暴露本がマッキンゼーの「高潔なイメージ」を揺るがす

ニューヨーク・タイムズのジャーナリストが出版したマッキンゼーの暴露本が話題だ。世界的に急成長している同社は、近年、世界中で様々なスキャンダルにさらされ、高潔なイメージが揺らいでいる。

暴露本がマッキンゼーの「高潔なイメージ」を揺るがす
2021年11月17日(水)、シンガポールで開催されたブルームバーグ新経済フォーラムで講演するマッキンゼー・アンド・カンパニーのグローバル・マネージング・パートナー、ボブ・スターンフェルス。Photographer: Bryan van der Beek/Bloomberg

ニューヨーク・タイムズのジャーナリストが出版したマッキンゼーの暴露本が話題だ。世界的に急成長している同社は、近年、世界中で様々なスキャンダルにさらされ、高潔なイメージが揺らいでいる。


マッキンゼー・アンド・カンパニーは、世界60カ国以上で事業を展開し、3万人以上の従業員を擁するコンサルティング会社である。世界60カ国に展開し、30,000人以上の従業員を抱える同社は、利益だけでなく、世界中の地域社会にも配慮した価値観のある企業であることをアピールしている。日本の国際競争力の低迷とともに有望な就職先を失いつつある日本のエリート大学の卒業生の主要な就職先の一つでもある。

マッキンゼーの公式声明を見ると、非常に環境に配慮した企業であるという印象を受ける。社内ではカーボンニュートラルを目指しており、移動の多いコンサルタントが飛行機で移動する際に排出する炭素をオフセット(相殺)しているとされる。

しかし、10月5日に出版されたマッキンゼーに関する暴露本『When McKinsey Comes to Town』はその高潔を謳う同社の内幕を露出し、評判をひどく傷つけるものである。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)のジャーナリスト、ウォルト・ボグダニッチとマイケル・フォーサイスは新著で、同社が倫理的に問題のある仕事に従事してきた歴史があることを訴えている。タバコやオピオイドの販売促進支援から、サウジアラビアやロシアなどの権威主義政権との協力に至るまで、だ。

マッキンゼーの南アフリカのパートナーたちは、大規模な汚職スキャンダルに巻き込まれ、国営鉄道貨物専売公社からの略奪に関連する告発に直面している。また、サウジアラビアの反体制派の意見を紹介するレポートを作成したところ、その反体制派から自分の家族を標的にしたと提訴された。

マッキンゼーの一連のスキャンダルの中で出色なのは、オピオイド危機への加担であろう。

2017年、アメリカではオピオイド関連の過剰摂取で推定4万7,000人が死亡した年に、マッキンゼーは製薬会社パデュー・ファーマに、過剰摂取した医薬品販売会社に「リベート」を提供することを検討するよう提案した。著者らは、マッキンゼーがと協力してオピオイドを含む鎮痛剤「オキシコンチン」の売上を伸ばしたのは、2013年のことだと指摘する。「オキシコンチンの危険性とその中毒性が広く知られるようになってからだ。... それなのに、マッキンゼーはすぐに乗り込んできた」とフォーサイスは米国公共ラジオ放送(NPR)に対し、語っている。

マッキンゼーは米国に危機を及ぼしている「麻薬」の販売促進のため獅子奮迅の働きをした。パーデューの営業部隊と連携し、どの医師がオキシコンチンを大量に処方しやすいかという情報を入手し、その医師をターゲットにした営業プログラムを開発した。マッキンゼーは、大量のデータを抽出し、中毒性のある薬の売上を伸ばすために、医師などの人々をターゲットにする方法を見つけるために、その賢さと能力を発揮したのだ。

マッキンゼーが「麻薬」の及ぼす害悪を自覚していたのは明らかである。マッキンゼーは傘下にオピオインド関連ビジネスを抱えていたジョンソン・エンド・ジョンソンのために、「麻薬フランチャイズの価値を最大化する」というタイトルのプロジェクトを監督している。マッキンゼーの2017年のプレゼンテーションでは、ドラッグストアの顧客のうち、どれだけ多くの顧客が過剰摂取や使用障害を発症する可能性があるかを予測していた。

オピオイド危機の中心でマッキンゼーが果たした役割
コンサルティング会社のマッキンゼーは、ケシ畑のマネジメントからオピオイドの営業・マーケティングまで「麻薬に関する深い経験」をクライアントに提供する一方で、規制当局に対してオピオイド乱用取り締まりの助言もしていた。

本書で引用されている最も激しい批判者の中には、マッキンゼーの社員もいる。従業員たちは、全員参加の会議において、あるいは会社全体に送られる退社メールにおいて、問題のあるクライアントと仕事をする経営陣を罵倒するというのだ。

マッキンゼーは、アイビーリーグでMBAを取得したエリートや、学部卒の学生に対して、非常に強いアピールをしている。しかし、ハーバード、エール、スタンフォードなどでずっと成績優秀で、クラスのトップに君臨してきた人たちは「現場で起きていることを目の当たりにすると、幻滅してしまう」とボグダニッチは指摘している。

マッキンゼーは法律事務所のような組織で、世界中に散らばる独立したパートナーたちが、基本的に領地を運営している。その中には、外向けに語られているような物語と相反するような倫理的規範を逸脱したプロジェクトが紛れ込んでいるのかもしれない。

マッキンゼーとその仲間たちはかつてなく強力になっている
コンサルタント志望者は、良かれ悪しかれ、さまざまな不祥事は過去の悪い行いの孤立した例であり、新たな安全策が講じられれば再発を防げると考えているのかもしれない。いずれにせよ、世界のチーフ・エグゼクティブは、耳元でささやく声がすぐに小さくなってしまうことを心配する必要はないだろう。

When McKinsey Comes To Town: The Hidden Influence of the World’s Most Powerful Consulting Firm by Walt Bogdanich and Michael Forsythe

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