インテルがRISC-Vチップ設計SiFiveに買収提案した背景

Armの対抗馬はインテルの仲間?

インテルがRISC-Vチップ設計SiFiveに買収提案した背景

平日朝6時発行のAxion Newsletterは、デジタル経済アナリストの吉田拓史(@taxiyoshida)が、最新のトレンドを調べて解説するニュースレター。同様の趣旨のポッドキャストもあります。登録は右上の「Subscribe」ボタンからFreeプランでサインアップいただき、確認メールの「Sign in to Axion デジタル経済メディア」ボタンをクリックください。

要点

NVIDIAがArmを買収し、米中の対立が過熱する中、RISC-Vのポジションは重要性を高めている。SiFiveはRISC-Vコミュニティの牽引役であり、半導体委託製造事業をブーストしたいインテルにとっては格好の買収候補となった。


インテルは、RISC-Vチップの設計者であるSiFiveに21億ドルのオファーを出したと噂されている。SiFiveはチップメーカーではなく、ArmのようにCPUを設計し、Armとは異なり柔軟性のあるライセンスをチップベンダーに販売している。

インテルのCEOであるパット・ゲルシンガーが先日発表した、「IDM 2.0構想」の一環として、自社のx86プロセッサ設計の他社へのライセンス供与を開始するという発表には驚かされたが、同社はさらに、新しいカスタムファウンドリー企業であるIntel Foundry Services(IFS)において、サードパーティのArm設計をファブリングすることに前向きであることを明らかにした。自社の設計だけでなく、顧客向けにRISC-VのCPUにも門戸を開くことになるという。

インテルは現在、自社の製造能力を高めるために多額の投資を行っている。そのためには、製造拠点に注文をもたらしてくれる顧客が必要だ。先月、SiFiveはインテルのファウンドリ事業との協業を発表していた。インテルは2018年、SiFiveに投資したことがあるが、その時点では想定していなかったシナリオを辿っているだろう。

SiFiveを買収することで、インテルは急速に拡大しているRISC-Vチップ市場に橋頭堡を得ることができる。現在、RISC-VのCPUを開発していることが知られている企業のほとんどは、低性能・低消費電力のシナリオで展開しているが、SiFiveは数年前からより高速なCPUの開発に取り組んでいる。

インテルは、RISC-Vとx86(CISCと呼ばれる命令セットの一種)を特定の市場において補完的なアーキテクチャと位置づけ、x86が伝統的にカバーしない低消費電力のマイクロコントローラや製品をRISC-Vが担当するようにしたいと考えているのかもしれない。インテルはかつてモバイルや組み込みの分野でArmに挑もうとしたが、失敗してあきらめた。インテルは、もしこの合併が実現すれば、NVIDIAと協力したくない、あるいは協力できないArmの顧客を吸い取ることに興味があるかもしれない。

SiFiveとは

SiFiveは、RISC-Vプロセッサコア、システムオンチップ、および関連技術の設計を行っている。例えば、Tenstorrent社はSiFive社のIPをAIチップに採用し、Samsung社は5GモデムにSiFive社のCPUコアを採用している。また、SiFiveは、HiFive Unmatchedや、BBCのDoctor Whoをテーマにした子供向けプログラミングキットに使用されているLearn Inventorボードなど、SiFiveのチップを搭載した独自のボードも製造している。

HiFive Unmatched via SiFive.

SiFiveは、2015年にカリフォルニア大学バークレー校の3人の研究者であるKrste Asanović、Yunsup Lee、およびAndrew Watermanによって設立された。この三人はDavid Patterson教授が所長を務めていたカリフォルニア大学バークレー校のParallel Computing LaboratoryでRISC-Vを開発したメンバーでもある。

SiFIveの設立者。Yunsup Lee (左), Krste Asanovic (中央), Andrew Waterman (右). Image Credit: SiFive.

RISC-Vが世界的に注目されているのは、RISC-Vが優れた新しいチップ技術であるからではなく、ソフトウェアが移植可能なフリーでオープンな共通規格であり、誰もがソフトウェアを実行するための独自のハードウェアを自由に開発できることにある。しかし、Linuxに触発された「自由な命令セット」を生み出しても、Armのようなチップの設計をライセンスする企業がない限りはRISC-Vの普及は現実的ではなかった。このため、三人は命令セットの設計と同時にチップ設計会社を作った。

現状、RISC-Vを採用した企業には、Armライセンスに伴うコストの削減と引き換えに、検証、物理設計、ソフトウェア開発の費用が生じている。SiFiveはこの顧客のコストをビジネス機会と捉え、顧客が必要とするシステムオンチップを設計し、個々のアプリケーションに適したCPUコアをサポートするビジネスユニットである「OpenFive」を開始している。

SiFiveは昨年、シリーズEラウンドで6,100万ドルを調達しており、推定5億ドルの評価を受けている。SiFiveは、Qualcomm、Western Digital、SK Hynixを支援者に持ち、インテルも小さいながらも株主の1人だ。

