Web3の誇大広告はいつ崩壊するか?

いつかWeb3をめぐる幻想が崩壊するだろう。ただ、多数派はそれがクールに思えたり、ギャンブルの格好のネタだから夢中になっている。そういう意味でWeb3のいくつかの部分は生存の機会があるだろう。

Web3の誇大広告はいつ崩壊するか?
Image created by Takushi Yoshida.

Web3という言葉が何を意味しているのか、その言葉を使っている大半の人々は理解していないだろう。もちろん、私も理解していない。誰もがブームの存在は知っているものの、その実態は誰も分からない。世界史の教科書を読み解けば、この種の出来事は数千回あっただろうし、その最新のものがWeb3なのである。

「Web 3.0」という用語は2000年代半ばに初めて用いられ、ティム・バーナーズ・リーの「セマンティックウェブ」のビジョンと互換的に使われた。2014年にイーサリアムの共同創業者であるギャビン・ウッドが、イーサリアムのブロックチェーンが分散型ウェブの基盤となることを示唆したときに、この用語が再び登場した。

その後、2021年にベンチャーキャピタル(VC)のアンドリーセン・ホロウィッツが「我々は今、Web3の時代の始まりにいる」「Web3はビルダーとユーザーが所有し、トークンでオーケストレーションするインターネットである」と宣言するまでこの言葉は鳴りを潜めていた。

誇大広告の結果、「Web3」はブロックチェーン、メタバース、非代替性トークン(NFT)関連のあらゆるものの総称としてを使われるようになったが、収集がつかなくなっている。

この無内容なハイプの背後には特定の利益集団がいる。ツイッターの共同創業者でビットコインの提唱者であるジャック・ドーシーが指摘しているように、一握りのベンチャーキャピタルがWeb3市場の大半を所有している。「a16z」の呼称で知られるアンドリーセン・ホロウィッツはそのトップに位置しているだろう。

有名VCはWeb3で大儲けしたが周囲は”ゴミ”と考えている
ベンチャーキャピタリストをはじめとする、ブロックチェーンを利用したインターネットの未来を「予見」する人々は、Web3をゲームチェンジャーと見なしているが、参加したい人は十分いるだろうか?

真っ青の幻想で包まれたWeb 3の世界の中では、一部のプレイヤーが20世紀の石油企業のような独占を目論んでいる。最近、著名なNFTアートのグループが「分散型自律組織」(DAO) の通貨であり投票権である暗号通貨を発行したが、a16zらのVCがApeCoinの最大の受取人の一部であったことが判明している。

著名アートブランドのコイン発行はNFTの権力問題を暴露
有名NFTブランドのボアードエイプ・ヨットクラブApeCoinとDAOは、この進化する空間におけるベンチャーキャピタルの影響力と権力について、厳しい批判を受ける材料をさらに提供することになった。

「分散型自律組織」という厨二病が好みそうな名前とは裏腹に、それは一部の荘園領主の存在を認め、権力を与えようとしているのだ。

「金融機関がこの資金源を断つまでは、Web3の誇大広告は続き、一攫千金を狙った詐欺がより価値のある開発を押しのけてしまうだろう」とリサーチ会社フォレスターは最新の報告書で警告している。「Web3の熱狂的なファンが、既存のWorld Wide Webを汚したと非難する、独占的な構築、搾取、価値の抽出と同じ傾向がすでに見られるのだ」。

「『Axie Infinity』のような多くのプレイ・トゥ・アーン(プレイして稼ぐ)のゲームでは、トークン富豪が、他の方法では購入する資金がないプレイヤーにゲーム権を与えることができ、富豪はその後、そのプレイヤーが獲得したトークンの上前をはねる。これは本質的に、デジタル小作権である」とフォレスターは断じている。

非中央集権的と主張しているが実態は中央集権的だ

a16zのパートナーであるクリス・ディクソンは「Web3以前は、ユーザとビルダーは、Web1の限られた機能か、Web2の企業的で中央集権的なモデルのどちらかを選ばなければならなかった」と書いている。ハーバードで経営修士号(MBA)を取得したディクソンに技術に関するバックグラウンドがあるのか疑問だが(少なくともブログはWeb2にホスティングできるようだ)、彼はWeb3がより平等で民主的な世界をもたらす革命のように描いている。

彼は一部の人からはWeb3の王と呼ばれている。Web3が王のいない分散的な世界だという建付けがあるのにもかかわらず、だ。先に述べたように、Web3の様々な資産にはa16zの資本が入っており、Web3をめぐる言説とそれにまつわる投資に対して強い影響力を持っている(とても集権的だ)。

