株価上昇余地の大きい新興企業に即座に移動する米テック人材

シリコンバレーではユニコーン企業や上場企業等の大手の仕事を離れ、アーリーステージのライバル企業に賭ける労働者が増えている。レイトステージ(後期段階)スタートアップの企業価値の低下や新規株式公開(IPO)の現象が背景にある。

株価上昇余地の大きい新興企業に即座に移動する米テック人材
シリコンバレーではユニコーン企業や上場企業等の大手の仕事を離れ、アーリーステージのライバル企業に賭ける労働者が増えている。Photo by Annie Spratt on Unsplash

シリコンバレーではユニコーン企業や上場企業等の大手の仕事を離れ、アーリーステージのライバル企業に賭ける労働者が増えている、と米テクノロジーメディアThe Informationが報じている。レイトステージ(後期段階)スタートアップの企業価値の低下や新規株式公開(IPO)の減少が背景にある。

初期段階の新興企業では、IPOの停滞や大手ライバルの評価額の低下により、技術系社員の採用が容易になっている。好調時に入社し、ピーク時の株価に基づいた株式パッケージを受け取った技術者は、今年入社し、(下がった企業価値を反映した)より多くの株式や低い行使価格のオプションを受け取った同僚よりも立場が悪くなる可能性がある。

食料品配達サービスのインスタカートは、3月に企業価値を38%引き下げ、240億ドルとし、公開市場の企業価値と同程度にした。この動きは、新しい株式交付にもっと上値を与えることによって、採用や定着に役立つと期待していると述べている。

さらに、金利の上昇や、eコマースなどの分野で広く見られた成長率の鈍化は、成熟した企業の評価がすぐには回復しない可能性があることを意味している。

さらにIPOの停滞も、株式報酬やストックオプションの流動化までに時間を要するようにしている。コネチカットに拠点を置くIPO投資管理・調査会社ルネサンス・キャピタルの最近のデータでは、年初から市場デビューした米国企業は20社未満にとどまったことが明らかになっている。

これらを勘案すると、アーリーステージの新興企業で働くことがより魅力的に見えてくるという。また、シードラウンドの規模が大きくなる傾向にあるため、新興企業はより多くの資金を手に入れ、StripeやGoogleのような企業に負けないような給与を提案できるようになったようだ。

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主にシードやシリーズA段階の技術系新興企業を扱う人材紹介会社Build Talentの共同設立者であるJose Guardado氏は、The Informationに対して「計算された賭けをする人が多くなっている」と話っているという。同社によると、職務を満たすのにかかる平均時間は、2020年の約130日から現在は約110日に減少している。

米ベンチャーキャピタル(VC)のGeneral Catalystのエグゼクティブ人材担当パートナーで投資先企業の採用を支援するケイティ・ヒューズ氏は、The Inforamtionに対して「年間報酬が下がったことで、将来のアップサイドを求める意欲が高まった人がいる」と指摘している。

現在のアーリーステージの新興企業は、株式の魅力的なアップサイドに加え、調達する資金ラウンドが大きいため、以前より高い給与を提供することができる。アップルやマイクロソフトと同等の現金報酬を提供することはできないかもしれないが、その差は縮まってきている。

株価が上がらないと従業員を維持できないのは、未上場企業に限らない。アマゾンは、2021年にS&P500が27%上昇したのに対し、アマゾン株はわずか2.4%の上昇にとどまったことで株式報酬パッケージが魅力を失い、シニア従業員の大量離職に直面していた。最終的に基本給の上限を2倍へと増やすことで対応したようだ。

アマゾン、基本給の上限を2倍へ 16万ドルから35万ドル
アマゾンは、ブルームバーグが確認したメモの中で、7日に従業員に対し「今年は特に労働市場の競争が激しかったため、通常の年よりも大幅に報酬水準を引き上げることを決定した」と伝えた。

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

米国人は自動車が大好きだ。バッテリーで走らない限りは。ピュー・リサーチ・センターが7月に発表した世論調査によると、電気自動車(EV)の購入を検討する米国人は5分の2以下だった。充電網が絶えず拡大し、選べるEVの車種がますます増えているにもかかわらず、このシェアは前年をわずかに下回っている。 この言葉は、相対的な無策に裏打ちされている。2023年第3四半期には、バッテリー電気自動車(BEV)は全自動車販売台数の8%を占めていた。今年これまでに米国で販売されたEV(ハイブリッド車を除く)は100万台に満たず、自動車大国でない欧州の半分強である(図表参照)。中国のドライバーはその4倍近くを購入している。

By エコノミスト(英国)
労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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2010年代半ばは労働者にとって最悪の時代だったという点では、ほぼ誰もが同意している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学者であるデイヴィッド・グレーバーは、「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」という言葉を作り、無目的な仕事が蔓延していると主張した。2007年から2009年にかけての世界金融危機からの回復には時間がかかり、豊かな国々で構成されるOECDクラブでは、労働人口の約7%が完全に仕事を失っていた。賃金の伸びは弱く、所得格差はとどまるところを知らない。 状況はどう変わったか。富裕国の世界では今、労働者は黄金時代を迎えている。社会が高齢化するにつれて、労働はより希少になり、より良い報酬が得られるようになっている。政府は大きな支出を行い、経済を活性化させ、賃上げ要求を後押ししている。一方、人工知能(AI)は労働者、特に熟練度の低い労働者の生産性を向上させており、これも賃金上昇につながる可能性がある。例えば、労働力が不足しているところでは、先端技術の利用は賃金を上昇させる可能性が高い。その結果、労働市場の仕組みが一変する。 その理由を理解するために、暗

By エコノミスト(英国)
中国は地球を救うのか、それとも破壊するのか?[英エコノミスト]

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脳腫瘍で余命いくばくもないトゥー・チャンワンは、最後の言葉を残した。その中国の気象学者は、気候が温暖化していることに気づいていた。1961年、彼は共産党の機関紙『人民日報』で、人類の生命を維持するための条件が変化する可能性があると警告した。 しかし彼は、温暖化は太陽活動のサイクルの一部であり、いつかは逆転するだろうと考えていた。トゥーは、化石燃料の燃焼が大気中に炭素を排出し、気候変動を引き起こしているとは考えなかった。彼の論文の数ページ前の『人民日報』のその号には、ニヤリと笑う炭鉱労働者の写真が掲載されていた。中国は欧米に経済的に追いつくため、工業化を急いでいた。 今日、中国は工業大国であり、世界の製造業の4分の1以上を擁する。しかし、その進歩の代償として排出量が増加している。過去30年間、中国はどの国よりも多くの二酸化炭素を大気中に排出してきた(図表1参照)。調査会社のロディウム・グループによれば、中国は毎年世界の温室効果ガスの4分の1以上を排出している。これは、2位の米国の約2倍である(ただし、一人当たりで見ると米国の方がまだひどい)。

By エコノミスト(英国)