米国の輸出規制が「中国版NVIDIA」を育てている?

米半導体大手NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアンは米国の半導体輸出規制が、中国の地場半導体企業に利していると訴えた。中国では、莫大な補助金と海外投資マネーによって、NVIDIAの対抗馬たちが育っている。

米国の輸出規制が「中国版NVIDIA」を育てている?
「壁仞科技(Biren Technology)」のGPU「BR100」。出典:壁仞科技

米半導体大手NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアンは米国の半導体輸出規制が、中国の地場半導体企業に利していると訴えた。中国では、莫大な補助金と海外投資マネーによって、NVIDIAの対抗馬たちが育っている。


フアンは、半導体をめぐるワシントンと北京の対立が激化した結果、米国のハイテク産業に「甚大な損害」をもたらす可能性があると警告した(英フィナンシャル・タイムズのインタビュー)。

フアンは、中国の半導体製造を減速させることを目的とした米国の輸出規制が、NVIDIAにとって重要な市場である中国での先端チップの販売を抑制していると主張した。同時に、中国企業はNVIDIAの製品に対抗するため、独自のチップを作り始めていることに危機感を示している。

同社は、米国がAIに使用される技術の輸出規制を実施した8月以降、同社のAI向け最先端チップであるH100およびA100シリーズを中国の顧客に販売することを禁じられている。同社は、中国で販売される製品の性能を制限する米国の規則に準拠するため、一部のチップの設計を変更しなければならなかった。

中国テクノロジーメディア、快科技によると、輸出規制に対応し中国市場向けに作られたA800は、処理能力を制限する厳しい米国の輸出基準に準拠し、A100 GPUの70%の速度で動作するとされた。A800の需給は逼迫し、価格は高騰しているという。

NVIDIAのA800は、中国の対抗馬の「壁仞科技(Biren Technology)」のGPU「BR104」および「BR100」と競争を迫られている。Birenの昨夏の発表によると、同社のチップはいずれもTSMCの7nmクラスの製造プロセスで作られている(N7、N7+、N7Pのいずれを使用しているかは詳しく説明されていない)。大型のBR100は770億個のトランジスタを搭載しており、同じくTSMCのN7ノードの1つを使用しているNVIDIA A100の542億個を上回っている、とされる。

「Nvidia A100と比較すると、現段階では、コンピュータビジョン、自然言語処理、会話型AIなど、さまざまな領域の幅広いベンチマークで平均2.6倍のスピードアップが見られます」とBirenの共同創業者兼社長のリンジェイ・シューは主張した、とテクノロジーメディアHPC Japanは昨年8月に報じている。

壁仞科技(Biren Technology)が主張するBR100の性能。出展:壁仞科技
壁仞科技(Biren Technology)が主張するBR100の性能。出展:壁仞科技

BR100を製品化するために、Birenは浪潮集团(Inspur)と共同AIサーバーを開発しており、百度やチャイナ・モバイルは、BirenのGPUを使用する最初の顧客になる予定だ。

米国によるチップ規制の影響で、多くの中国のGPUスタートアップが米国企業が提供できなくなった市場の隙間を埋める機会を見つけた。大抵、これらの企業は2つの経路を選択する。それは、一般的なパラレル処理向けのGPGPU、または画像レンダリングに特化したGPUである。Birenは、Denglin Technology、MetaX、Iluvatar CoreXなどの企業とともに、GPGPU開発を選択した。

データセンター向け製品は、すでに従来の画像レンダリング向けのGPUを凌駕する勢いで市場に出回っている。NVIDIAの最新の財務報告によると、 2023年度第1四半期以降、データセンター部門の売上高はゲーム部門を凌駕し、直近2023年度Q4では、2倍まで差は開いている(ゲーム部門は調整に直面している)。また、NVIDIAは多くの場面で自らを「AI企業」と呼ぶことが多くなっている。

中国のライバル

2000年代半ばの競合他社の凋落以降、PC用ディスクリートGPUの分野では、AMDとNVIDIAに対抗できる企業は存在しなかった。しかし、データセンター、マイニング、ゲーム用GPUの台頭に伴い、2強に対抗する数多くのライバルが中国から現れている。

中華GPU、雨後の筍
2000年代半ばの競合他社の凋落以降、PC用ディスクリートGPUの分野では、AMDとNVIDIAに対抗できる企業は存在しなかった。しかし、データセンター、マイニング、ゲーム用GPUの台頭に伴い、2強に対抗する数多くのライバルが中国から現れている。

これらの新進気鋭の半導体企業は世界中から投資マネーを集めている。ニューヨークに拠点を置く調査会社ロジウム・グループのデータの分析によると、米国のベンチャーキャピタル(VC)、チップ業界の大手企業、その他の個人投資家は、2017年から2020年までに中国の半導体業界で58件の投資取引に参加しており、その数は過去4年間の2倍以上に上っている。

米国の企業とVC、中国半導体スタートアップに多額の投資
中国で雨後の筍のように生まれる半導体設計企業に米系の企業とVCが大量の資金を供給している。国家間はいがみ合うものの、資本と技術は国境をまたいでいる

また、国家IC産業投資基金(通称ビッグファンド)もまた、産業政策の柱として大きな役割を果たした(類まれな規模の汚職事件をも引き起こしたが)。

米国による中国企業への制裁は、国内調達以外の選択肢が狭まることで、彼ら自身のエコシステムを築くインセンティブを生み出している側面もある。

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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