では、技術的な観点では非中央集権的なのだろうか。この問にステークホルダー以外で同意する人を探すのはとても難しいだろう。Web3とブロックチェーンに懐疑的な人たちは、Web3が真に非中央集権的であるという理想からかけ離れていると言っている。多くの人がWeb3に懐疑や呆れの視線を向けているが、面倒に巻き込まれないように完全に無視するか、黙り込むかのどちらかを選んでいる。大手テクノロジー企業がトークンや暗号通貨などWeb3の構成要素の採用を検討しているのは確かだろうが、彼らも「Web3」というキラーワードには一言も触れていない。

Signalの共同設立者でSignal, WhatsApp, Google Messages, Facebook Messenger, Skypeで使用されているSignal Protocolの共作者でもあるモキシー・マリンスパイクは今年1月、Web3に対して辛辣なブログを公開し、物議を醸した。マリンスパイクはdApps(分散型アプリケーション)とNFTの作成を実際に行った上で検証している。

暗号化メッセージングアプリSignalの共同設立者でコンピュータ科学者、暗号学者のモキシー・マリンスパイク.
Image by Max Morse for TechCrunch(licensed under the Creative Commons Attribution 2.0 Generic license) : https://www.flickr.com/photos/techcrunch/37137051592/in/album-72157686074797891/
暗号化メッセージングアプリSignalの共同設立者でコンピュータ科学者、暗号学者のモキシー・マリンスパイク. Image by Max Morse for TechCrunch(licensed under the Creative Commons Attribution 2.0 Generic license) : https://www.flickr.com/photos/techcrunch/37137051592/in/album-72157686074797891/

マリンスパイクはdAppsの開発を通じて、Web3がクライアントをピアとみなしておらず、モバイルやブラウザでのdAppsの使用を勘案すれば、Web1, 2のクライアント・サーバーと変わりがないと指摘した。モバイルで動作する現代のアプリケーションの大半は背後に極めて中央集権的なハイパースケールデータセンターの存在を含意としているが、Web3もモバイルやブラウザというクライアントの存在がある限り、サーバー間で行われる分散合意プロトコルがあろうとなかろうと、中央集権的であることに変わりがないと主張しているのだ。

「ブロックチェーンについて語るとき、彼らは分散型信頼、リーダーレス合意、そしてその仕組みのすべてについて語るが、クライアントが最終的にその仕組みに参加できないという現実は、しばしば覆い隠される。ネットワーク図はすべてサーバーのものであり、信頼モデルはサーバー間のものであり、すべてはサーバーのものだ。ブロックチェーンはピアのネットワークとして設計されているが、携帯端末やブラウザがピアの1つになるような設計にはなっていない」とマリンスパイクは書いている。

モバイルへの移行により、人々はクライアントとサーバーの世界でと生きており、クライアントがサーバーの役割を果たすことは不可能だ、とマリンスパイクは指摘している。「一方、Ethereumでは、サーバーを『クライアント』と呼んでいる。つまり、信頼できないクライアント/サーバー・インターフェースがどこかに存在しなければならないのに、その言葉すらなく、成功すれば最終的にサーバーよりもクライアントが何十億(!)も多くなることを認めていないのだ」

明確なゲートキーパー(門番)の存在

彼は、dAppsの開発者ですらも自身のサーバーを持つのをためらうため、Ethereumノードとの仲介を行う業者が登場しており、この業者への信頼なしではdAppsは成立しないことを指摘している(業者は単一障害点になりうる)。これはdAppsが非中央集権的ではないことを意味している。「これには驚いた。これほど多くの労力とエネルギーと時間を費やして、信頼できる分散型合意メカニズムを作り上げたのに、それにアクセスしようとするクライアントは事実上すべて、この2社からのアウトプットを信頼するだけで、それ以上の検証を行わずにアクセスしているのだ」

プライバシー面でも、これらの企業は、ほぼすべてのdAppsのほぼすべてのユーザーからのほぼすべての読み取り要求を視界に収めることになる、とも指摘している。

マリンスパイクはNFTの作成を通じても興味深い指摘をしている。それはNFTが、信奉者が喧伝するのとは異なり、画像やデジタルアートのオリジナリティを証明する役割を果たしていないことだ。

