中国、経済再生のカギとしてテクノロジー業界に再び焦点を当てる
中国政府は、インターネット業界に対する厳しい取り締まりから一転して支援の姿勢を強調している。中国経済がバブル崩壊後の日本のような状態に直面し、習近平政権は経済浮揚のためにテクノロジー企業を必要としているようだ。
中国政府は、インターネット業界に対する厳しい取り締まりから一転して支援の姿勢を強調している。中国経済がバブル崩壊後の日本のような状態に直面し、習近平政権は経済浮揚のためにテクノロジー企業を必要としているようだ。
先週、中国共産党中央政治局は中国のインターネット企業への新たな支援を約束し、彼らの「健全で持続可能な」発展を促進することを約束した。
これは、北京が先週発表した、中国の民間セクターを支援するための31項目の行動計画に続くものだ。これはビジネス環境を改善し、民間企業を国営企業と同等に扱うことを約束した。その施策には、企業の資金調達努力の緩和や海外進出の支援などが含まれる。
これを受けて、普段は目立たないようにしているテンセント創業者のポニー・マーは、新たな政策の方向性を歓迎する長い論説を国営メディアに発表した。スマートフォンメーカー、シャオミの雷軍(レイ・ジュン)最高経営責任者(CEO)は、企業が「質の高い発展」を推し進め、科学技術の現代化に貢献するための「明確な政策シグナル」だと述べた。
いわくつきの人物が「能力主義」で登用される
アリババでは、驚きの人事が実行された。7月21日に発表された年次報告書によると、アリババはグローバルeコマース事業の最高経営責任者(CEO)である蒋凡を、董事会の指名権を与えるパートナーシップに起用した。
蒋凡は不倫疑惑で2020年4月にアリババのパートナーシップの座を失っていた。彼はジャック・マーの有力な後継者候補だったが、この一件でそのチケットを失ったと考えられていた。
この騒動は、後のジャック・マーとアリババの取り締まりの重要な「前奏」となったと考えられている。アリババは、不倫スキャンダルのさなか、蒋凡の妻が行った不倫相手のインフルエンサーの女性を非難する微博(ウェイボー)の投稿の拡散を人為的に止めたとされる。この行いは、共産党の情報統制を軽々と超越したことを意味し、北京ではマーのメディア支配への懸念と不快感が急速に高まったようだ。
多くのメディアビジネスを所有し、オンライン情報空間に強い影響力を持つのは、筆頭株主だったソフトバンクグループ(SBG)と瓜二つの企業構造である。最終的に一連の弾圧の中で、共産党がマーのメディア王国への支配を壊すことで決着した(同様にアントグループの金融事業への支配も失われ、アリババは解体されることが決まった)。SBGは直近の決算で、アリババの持ち株を先渡取引で売ったことを明らかにしている。
「いわくつき」の蒋凡のアリババ中枢への復帰は、マーという習近平国家主席の政敵とつながりを持ち、日本の孫正義ともつながりを持ち、会社の本丸をオフショアに置くことで規制をかわし、公の場で習近平体制に挑戦しうる言動を取った人物の排除と、その人物が支配するアリババ、アントグループ、メディア群の「無力化」が完遂されたことを物語るものだ。
今回の人事は、蒋凡の起業家というよりもテクノクラートとしての力を活用する動きで、一種の能力主義と言えるだろう。昨秋、中国共産党大会で前指導者・胡錦濤を退席させたときとは、政権のやり方が変わりつつあるように見える。
能力主義的な傾向は、先週発表された中国人民銀行(中央銀行)総裁への潘功勝の起用にもみられる。1990年代以降、人民銀総裁任命時に党中央委員でなかったのは潘功勝が初めてだった。習近平が自身に忠誠を誓う信頼できる人物をこの役職にあてるという見方が裏切られた。アジアソサエティー政策研究所の中国分析センターで中国政治を研究するニール・トーマスは、ブルームバーグに対して、景気失速を受け習近平は最近「忠誠心よりも専門知識を優先」している、と語っている。
インターネット業界の取り締まり解除観測には、5カ年計画に基づく科学技術開発の路線変更が関係している可能性も否定できない。北京は、ネット業界のイノベーションが一巡したと考え、優位に立っているEV、再エネを中心に新たな科学技術領域に力点を切り替え、大量のユニコーンを育てていた。しかし、昨今のAIブームによって、テクノロジー業界には今後も巨大な伸び代があると考えを改めたのかもしれない。