インドはアマゾンの新たな黄金郷になるか?

アマゾンは、インドに新たな巨額投資を行うと宣言した。世界の注目を浴びる次の巨大市場で、eコマース、動画配信、クラウドの三本槍は再現可能か。

インドはアマゾンの新たな黄金郷になるか?
Photographer: Nathan Laine/Bloomberg

アマゾンは、インドに新たな巨額投資を行うと宣言した。世界の注目を浴びる次の巨大市場で、eコマース、動画配信、クラウドの三本槍は再現可能か。


アマゾンは先週、今後7年間でインドへの投資を2倍以上に増やす計画であると発表した。アマゾンのアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は、ナレンドラ・モディ首相と会談した後、この計画を明らかにした。

アマゾンの発表によると、同社はこれまでにインドに約110億ドルを投資しており、2030年までにさらに150億ドルを投じる計画。新たな資本の大部分は、インドにおけるAWSの拡大に充てられると考えられる。同社は先月、2030年までに同国のクラウド事業に127億ドルを投資する計画を発表。この投資は、「重要な海外市場であるインドでAWSのインフラを拡大するために使用され、様々な役割で131,700人のフルタイムの雇用をサポートすることが期待されている」という。

アマゾンは過去10年間にeコマースに65億ドル以上を投資したが、AWSへの投資拡大はそれを上回るものだ。

同国eコマース市場で有力な地位を確保

アマゾンは同国のeコマース市場で確固たる地位を獲得した。一時期は「アマゾン対ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義が支援するスタートアップ2社」という構図だったが、孫陣営は急速に資金を燃焼し、事実上の経営破綻常態に追い込まれ、SBGは出口戦略を取った。この間、アマゾンは本国での経験を活かし、物流ネットワークのような現実的な投資に注力し、着実に成長した。フリップカートはSBGと入れ替えでウォルマートがバックに付き、精彩を取り戻し、市場のトップを伺うようになった。

インドのeコマース市場は成長の一途と考えられている。米運用会社のバーンスタインの報告書は、インドのeコマース市場規模はほぼ倍増し、2022年の720億ドルから2025年には1,330億ドルに成長すると予測。現在、インドのeコマース市場では、ウォルマート傘下のフリップカートとアマゾンの2社で約60%のシェアを占めている。リライアンスが3位に続く。バーンスタインは2025年にはこの3社で約90%のシェアを分け合うようになり、米国や中国に並ぶ「世界3大市場」の1つになる、と予想した。

しかし、激しい競争が続いてきたeコマース市場はまだまだ新しい勢力の台頭の余地があるかもしれない。バーンスタインは、リライアンスが傘下の大手小売業者であるリライアンス・リテールの小売ネットワークと通信会社やデジタルサービスを包括的に提供するJioのエコシステムを活用し、最終的にはeコマース市場でトップの座を獲得すると予想した。

このリライアンスは昨年、アマゾンが小売大手フューチャー・リテールを買収しようとしたところを横取りし、アマゾンに敵地の難しさを教えていた。

アマゾン、インドの大富豪に企業買収係争で手玉に取られる
インドの大富豪ムケシュ・アンバニはアマゾンとの企業買収係争で驚くべき戦術を使い手玉にとった。資金繰りに苦しむ地元の小売業者を買収する34億ドルの争奪戦でアマゾンに対し完全に優位に立った。

インドはアマゾンにとって失うことの出来ない市場である。アマゾンは、2023年3月期の国際事業売上高(インドやドイツ、英国などの市場を含む)が291億ドルとほぼ横ばいだった。前年同期の売上高は287億ドル。アマゾンは新興市場への挑戦も行ってきたが、明確な成功事例は、インドのみである(ブラジルが続くかもしれない)。

アマゾンは急成長するインターネット市場で、先進国ではやるビジネスモデルの移植を目論んだが、空転していた。昨年末、アマゾンはSwiggyやZomatoに対抗するためのローカルフードデリバリーサービスAmazon Foodsや、EdtechベンチャーのAmazon Academyなどの垂直事業も閉鎖した。