SiFive: RISC-Vチップの設計企業
RISC-Vコミュニティの牽引役

NVIDIAのArm買収と米中の対立

半導体業界の中には、NVIDIAがARMを買収する可能性があるため、チップ企業はRISC-Vへの投資を増やしている動きがある。新しいCPUアーキテクチャへの移行は、1〜3年前に下準備をしておく方がはるかに簡単だ。

業界では中立的な存在であるArmが、初めて単一のチップ企業の手に渡ることになる。NVIDIAはArmの中立モデルを維持すると両社が約束していたにもかかわらず、今週の発表から数時間のうちに、NVIDIAが価格を引き上げるのではないか、あるいはNVIDIAのライバル企業がArm技術を使用するのを難しくするのではないかという懸念がチップ業界に生じている。

NVIDIAのArm買収がRISC-V投資を加速する
米中対立下で魅力増すオープンソース戦略

最近の評価額が5億ドルに達したSiFiveは、複数の企業からの買収提案を検討していると報じられているが、それでも独立した企業であり続けることを選ぶかもしれない。SiFiveとRISC-Vへの関心の多くは、NVIDIAがArmを支配する事によって生じる落とし穴を避けようとする企業からのものだ。

もともと米国の圧力に直面していた中国企業にとって、Armの買収は深刻な事態だ。SiFiveが昨年、CEOとして迎え入れた、クアルコムの自動車部門を担当していた元幹部のPatrick Littleによると、半導体メーカーのトップ10社のうち6社がSiFiveと提携しているという。

Image by Intel.

📨ニュースレター登録とアカウント作成

ニュースレターの登録は記事の下部にある「Sign up for more like this」か右上の「Subscribe」ボタンをクリックし、登録画面で名前とメールアドレスを記入後、Freeプランから「Continue」に進んでください。記入したメールアドレスに「🔑 Secure sign in link for Axion デジタル経済メディア」という認証用のメールが届きます。その「Sign in to Axion デジタル経済メディア」をクリック頂きますと、登録が完了します。

Photo by Pawel Czerwinski on Unsplash

Special thanks to supporters !

Shogo Otani, 林祐輔, 鈴木卓也, Mayumi Nakamura, Kinoco, Masatoshi Yokota, Yohei Onishi, Tomochika Hara, 秋元 善次, Satoshi Takeda, Ken Manabe, Yasuhiro Hatabe, 4383, lostworld, ogawaa1218, txpyr12, shimon8470, tokyo_h, kkawakami, nakamatchy, wslash, TS, ikebukurou 太郎, bantou, shota0404, Sarah_investing, Sotaro Kimura, TAMAKI Yoshihito, kanikanaa, La2019, magnettyy, kttshnd, satoshihirose, Tale of orca.

寄付サブスク (吉田を助けろ)

吉田を助けろ(Save the Yoshi!)。運営者の吉田は2年間無休、現在も月8万円の報酬のみでAxionを運営しています。

月10ドル支援したいと考えた人は右上の「Subscribe」のボタンからMonthly 10ドルかYearly 100ドルご支援ください。あるいは、こちらからでも申し込めます。こちらは数量が99個まで設定できるので、大金を助けたい人におすすめです。

その他のサポート

こちらからコーヒー代の支援も可能です。推奨はこちらのStripe Linkです。こちらではない場合は以下からサポートください。

デジタル経済メディアAxionを支援しよう
Axionはテクノロジー×経済の最先端情報を提供する次世代メディアです。経験豊富なプロによる徹底的な調査と分析によって信頼度の高い情報を提供しています。投資家、金融業界人、スタートアップ関係者、テクノロジー企業にお勤めの方、政策立案者が主要読者。運営の持続可能性を担保するため支援を募っています。
Takushi Yoshida is creating writing/journalism | Patreon
Become a patron of Takushi Yoshida today: Get access to exclusive content and experiences on the world’s largest membership platform for artists and creators.

投げ銭

Betalen Yoshida Takushi met PayPal.Me
Ga naar paypal.me/axionyoshi en voer het bedrag in. En met PayPal weet je zeker dat het gemakkelijk en veiliger is. Heb je geen PayPal-rekening? Geen probleem.

Read more

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

Google Cloudが9月25日に開催した記者説明会では、イオンリテール株式会社がCloud Runを活用し顧客生涯価値(LTV)向上を目指したデータ分析基盤を内製化した事例を紹介。従業員1,000人以上がデータ分析を行う体制を目指し、BIツールによる販促効果分析、生成AIによる会話分析、リテールメディア活用などの取り組みを進めている。

By 吉田拓史
Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Google Cloudは、年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」で、大規模言語モデル「Gemini」を活用したAIエージェントの取り組みを多数発表した。Geminiは、コーディング支援、データ分析、アプリケーション開発など、様々な分野で活用され、業務効率化や新たな価値創出に貢献することが期待されている。

By 吉田拓史