クアルコム、VWと組んでNVIDIAの車載SoCの牙城に挑戦

VWのソフトウェア会社であるCARIADは、レベル4までのアシストおよび自動運転機能を実現するために設計されたソフトウェアプラットフォーム用のSoCをクアルコムが供給することを発表した。クアルコムが車載SoCにおいてNVIDIAの牙城に挑戦する事例の1つである。

クアルコム、VWと組んでNVIDIAの車載SoCの牙城に挑戦
Image by Quallcomm.

フォルクスワーゲン(VW)グループが、自律走行車の開発でクアルコムと提携したと、ドイツの主要な日刊商業経済紙ハンデルスブラットが報じた。

同紙は同社関係者の話として、自動車メーカーが2026年から世界中の全ブランドで、自動運転車向けに特別に開発されたクアルコムのシステムオンチップ(SoC)を使用することになると伝えている。情報筋によると、この契約には約10億ドルかかり、契約期間は2031年までとされている。

VWが自動運転のパートナーとしてクアルコムを選択したことは、業界関係者を驚かせた。VWは、長年の技術パートナーであるモービルアイと提携すると予想していたとハンデルスブラットは伝えている。

その翌日の5月3日、VWのソフトウェア会社であるCARIADは、レベル4までのアシストおよび自動運転機能を実現するために設計されたCARIADのソフトウェアプラットフォーム用のSoCをクアルコムが供給することを発表した。クアルコムのSnapdragon Rideプラットフォーム・ポートフォリオに含まれるSoCは、CARIADの標準化および拡張可能なコンピュート・プラットフォームの重要なハードウェアコンポーネントとなり、2020年代半ばからのグループ向け車両に搭載される予定だ。

今回のクアルコムの提携発表は、欧州の大手自動車会社であるBMW、フェラーリ、ルノーとの3つの提携、米国のGM、中国の長城汽車との先行発表に続くものだ。今回の提携発表は、先進運転支援システム(ADAS)および自律走行(AD)システムを開発するためのクアルコムのSnapdragon Rideプラットフォームが、2020年の導入からわずか2年余りで勢いを増していることを示している。

クアルコムは、Snapdragon Digital Chassisの傘下でハードウェアとソフトウェアのプラットフォームを拡大し続けている。ソフトウェアに関しては、最近Arriverの買収を完了し、自律走行用のソフトウェアスタックを開発するためにBMWとの戦略的パートナーシップを発表した。この分野の急速な進歩は、クアルコムが将来の自動車プラットフォームと、それに伴うC-V2X(cellular vehicle-to-everything)接続を備えたインフラに投資した結果だ。

NVIDIAが車載SoCの分野をリードしてきた。ハードウェアに加えソフトウェアスタックも完備した垂直統合型のシステムを提供し、自動車メーカー側に「高い取り分」を要求することで知られる。また、NVIDIAの採用は完全なベンダーロックインを意味し、長期的に同社に依存することが確定的となる。この部分への不満が、クアルコムにとってつけ入る隙となっている。VWのように自社でソフトウェア部門を持つメーカーにとっては、クアルコムとの提携を合理化しやすいだろう。

クアルコムは自律走行車の肝である機械学習の協議会でもプレゼンスを発揮しつつある。3月に開催されたベンチマーク競技会MLPerfでは、NVIDIAが支配的な結果を示したが、クアルコムは、NVIDIAと争う意欲があるという点で希少な存在である。クアルコムは特にエッジアプリケーションで優位に立ち、堅実なパフォーマンスを示した。同社のQualcomm Cloud AI 100アクセラレータは、性能だけでなく電力効率も重視しており、その強みが発揮された。

クアルコムのAI 100はいくつかの分野で、NVIDIA A100の電力効率で勝る部分が認められた。出典:NVIDIA
ただ、NVIDIAはすべての分野でMLの計算で他を圧倒していると主張している。出典:NVIDIA

NVIDIAのプレス/アナリスト向け事前説明会では、David Salvator(senior product manager, AI Inference and Cloud)もクアルコムの強力なパワーを[認めた]。「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)タイプのネットワークでは、率直に言って、クアルコムが効率に関連してかなり良いソリューションを提供した場所がいくつかある」。

ただ、まだ、自動車メーカー向けのサプライヤーとしては、NVIDIAの牙城は揺るがなそうだ。過去1年間で、同社の自動車関連取引のパイプラインは38%急増し、110億ドルに達したことを、3月のGTCカンファレンスで明らかにした。

GTCでは同社は、BYDとLucid Groupを、同社の自律走行車(AV)チップの新しい顧客として発表した。NVIDIA Driveを搭載した最初のBYD車は、2023年初頭に登場する予定だ。BYDのほか、中国のEV新興企業であるNIO、Xpeng、Li Autoは、新車や今後発売する車にNvidiaのSoC「Orin」を使用している。

3月のGTCで、NvidiaはDrive AVプラットフォームの次世代機「Hyperion 9」を発表した。2026年に出荷される自律走行車に搭載して発売される予定だ。

急成長するNVIDIAの自律走行車事業
NVIDIAの稼ぎ頭はゲームとデータセンターの二つだが、自動車部門が3つ目になりそうだ。自律走行技術企業や完成車メーカー、EVメーカーは多かれ少なかれ、自律走行の実現のためNVIDIAに依存している。
NIOの自律走行がNVIDIA頼みの背景
電気自動車(EV)メーカーにとって、自動車の量産だけでも非常に難しいミッションである。このため自律走行に関してはNVIDIAのようなサードパーティに頼るのが自然な流れだ。

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