テスラ、過去最高利益の衝撃: 止まらない生産能力増強と多様化する収益源

テスラは第1四半期の利益が過去最高に到達し、他の追随を許さない。同社はソフトウェアやロボタクシーという次のビジネスの柱にも言及し、充電ネットワークやリチウムの確保など優位性を確実にする戦略も示した。無敵のムードを帯びている。

テスラ、過去最高利益の衝撃: 止まらない生産能力増強と多様化する収益源
Photo by Manny Becerra on Unsplash

テスラは第1四半期の利益が過去最高に到達し、他の追随を許さない。同社はソフトウェアやロボタクシーという次のビジネスの柱にも言及し、充電ネットワークやリチウムの確保など優位性を確実にする戦略も示した。無敵のムードを帯びている。

イーロン・マスク最高経営責任者が、サプライチェーンのボトルネックや中国での混乱にもかかわらず、今年の自動車生産を予想以上に高めることができると述べた。

テスラは第1四半期に世界で約31万台の車両を納入し、前年同期の18万4877台、第4四半期の30万8650台から増加した。マスクは20日の電話会議で、テスラは2022年に150万台以上の自動車を生産する可能性があり、昨年より60%程度増加すると述べた。同社の長期目標は、年間平均50%の車両納入台数の増加だ。中国での生産は力強く回復するだろう、と同は述べた。

今年1~3月の売上高が前年同期比約80%増の187億6,000万ドルに達し、33億2,000万ドルという過去最高の利益を生み出したと報告した。これは、直前の四半期に記録した過去最高の23億ドルを上回るもの。この結果、売上、利益ともにウォール街の予想を上回った。

しかし、自動車メーカーに共通するサプライチェーンのボトルネックはテスラにも打撃を与えている。主な原因で、2022年いっぱいまで工場の稼働率が低迷し続ける可能性が高いとマスクは語っている。上海地域のメーカーは、中国の渡航制限によりトラックの進入が困難なため、部品の配送に苦労しているとアナリストは指摘している。

しかし、マスクは、ベルリンとオースティンの新工場が急加速すれば、ボトルネックを克服して「今年中に150万台以上」を生産できるだろうと予測している。これは、多くのアナリストが予想しているよりも高い数字だ。

テスラの利益の隠し味のひとつは、カーボンクレジットの販売だ。同社は排ガス関連規制を遵守するためにクレジットを必要とするライバル自動車メーカーにクレジットを販売している。このような売上は、一時的な利益も手伝って、第1四半期に6億7,900万ドルをもたらし、前年同期の5億1,800万ドルを上回った。クレジット販売は長い間、テスラの収益に欠かせないものだったが、最近の四半期では減少している。同社は、クレジット販売への依存度を下げると述べている。

WSJが引用したバーンスタイン・リサーチの分析によると、テスラは自動車の価格を引き上げており、おそらくオースティン近郊のギガテキサスなどの新工場で生産能力を増強するためのコストを相殺するのに役立っているという。一方、顧客の待機時間は延びている。3月時点で、米国の購入者はテスラの最も人気のあるモデルの1つである新しい長距離モデルYコンパクトスポーツユーティリティ車をおよそ8カ月待つことが予想される。同社によると、国内での納品までのリードタイムは歴史的に2~8週間程度となっていた。

その調査によると、モデルYのある構成コストは3月までの1年間で30%跳ね上がった。中国での価格上昇はそれほど極端ではなく、モデルによって同期間で5%から11%の範囲に収まっている。

マスクは、サプライヤーが昨年よりも20%から30%高い部品代を要求しているケースもあると指摘している。「公式の数字は、実際にはインフレの本当の大きさを控えめにしていると思います」とマスクは語った。テスラは最近、ドイツとテキサスの新工場で製造された最初のモデルYを納車した。マスクは、生産を現地化することが長期的にテスラの経済性を向上させると述べている。

上海の復活

テスラの上海工場は3月に数日間、現地の規則に基づいて閉鎖されたが、工場はその後、生産を再開し始めたという。テスラは労働時間を増やして、3月28日の工場閉鎖以来、生産できなかった約4万台の車を取り戻そうとしている。

その具体的な手法は衝撃的だ。ブルームバーグが社内のメモを引用して報じたところによると、従業員は工場に住み込みで働き、衣食住を施設内で済ませている。上海市の現在のゼロコロナ政策に基づいて、今週初めに最初の「シフト」が入り、5月1日まで滞在する予定だ。各労働者には寝袋とマットレスが提供され、睡眠、シャワー、食事、リラックスするための指定されたエリアが用意されるとのこと。各従業員は1日3食の無料食事と約400元(63ドル)の日当を受け取ることになる。2回のワクチン接種を受けた労働者のみが工場に入ることができ、戻ってからの3日間は毎日検査を受けるという。

