日本版ライドシェア構想は時代遅れにもほどがある
日本版ライドシェア構想が与党の一部グループから立ち上がっているようだ。米中がロボタクシー、自律走行車という次のフェイズで戦うさなか、悲しいことに日本は、輝きを失ったひと世代前のトレンドに執心している。
日本版ライドシェア構想が与党の一部グループから立ち上がっているようだ。米中がロボタクシー、自律走行車という次のフェイズで戦うさなか、悲しいことに日本は、輝きを失ったひと世代前のトレンドに執心している。
神奈川県の黒岩祐治知事は、フジテレビのテレビ番組で、一般ドライバーが自家用車で客を有償で運ぶライドシェアの日本版について構想を発表した。
この構想では、タクシー会社が一般ドライバーの運行を管理し、時間帯や地域を限定してライドシェアを導入するというもの。黒岩は「日本型のライドシェアを神奈川から始めたい」と言った。この取り組みは、観光客対策として考えられており、黒岩は県内での導入に向けて検討を指示した。具体的には、ライドシェアの導入はタクシーの需要が多い時間帯やエリアに限定し、タクシー会社には運行管理、ドライバーの認定、車両の安全確認、そして研修の実施などを任せる予定という。
この番組は非常に意図された構成になっていた。橋下徹前大阪府知事が出演し、フジテレビのキャスター出身の黒岩の構想に対して、合いの手を入れている。
この前段には、横浜を地元とする大物政治家の一声があった。自民党の菅義偉前首相は9月7日、ライドシェアの解禁について「結論を先送りすべきでない。早急な対応が必要だ」と発言していた。
7,8年遅れた議論が鎖国国家でフラッシュバック
ライドシェアが最も輝いていたのは、2010年代の後半だった。Uberとその対抗馬が各国で熾烈な競争を繰り広げ、そこにサウジアラビアなどから資金を集めた、ソフトバンクグループ(SBG)のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)が、絨毯爆撃的に膨大なベンチャー投資を行った。この勢いは、コロナの大流行によって退潮した。
Uberは最近黒字化したが、それまでに315億ドル(4兆6,600億円)の累積損失を計上した。中国の滴滴出行は、政府の制止を振り切って米株式市場に上場した結果、当局の調査を受け、上場廃止に追い込まれた。このようなライドシェア新興企業に行われたSVFの投資は思わしくなく、滴滴出行に投じられた121億ドルは、死蔵しかねない状況にある。SBGは救出方法を探しているだろう。
問題は、ライドシェアはすでに輝きを失い、時代の徒花になっていることだ。2つの要因が挙げられるだろう。1つは、ロボタクシーという次世代製品が普及の初期にあることだ。もう1つは、ライドシェアが実は労働集約的産業であることだ。
まず、ロボタクシーについては米中の競争が佳境を迎えている。米国では、ゼネラルモーターズ(GM)傘下のCruiseとアルファベット傘下のWaymoの2社が米国の各州で、商業運行の範囲を広げつつある。サンフランシスコでは、感情的な反発とも言える「ネオ・ラッダイト運動」にさらされているが、これは普及の初期のシグナルとも言えるだろう。
次に、ライドシェアの労働集約性を説明するのは、米国ではその運営が低技能の移民に依存していることに依るだろう。Uber自体は、人件費や車両の所有とメンテナンスに伴うコストを外部化しているが、外部化された個人請負者はより高いリスクと低い報酬で働くことになる。カルフォルニア大学バークリー校のジェームズ・パロット教授とマイケル・ライヒ教授は、「ギグワーカー」と形容される個人請負者が、最賃以下で働いていることを示唆する研究を発表した。
ムダなことに資源を割くな
技術的にすでに輝きを失い、なおかつ生産性の低いギグワーカー職を生み出しうるビジネスを、政治家がわざわざメディアを焚き付けて日本に導入するメリットはないだろう。急速な少子高齢化にさらされる日本では、1人の労働力も著しく効率性が低いライドシェア労働に当てることが許されないはずだ。