太陽光発電と蓄電池のコストが過去10年で約90%下落
太陽光発電とその変動的な電力を貯める蓄電池のコストは急速に減少してきた。化石燃料を追い抜くシナリオは現実味を増しており、エネルギーの主役の座を伺っている。
太陽光発電とその変動的な電力を貯める蓄電池のコストは急速に減少してきた。化石燃料を追い抜くシナリオは現実味を増しており、エネルギーの主役の座を伺っている。
ベルリンを拠点とする気候研究機関、グローバルコモンズと気候変動に関するメルカトル研究所(MCC)は、過去10年間で太陽光発電のコストは87%、蓄電池のコストは85%下がったという新しい研究結果を発表した。世界的なエネルギー転換が、これまで予想されていたよりも経済的に実現可能であることを示唆している。
この大幅なコスト削減は、技術の進歩、生産量の増加、規模の経済によるものだ。ソーラーパネルは、各国の政府補助金や優遇措置によって、より利用しやすく、効率的で、費用対効果の高いものとなっている。さらに、電気自動車(EV)の普及と生産能力の向上によるバッテリー技術の進歩は、エネルギー密度の向上と電池の寿命延長につながり、コスト競争力を高めている。これらの技術を電力網(電気系統)に統合することで、バックアップ電源、負荷バランシング、ピークカットなど、さらなる利点がもたらされ、経済性がさらに向上し、継続的な価格引き下げに貢献する。
チームが採用した複数のシナリオを想定したモデルは、予見可能な将来において、世界的な気候変動への移行がこれまで想定されていたほど高価なものではなく、最終的に取り組まれるのであれば、コスト削減につながる可能性さえあることを示す、と論文には書かれている。
IEAモデル
太陽光発電は、再生可能エネルギーの中で随一の成長を遂げている分野だ。IEAは昨年、太陽光発電の設備容量は2027年までに石炭を上回り、世界最大になると予測した。太陽光発電の発電容量は、ほぼ3倍となり、約150万kW増加し、2026年には天然ガスを、2027年には石炭を上回る。太陽光発電の年間設備容量は今後5年間、毎年増加するとIEAはみている。
IEAは、2020年の段階で、ほとんどの主要国で、太陽光発電は石炭やガスよりも安い「史上最も安い電力」であると断定していた。
太陽光は、蓄電池と組み合わせれば、世界の特定の地域ではガスや石炭よりも安価な選択肢となることも証明されている。オーストラリアでは、業界団体Australian Clean Energy Council(オーストラリア・クリーン・エネルギー協議会)が、ピーク需要期にはソーラーパネルと蓄電池の組み合わせはガス発電所より30%安いと主張している。
インドでは、太陽光発電で電気を作り、それを蓄電池に貯めて需要の多い時間帯に使用するコストは、既存の石炭発電所よりも低い。
一方、太陽光発電パネルは、現状のシリコン系がイノベーションの壁に当たりつつあり、次世代製品を探る段階に来ている。
極めて有望な浮体式太陽光発電
太陽光発電の優位性はより強化される余地がある。浮体式だ。浮体式太陽光発電(FPV)は全世界で急速に成長し、貯水池への設置で火力発電の多くを置き換える可能性がある。
FPVを世界の水力発電貯水池のわずか10%に設置すれば、世界中で稼働している化石燃料発電所と同程度の電力を生産できる可能性がある、とコーネル大学天然資源環境学部准教授のPeter B. McIntyreらは科学誌「Nature」への記事(2022年)で記述している。
科学誌「Nature Sustainability」で2023年3月に発表された南方科技大学環境科学与工程学院准教授であるZhenzhong Zengらの国際チームの研究によると、ソーラーパネルで世界に存在する約11万5,000カ所の貯水池の表面の30%を覆うことにより、毎年9,434テラワット時の電力が生成できるとされている。
また、「洋上」のFPVの機会が、赤道直下のインドネシアと西アフリカに残されている。オーストラリア国立大学工学部教授Andrew Blakersらの研究によれば、インドネシアだけでも年間約35,000テラワット時(TWh)の太陽光発電が可能であり、これは現在の世界の電力生産量(年間30,000TWh)に匹敵する。インドネシアの海域面積は640万平方キロメートルで、これはインドネシアの将来のエネルギー需要全体をFPVで賄う場合に必要な面積の200倍に相当するという。
蓄電池は安くなり続ける
米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)のWesley ColeとAkash Karmakarの分析では、蓄電池のコストは、2030年には1キロワット時あたり245ドル(245ドル/kWh)、326ドル/kWh、403ドル/kWhの3シナリオを想定。2050年には159ドル/kWh、226ドル/kWh、348ドル/kWhの3シナリオになると予測した(下図)。
短期的には、総資本コストの増加を示す予測もあれば、大幅な減少を示す予測もあり、2025年までに-3%(マイナスはコスト増の意)から36%のコスト削減が見込まれている。2030年までに16~49%、2050年までに28~67%の削減となると研究者らは予想した。
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参考文献
- Creutzig, F., Müller-Hansen, F., Hilaire, J., Minx, J., Nemet, G., 2023, Technological innovation enables low cost climate change mitigation, Energy Research & Social Science
- Wesley Cole, Akash Karmakar. Cost Projections for Utility-Scale Battery Storage: 2023 Update. National Renewable Energy Laboratory(2023). https://www.nrel.gov/docs/fy23osti/85332.pdf