. Adam Saunders, Erik Brynjolfsson. Valuing Information Technology Related Intangible Assets. Mis Quarterly, 2016 - pdfs.semanticscholar.org.
  3. Erik Brynjolfsson, Adam Saunders. How Information Technology Is Reshaping the Economy. The MIT Press. 2010.
  4. NIPA Handbook - Bureau of Economic Analysis. Bureau of Economic Analysis, National Income and Products Accounts Table 5.3.5. “Private Fixed Investment by Type.”. 2017.
  5. Martin Fridson. Book Review: The End of Accounting and the Path Forward for Investors and Managers. CFA Institute. 2017.

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Takushi Yoshida

Published 5 months ago