米国、対中「半導体攻め」の新たな策を発動[吉田拓史]

米国による中国を世界の半導体サプライチェーンから切り離す動きは、新たな装置の輸出規制とAIチップの供給停止によって、さらに中国を過酷な立場に追いやることになりそうだ。

米国、対中「半導体攻め」の新たな策を発動[吉田拓史]
フェルドホーフェンのASML工場でASML Twinscan XT1000リソグラフィマシンを組み立てる従業員。Jasper Juinen/Bloomberg

米国による中国を世界の半導体サプライチェーンから切り離す動きは、新たな装置の輸出規制とAIチップの供給停止によって、さらに中国を過酷な立場に追いやることになりそうだ。


オランダ政府、ASMLへの新たな輸出規制

オランダ政府は先週末、先端半導体装置の輸出規制に関する新たな規制を発表した。その結果、オランダの半導体企業であるASMLは、一部の先進的な深紫外線露光装置(DUV)を出荷するための輸出許可を求めなければならなくなる。その後、オランダ政府がこれらのライセンスを許可するか否かを決定する。新規制は2023年9月1日に発効する。

ASMLは、この規制が2023年以降の財務見通しに大きな影響を与えることはないと予想している。新しい規制は主に「TWINSCAN NXT:2000i」というモデルとそれ以降のモデルに適用され、ASMLの他のシステムは影響を受けない。

ブルームバーグが以前報じたところによると、この措置は中国やASMLについて特に言及していないものの、ASMLの3機種のアジア諸国への出荷を制限するためのものだという。ASMLはすでに、同社の最先端技術、いわゆる極端紫外線(EUV)リソグラフィーを中国企業に販売することを禁じられている。

オランダ政府の態度は、米国、日本との三者間での半導体装置の輸出に関する合意に基づいたものだ。実際には、合意事項に米国の意向が強く滲んでいるように見える。

米国はASMLに対し、中国の半導体製造業者SMICが運営する工場を含む中国国内の約6つのチップ工場へのDUV装置の出荷台数を減らすよう強制する計画だと、ロイターは先週木曜日、この件に詳しい人物の話として報じた

NVIDIAにもさらなる規制強化が取り沙汰される

ウォール・ストリート・ジャーナルフィナンシャル・タイムズなど複数のメディアが6月下旬に報じたところによると、米政府は10月に発表した、中国へのAIチップの一部販売を制限する輸出規制を強化する予定だという。バイデン政権によって導入されたこれらの輸出規制は、中国企業が先端チップやチップ製造装置を購入する前にライセンスを取得することを義務付けている。

NVIDIAは現在、通常の製品から性能を落とした「中国版」のA800とH800を生産することで、輸出規制に対応している。中国国内では、AI開発を目論む無数の企業の間で、元の性能のA100とH100の争奪戦が起きている。

中国でもNVIDIAのAIチップ争奪戦が深刻化
中国企業の間でもNVIDIAのAIチップの争奪戦が起きている。新規発注は、米政府の輸出規制でダウングレード版に限定されるが、需要は留まるところを知らないようだ。

しかし、さらなる規制強化があった場合、A800とH800の出荷もままならなくなる。中国国内では、深センに闇市が立っているとロイターが報じており、規制によって、非正規の経路が確立していく可能性もある。

NVIDIAのコレット・クレス最高財務責任者(CFO)は、米国が中国へのAIチップの輸出規制を強化する可能性があり、米国の産業にとって「永久的な機会損失」につながる可能性があると警告

中国にはNVIDIAを模倣する新興企業が立ち上がっており、米半導体大手NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアンは米国の半導体輸出規制が、中国の地場半導体企業に利していると訴えたことがある。

米国の輸出規制が「中国版NVIDIA」を育てている?
米半導体大手NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアンは米国の半導体輸出規制が、中国の地場半導体企業に利していると訴えた。中国では、莫大な補助金と海外投資マネーによって、NVIDIAの対抗馬たちが育っている。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

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