政府のコンサル依存、脱却論が台頭―組織が衰え、利益相反の恐れも
各国政府のコンサル依存の脱却を求める声が高まっている。外注に依存する余り、専門知識を蓄積しなくなり、組織の衰えがみられる。世界中のあらゆる会社・機構と結びついているコンサルの潜在的な利益相反も無視しがたい。
各国政府のコンサル依存の脱却を求める声が高まっている。外注に依存する余り、専門知識を蓄積しなくなり、組織の衰えがみられる。世界中のあらゆる会社・機構と結びついているコンサルの潜在的な利益相反も無視しがたい。
マッキンゼーの評判を損ねた米国の薬物乱用危機で、同社が陰ながら手を付けた新たな不品行が見つかった。3月初旬に公開された文書によると、マッキンゼーはパーデュー・ファーマやエンドなどの企業に、顧客でもある退役軍人会に医療用麻薬「オピオイド」入り鎮痛剤を販売する方法を助言していたことが判明した。マッキンゼーは「ある顧客に対して麻薬を売ることで、麻薬の製造元である別の顧客を支援する」という利益相反を否定している。
オピオイド危機は凄惨を極めている。米国におけるオピオイドが関連する薬物過剰摂取による死亡は、1999年の3,442件から2017年の17,029件に増加し、以降同水準をたどっている。大統領経済諮問委員会の報告書は、オピオイド危機が2015年に米国経済に与えた費用を540億ドル(国内総生産の2.8%)と推定された。
この渦中で、オピオイドの販売促進を助言していたマッキンゼーは、2021年に「致命的な麻薬」の蔓延に関与したとして、米国の49の州と 6億ドル近くを支払うことに合意していた。
経営コンサルティングは、世界で最も成功している産業の1つ。2021年の世界市場規模は、7,000億ドル近くから9,000億ドル以上と推定されている。
経営コンサルティングのピラミッドの頂点にいるマッキンゼーは、その表層的なイメージとは裏腹に、しばしば陰惨なエピソードの中心的存在となってきた。昨年10月に出版された暴露本『When McKinsey Comes to Town(マッキンゼーが街にやってきたとき)』は、ニューヨーク・タイムズのWalt BogdanichとMichael Forsytheが、最大手マッキンゼーの数十年にわたる不名誉な功績を痛烈に告発した。米テレビネットワークShowtimeは、この業界を題材にしたコメディドラマ「House of Lies」を制作している。
利益相反も指摘されてきた。マッキンゼーがアメリカ政府のために64の契約を遂行していた2016年、同社はサウジアラビアで137のプロジェクトを行っていた。モハメド・ビン・サルマン皇太子が率いる政府の中で、マッキンゼーのコンサルタントは政府高官の役割を担うようになり、経済計画省は「マッキンゼー省」という皮肉なあだ名で呼ばれるようになった。
マッキンゼーにとって米国の敵国との仕事は当たり前のものだ。ロシアでは、兵器メーカーのロステックに助言した。中国では、南シナ海に人工島を建設する政府系エンジニアリング企業であるチャイナ・コミュニケーションズに助言。
サウジアラビア政府の依頼で、マッキンゼーはサウジ国民の「センチメント分析」に取り組んだと記している。マッキンゼーの報告書は、サウジアラビアの反体制派3人がTwitterで政権を批判する著名な人物であることを明らかにした。1人は逮捕された。もう1人はツイッターから姿を消した。3人目のオマル・アブドゥルアジズは、携帯電話をハッキングされ、同じサウジの反体制派で米国在住のジャマル・カショギ(後に殺害。CIAはサルマン皇太子の命を受けた工作員がカショギの体はのこぎりでバラバラにしたと認めている)とのコミュニケーションが危険にさらされた。
南アフリカでは、マッキンゼーは、ジェイコブ・ズマ前大統領の政権時代に国営貨物鉄道独占企業トランスネットの汚職に関与した疑いで多数の刑事責任を問われている。この容疑は、2012年に行われた貨物用機関車購入のための30億ドルの入札に関連するものだ。
コンサル依存の症例:英国政府
英国政府は「コンサル依存症」の典型例である。データプロバイダーのTussellによると、英国の公共部門は2022年に28億ポンド相当のコンサルティング契約を締結した。この数字は、コロナ対応の一環として調達が急増する前の最終年である2019年に締結された16億ポンドの契約よりも75%多い。2016年の契約締結は7億ポンドと低かった。
特にコロナ関連でコンサル中毒が加速した。英国政府の「Operation Moonshot」プログラムは、英国全人口を毎週検査することを目的に、1,000億円以上の費用をかけて2021年初頭までに1日あたり最大1,000万件の抗原検査を実施する計画だった。
このプログラムは、コンサル会社16社が6億ポンド(約970億円)が受注した。娯楽施設や学校など様々な場所での検査の実施や、デジタル免疫パスポートの発行を求める施策がうたれたものの、専門家からは、検査の信頼性や正確性、民間企業との契約、偽陽性による経済的ダメージなどに関する懸念の声が上がっており、代わりに、地域の国民保健サービス(NHS)に投資してプログラムを実施することを提案する声も出ている。
依存は根が深いようだ。英ガーディアンが最近明らかにしたところによると、英国の閣僚はコンサルタントへの支出に関する規制をひそかに撤廃し、デロイト、マッキンゼー、ボストン・コンサルティング・グループなどとの契約が9ヶ月以上続く場合、または60万ポンドを超える場合は中央の承認が必要という規制を撤廃した。
英国政府は1月、外部のコンサルティング会社への依存度を下げるために設立された社内コンサル部門を、非効率であるとの懸念から閉鎖した。同部隊はピーク時には60人の人員を擁していたが、最近は40人にまで減少していた。
経済学者でユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のIIPP(イノベーション・公共目的研究所)創設所長であるマリアナ・マッツカートとIIPP所属の博士候補ロジー・コリントンは最近、コンサル企業への依存がもたらす悪影響を論じた書籍『The Big Con』(Penguin Press, 2023 )を上梓した。
マッツカートらは出版に際した大手メディアへの寄稿で「コンサルティング業界のビジネスモデルは抽出的であり、現代資本主義のより深い構造的問題に寄与している」と主張した。大手コンサルティング会社は、民営化、アウトソーシング、緊縮財政などから利益を得ている、と彼女らは指摘する。政府は、自分たちの権限で行うべき領域についてコンサルタントを雇うことが多く、このような慣行は内部のスキルや知識の発展を妨げている、という。
政府は、国家の能力に投資し、公共目的を公共部門に戻し、コストのかかるコンサルティング業界の仲介を減らす必要がある、とマッツカートらは書いている。
ヘルシンキ大学のMatti Ylönen博士らの研究によると、フィンランドの公共部門におけるコンサルタントの利用は、特に過去10年間で大幅に増加したが、この増加は、政府職員の数が減少し、コンサルタントへの委託にシフトにしたことによる。「コンサルタント業は、公務員や政治家の仕事をアウトソーシングされた専門家の知識に置き換えることが多くなり、民主的なガバナンスと説明責任の弱体化につながっている」とYlönenらは結論づけている。
参考文献
Ylonen, M., & Kuusela, H. (2019). Consultocracy and its discontents: A critical typology and a call for a research agenda. Governance, 32(2), 241-258. https://doi.org/10.1111/gove.12369