動画配信サービスをめぐる戦い

ただ、アマゾンの投資意欲は衰える兆候はない。同社はまた、インドで最も人気のある動画配信サービスであるMX Playerを買収する交渉を進めている。data.ai(旧App Annie)の最新レポートによると、MX Playerは月間アクティブユーザー数でインドのアプリトップ10に入っている。また、昨年最もダウンロードされたアプリのトップ10にも入っている。MX Playerは、有名番組を制作している。MiniTVと呼ばれるインドの無料広告付きビデオストリーミングサービスを補完することになる。アマゾンはMiniTVとともに、インドで有料のオンラインストリーミングサービスPrime Videoを運営している。

買収は先進国でアマゾンが提供するサービス群でも再現すること強化する。アマゾンにとって、MX Playerを買収することは、MiniTVと呼ばれるインドの無料広告付きビデオストリーミングサービスを補完することになる。アマゾンはMiniTVとともに、インドで有料のオンラインストリーミングサービスPrime Videoを運営し、NetflixやDisney+ Hotstarと競争している。

地政学もインドに追い風

インドはその巨大な人口規模と、欧米の中国との対立という地政学的力学によって、その重要性が増している。先週のバイデン大統領とモディ首相の首脳会談は、このインドへの追い風を際立たせるものだ。グーグルもアマゾンと同様、首脳会談の後、グジャラート州のグジャラート・インターナショナル・ファイナンス・テック・シティに金融技術センターを開設すると発表した。

米国は経済的な影響力を増すインドに接近している[英エコノミスト]
インドのナレンドラ・モディ首相が今月末にワシントンで迎えるような歓迎を期待できる訪問者はほとんどいない。米国の大統領であるジョー・バイデンは、ホワイトハウスでモディのために正式な晩餐会を開く予定だ。また、両院の議長は、モディ首相を2回目の合同会議での演説に招待している。この訪問は、ホワイトハウスのプレスリリースによれば、「米国とインドの間の深く緊密なパートナーシップを確認する」ものである。 実際、インドと米国のパートナーシップは、これまでそれほど深くも近くもなかった。しかし、米国の指導者たちは、共和党も民主党も、そうであってほしいと願っている。彼らはインドを、中国に対抗するための不可欠な共犯…

Read more

AI時代のエッジ戦略 - Fastly プロダクト責任者コンプトンが展望を語る

AI時代のエッジ戦略 - Fastly プロダクト責任者コンプトンが展望を語る

Fastlyは、LLMのAPI応答をキャッシュすることで、コスト削減と高速化を実現する「Fastly AI Accelerator」の提供を開始した。キップ・コンプトン最高プロダクト責任者(CPO)は、類似した質問への応答を再利用し、効率的な処理を可能にすると説明した。さらに、コンプトンは、エッジコンピューティングの利点を活かしたパーソナライズや、エッジにおけるGPUの経済性、セキュリティへの取り組みなど、FastlyのAI戦略について語った。

By 吉田拓史
宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

Google Cloudは10月8日、「自治体におけるゼロトラスト セキュリティ 実現に向けて」と題した記者説明会を開催し、自治体向けにゼロトラストセキュリティ導入を支援するプログラムを発表した。宮崎市の事例では、Google WorkspaceやChrome Enterprise Premiumなどを導入し、災害時の情報共有の効率化などに成功したようだ。

By 吉田拓史
​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

Google Cloudが9月25日に開催した記者説明会では、イオンリテール株式会社がCloud Runを活用し顧客生涯価値(LTV)向上を目指したデータ分析基盤を内製化した事例を紹介。従業員1,000人以上がデータ分析を行う体制を目指し、BIツールによる販促効果分析、生成AIによる会話分析、リテールメディア活用などの取り組みを進めている。

By 吉田拓史
Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Google Cloudは、年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」で、大規模言語モデル「Gemini」を活用したAIエージェントの取り組みを多数発表した。Geminiは、コーディング支援、データ分析、アプリケーション開発など、様々な分野で活用され、業務効率化や新たな価値創出に貢献することが期待されている。

By 吉田拓史