「NFTはデータをオンチェーンに格納する代わりに、データを指すURLを格納する。この規格で驚いたのは、URLにあるデータにはハッシュの約束がないことだ。人気のあるマーケットプレイスで数十ドル、数百ドル、数百万ドルで売られているNFTの多くを見てみると、そのURLは、どこかのApacheを実行しているVPS (仮想専用サーバー)を指しているだけであることが多い。そのマシンにアクセスできる人、将来そのドメイン名を購入する人、そのマシンを危険にさらす人は誰でも、NFTの画像、タイトル、説明などをいつでも好きなものに変更できる(トークンを「所有」するかどうかに関係なく)。NFTの仕様には、画像が「どうあるべきか」を示すものはなく、あるものが「正しい」画像であるかどうかを確認することさえできない」

さらに彼は圧倒的に意地悪な実験を行った。それは、「誰が見るかによって変化するNFT」を作ることだ。そのNFTはOpenSeaでは画像左のように見え、Raribleでは画像中央に見え、購入して暗号ウォレットから見ると、常に大きな💩(うんち、画像右)の絵文字として表示される。

これは、NFTの表向きの説明を完全に覆してしまう実験だった。「最高値のNFTの多くは、いつ💩の絵文字に変わってもおかしくないので、それを明示しただけだ」

また、数日後、警告も説明もなく、彼が作ったNFTはOpenSeaから削除された、と彼は書いている。「最も興味深かったのは、OpenSeaが私のNFTを削除した後、私のデバイス上のどの暗号ウォレットにもNFTが表示されなくなったことだ。これはWeb3だが、どうしてそんなことが可能なのだろうか?」

さらに、マリンスパイクはWeb3で重要な役割を果たす暗号通貨ウォレットのMetaMaskは「集中型APIによって提供されるデータに対するビュー」にすぎないと一刀両断している。「MetaMaskはブロックチェーンと対話する必要があるのだが、ブロックチェーンはMetaMaskのようなクライアントが対話できないように構築されている。そこで、私のdAppのように、MetaMaskはこの分野で統合した3社にAPIコールをすることでこれを実現する」

別のウォレットであるRainbowなども全く同じようにセットアップされている。Rainbowはウォレットに組み込まれたソーシャル機能のための独自のデータを持っており、ブロックチェーンではなくFirebase(Googleが運営するバックエンドアズ・ア・サービス。“中央集権的”なデータセンターに所在する。アクシオンのサイトもFirebaseに頼っていた時期がある)の上にそのすべてを構築することを選択しているという。

これらのことから、先程の💩のNFTアートがOpenSeaから削除されたら、ウォレットからも消えてしまうことが説明できるという。つまり、ウォレットはNFTを表示するためにOpenSea APIを使用しており、私のアドレスが所有するNFTのクエリに対して304 No Contentを返し始めたから、ウォレットから消えたのだ。ブロックチェーンにはコンタクトしていない。

彼は、Web3と言われる空間は、Infura、OpenSea、Coinbase、Etherscanのような中央集権的なプラットフォームに集約されつつある、と結論づけている。中央集権的なプラットフォームは、注がれる投機資金を効果的に引き受けていくために構築されたものであり、その結果、Coinbaseが提供するデビットカードでJPEGを売買するためのサイト(OpenSea)が生まれたと主張している。

彼は最終的にWeb3に厳しい評価を下している。「私は、Web3が中央集権的なプラットフォームから私たちを解放する軌道にあるとは思わないし、テクノロジーと私たちの関係を根本的に変えるとも思わないし、プライバシーに関する話はすでにインターネットとしては並以下だと思う(これはかなり低いハードルだ!)」

しかし、彼は最初に指摘したクライアント・サーバーを認めることを提言してもいる。「クライアントとサーバーの関係が比較的中央集権的であることは避けられないが、信頼を分配するために(インフラではなく)暗号を使用するというアーキテクチャを予期し、それを受け入れるということだ。Web3について私が驚いたことのひとつは、『クリプト(暗号)』の上に構築されているにもかかわらず、暗号がほとんど使われていないように見えることだ」。

結論:誇大広告の終わりは近い

いつかWeb3をめぐる幻想が崩壊するときが来るだろう。しかし、大半の人はNFTが非中央集権的というマーケティング文句に興味がないかもしれない。ただ、それがクールに思えたり、よくできたオモチャであったり、ギャンブルの格好のネタだから夢中になっている。そういう意味でWeb3のいくつかの部分は生存の機会があるだろう。

また暗号通貨やその取引所は、Web3を形成する大半のオモチャと比べて、様々な人々にとって実用性を見出しやすいものである。もし、人類が一定以上の知性を保持しているのなら、Web3という誇大広告が消え失せることになる。そのときに生き残るものと消えるものが何かを見極めておく必要があるだろう。

Read more

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表 往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史