これは、上海当局が、上海のゼロコロナ政策を維持しながら人々を職場に復帰させるために奨励しているアプローチであり、中国では違法ではなく、労働組合のプレッシャーも受けないようだ。

次の収益ドライバーに言及

テスラは電話会議でソフトウェア売上がますます重要な利益ドライバーになることを示唆した。年内には、テスラの「完全自動運転」(FSD)パッケージを購入した米国内のすべての人が、自動車の都市内移動を支援するために設計された高度な運転支援機能を利用できるようになる見込みだという。テスラはこの技術の試用版を徐々に公開しており、10万人以上がテストしていると、マスクは最近のTEDインタビューで述べている。このシステムは初期費用12,000ドルで、車を自律走行させることはできない。

一方、テスラが規制当局の壁にぶつかる可能性も否定できない。米当局はテスラの運転支援システム「オートパイロット」をこれまで以上に精査しており、取り締まりの可能性を示唆している。NHTSAは、現在テスラに対して行っている調査で「オートパイロット」に関わる欠陥があると判断した場合、テスラにリコールを命じる権利を有している。

テスラのオートパイロットに対する当局の監視の目が厳しくなっている
米規制当局はテスラの運転支援システム「オートパイロット」をこれまで以上に精査しており、取り締まりの可能性を示唆している。

テスラの自律走行については疑問が残っている。テスラはカメラ映像のみの自律走行を目指しており、それが成就したときの報酬は大きい。しかし、これらは自動車の知覚システムを構築する際にレーダーやLiDARといった入力を放棄し、冗長性を失うことを意味している。同社は秘密裏にLiDAR有りのアプローチもテストをしており、自律走行車による配車事業である「ロボタクシー」を実運用しているWaymoのような先駆者と歩を揃える可能性もある。

テスラの自律走行車はビジョンのみアプローチを継続するか?
LiDARはマスクが言うとおり松葉杖なのだろうか

テスラが多数派と異なりカメラのみに頼った自律走行に固執するのは、イーロン・マスクの「こだわり」によるものと報じられたことがある。エンジニアとマスクの意見衝突はしばしば起き、去ることを選んだ人も少なくなかったようだ。これが今後、自律走行ソフトウェア企業との競争においてどう影響するだろうか。

テスラの「カメラのみ自律走行」堅持はマスクの”こだわり”
テスラが多数派と異なりカメラのみに頼った自律走行に固執するのは、イーロン・マスクの「こだわり」によるものと報じられた。エンジニアとマスクの意見衝突はしばしば起き、去ることを選んだ人も少なくなかった。


マスクは今回の電話会議で「ロボタクシー」の導入についても触れた。今月初めに予告した専用ロボタクシーについて、ハンドルやペダルのない車両が2024年に量産に入ることを期待していると、さらなる詳細を説明した。このような車両での移動は、バスのチケットよりも安価になるとのことだ。

充電ネットワークについても他をリードしている。テスラは米国内の急速充電ネットワークを他のメーカーの電気自動車にも開放するよう取り組んでいると、上級バイスプレジデントのアンドリュー・バグリーノは語った。同社は昨年、ヨーロッパの一部でテスラ以外のドライバーに同社の充電ネットワークを利用させる試験的なプログラムを開始した。

テスラは、業界の多くと同様、電気自動車の動力源である二次電池に使用される原材料のコスト高騰にも悩まされている。電池のサプライチェーンを追跡するBenchmark Mineral Intelligenceによると、リチウムイオン電池のコストのうち原材料が占める割合は、2015年の40%から80%に上昇した。

リチウムの価格が「非常識なレベルになった」と今月初めにツイートしたマスクは、テスラがこの金属の採掘・精製事業に乗り出すかもしれないという考えを改めて示した。

この問題に詳しい人物によると、テスラは何年も前からこの構想をちらつかせており、昨年半ばには米国とアルゼンチンのリチウム鉱山を購入するための取引にさえ近づいていたとのことである。しかし、同社はセダン「モデル3」の生産を優先したため、こうした買収には踏み切らなかったと、その人物は述べている。それ以来、フォード・モーターやフォルクスワーゲンから新参のリビアンまで、自動車会社が野心的な電気自動車の生産目標を達成するために必要な材料を確保しようと躍起になるにつれ、パワーバランスはサプライヤー側に移っている。

Read more

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表 往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史